参入規制および普及の課題
2012年以降に登録したエコカー639車種のうち、年間生産千台以上の車種は77車種に過ぎないことから、企業乱立が見受けられる。また、エコカーメーカーが車両生産・出荷を優先するため、製品の品質問題も露呈している。中国品質協会が2015年に実施した調査によると、エコカー関連の苦情率がガソリン車の2.4倍に上がり、「航続距離が短い、充電時間が長い、内装が粗い」が主な苦情としてあげられる。さらに、補助金支給をめぐって、グループリース会社への卸売による虚偽取引、補助金受給した車両から電池の不正転売などの問題が多発している。
制度の悪用や品質の低下が懸念されているなか、政府は今後段階的に補助金を引き下げ、2020年以降は補助金支給を中止する方針を明示した。2016年には「エコカー普及車種リスト」を公布し、補助金支給の対象が3,409車種から247車種に減少し、エコカーメーカー90社に対する補助金支給の適正調査も開始した*4。また、政府は2016年8月に設計開発能力、生産能力、アフターサービス・製品安全保障能力などのエコカー参入基準を引き上げ、「2年以内で審査を完了できない既存エコカーメーカーも生産ライセンスの一時停止」と規定した。*5業界ではエコカーメーカー10社を目途に集約するムードが漂っているなか、北京新能源汽車、奇瑞汽車などの5社がすでにライセンスを取得したことから、各社によるライセンスの奪い合いも白熱化すると見られる。
他方、各地の充電スタンド性能の相違や業界標準の未普及がインフラ遅れの一因となっている。2015年末時点、中国の充電スタンド設置台数がエコカー保有台数の8%に過ぎず、一般消費者に普及しているとはいえない。こうした状況下、政府は2020年に充電スタンド480万ヵ所、充電ステーション1.2万ヵ所の設置を目指し、目標を達成した都市に対する補助金枠の積み増しなどのインセンティブを設けている。今後、市場と政府がいかにバランス良く役割分担できるか、具体的にはインフラの整備や消費者市場への浸透がどのように進められていくのかを引き続き注目していきたい。
日系企業の対応
現在、中国ではガソリン車・HEVのコンセプトを超えた新市場の創出、次世代産業育成構想の下、政府主導による「跳び型」発展戦略(HEVを一足飛ばし)が見受けられる。一方、手厚い産業支援策を実施したことにより、地場企業が政策に過度に依存し、R&D能力の向上には負の影響をもたらし、「エコカー開発のバブル」も懸念されている。今後補助金の恩恵が期待できないなか、地場企業はR&D体制の構築に取り組んでおり、品質の向上やコストの削減を図っている。一方、電池・モータ等の基幹部品・部材・システムに関しては、地場企業のR&D能力が弱いため、その大半を外資系企業から調達しているのが実情である。
かかる状況下、中国政府はエコカーおよび基幹部品分野において、外資系企業の進出を合弁形態でのみ可能とする制限を設けている。安川電機が奇瑞汽車と合弁でインバーターやモータ等の電気駆動システムの製造を計画し、パナソニックは北京汽車と合弁でEVエアコンのコンプレッサー生産を発表し、大連でリチウムイオン電池の生産も計画している。また、三井化学によるリチウムイオン電池向け電解液の生産や、日立金属によるネオジム磁石(EV軽量化材)の生産などの合弁事業もリリースされた。
他方、補助金の減少により地場企業の外資系企業に対する価格競争力が弱くなり、エコカー市場のシェアも変化していくと予測される。江淮汽車と合弁事業の模索などに取り組んでいるVWの布陣をみると、合弁パートナーとの協業やエコカーの開発が日系完成車メーカーの喫緊の課題であろう。日系部品メーカーはエコカー分野の強みを生かしながら、現地パートナーの選別や販路の確保など、シナリオを持って中国戦略を描く必要もある。
*1 中国ではエコカーは新エネルギー車(NEV)と呼ばれており、EV・PHV・燃料電池車がNEVの補助金対象となっている。日系企業が得意とするハイブリッド車は省エネ
車と定義され、補助金対象外である
*2 三縦は「燃料電池動力システム」、「ハイブリッドシステム」、「純電動システム」を、三横は「動力電池技術」、「駆動モータ技術」、「電気制御システム」を指す
*3 中国政府が2006〜2020年の間に四段階の企業別燃料費規制(CAFC)を実施
し、100km走るのに必要な燃費が2020年に5.0ℓになる(15年平均は6.7ℓ)と規
定している
*4 2016年9月には金竜聯合汽車等5社の不正に対する処分を公表し、不正金額は
約150億円に上った
*5 工業和信息化部「新能源汽車生産企業及産品准入管理規定」(2016年8月)、「企業平均燃料消耗量与新能源汽車積分並行暫行管理弁法」(2016年9月)による
(図表1)中国エコカー市場(2016年1~11月)
生産 販売
2015年 34 33万台
2016年 45 40
BYD(35%) 北汽(15%) 吉利(14%) 衆秦(8%) 上汽(7%) 奇瑞(5%) 江准(5%) Tesa(3%) 他(8%)
(図表2)世界エコカー販売(2016年1~10月)
BYD 84,291台
テスラ 57,669
日産 47,282
BMW 46,651
北京汽車 36,923
VW 29,139
三菱自 26,511
シボレー 24,534
ルノー 23,780
フォード 20156
https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/world/info/globalnews/pdf/global1701-02_04.pdf
ライセンスとか補助金などと言えば、賄賂と不正が蔓延ることになるのが中国の常である。例にもれずそのような危惧を表明している論考を見つけたので掲載するので一読願う。また次のURLも一読されるとよい。http://diamond.jp/articles/-/104446
日産自・現代自も・・中国の補助金目的の新エネ車販売 不正蔓延る
[ 2016年9月10日 ]
中国政府は、車両排ガスや工場煤煙による大気汚染対策から、また、中南海の住民も鼻毛が伸びてしょうがないことから、20年までに新エネ車のEVを500万台普及させ、充電網も完成させる方針。
ただ、充電網はまだ普及段階であり、都心部でも充電設備が不足している。それを補うのが、電気での航続距離の伸びるPHVであり、充電設備不足を解消する新エネ車と位置づけている。
政府は、新エネ車(EV/PHV)を普及させるため、各種メリットのほか、高額の補助金を購入者に対して支給している。
その補助金をめぐり、多く不正が蔓延っていると、当局が今年2月から調査に乗り出していた。
中国の新エネ車(EV/PHV)販売の昨年比較 単位:万台 |
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2015年 |
2016年 |
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万台 |
EV |
PHV |
万台 |
EV |
PHV |
1~7月 |
8.9 |
5.5 |
3.4 |
20.4 |
15.2 |
5.2 |
前年比 |
|
|
|
129.2% |
176.4% |
52.9% |
年計 |
33.1 |
24.7 |
8.4 |
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中国財政省は2016年2月から、エコカー普及のために政府が給付している補助金の詐取行為に対する一斉取り締まりを開始した。北京、上海、江蘇など全国25省・直轄市で来月下旬まで実施すると2月3日付人民日報などが伝えた。
2013~15年度に政府補助金を受けたエコカーメーカー全90社と、エコカーを購入した企業や事業体、補助金給付にかかわる地方政府の担当部門が対象。
9月8日、中国財政省はEV/PHVを対象とした補助金制度を悪用し、約10億元(約153億円/15.370円)を違法に受け取っていたとして、国内会社5社の生産ライセンスを取り消し及び罰金を発表した。
9月8日~9日、中国国営メディアは、エコカー補助金不正需給問題が拡大し、日産自動車、現代自動車、吉利汽車(シーリー)、安微江准汽車(JACモーター)、比亜迪(BYD)の子会社などを含む20社の関与を指摘している。
<不正検査内容>
1、メーカーが、補助金を受ける際に提示したデータや電気自動車(EV)電池の調達数と販売数が適切かどうか、
2、車両販売数に虚偽がないか、
3、不適切な車両の買い戻しを行っていないか、
4、虚偽の取引や販売価格の偽装が行われていないか
などを調査し、違反行為があれば厳しく処分する。
5、一部メーカーが、補助金取得目的で、はじめから市場に出す予定のない低品質の車両を量産し、グループのリース会社に販売した形にして補助金を詐取したり、
6、補助金を受給した後に車両から電池を取り出して再利用するなどの不正が横行している
との指摘されている。
楼継偉財政相は1月、エコカー補助政策を20年以降に廃止する方針を表明。補助金の詐取行為を厳しく取り締まる考えを示していた。
<EV/PHV販売台数>
中国自動車工業協会によると15年のEVとPHVの販売台数は33.1万台で世界一となった。
今年も1~7月までの新エネ車合計は前年同期間比で29.2%も増加しており、普及に勢いが付いている。
2015年は33.1万台を販売されたが、バスなどの商用車が12.4万台で占有率は37.4%だった。
バスに対するEV補助金は、中央政府と地方政府からそれぞれ30万元の計60万元が支給されるという。
なお、韓国勢蓄電池大手のサムスンSDIとLG化学は、中国当局が新たに設けた蓄電池の認定を受けられずにいる。理由は、バスの炎上事件、その原因だった蓄電池の仕様が、三元系バッテリーで、両社も仕様が同じだったことによるもの。
そのため両社は中国当局に対して何回も審査に出しているが、認証を受けられず、現在も補助金対象から除外されている。
中国では、EVに両社の蓄電池が搭載されなくなっている。
認証の別の事由では、THAADミサイルの韓国配備方針への報復とも見られている。
EVの場合、車両価格に占める蓄電池の価格は1/3以上とされ、蓄電池が補助金対象でなければ、車両メーカーは当該電池を採用できない。
ただ、外国勢系で現在までに認められているのは2社あまりで、純国産の保護貿易主義の観点から除外したものとも見られている。
2016年 新エネ車販売推移 :万台 |
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|
計 |
EV |
PHV |
1~2月 |
3.5 |
2.4 |
1.1 |
3月 |
2.3 |
1.8 |
0.5 |
4月 |
3.1 |
2.4 |
0.7 |
5月 |
3.5 |
2.6 |
0.9 |
6月 |
4.4 |
3.4 |
1.0 |
7月 |
3.6 |
2.6 |
1.0 |
1~7月計 |
20.4 |
15.2 |
5.2 |
・新エネ車が売れるのは、大気汚染対策の国の政策、補助金が出ることと、抽選なしのプレート取得およびプレート取得代(ガソリン車8万元)免除などある。 |
http://n-seikei.jp/2016/09/post-39610.html
さて、一つ前の論考の図表2のエコカーの台数はほとんどがEVかPHVであり、その意味でFCVのトヨタの名前はない。FCVは中国ではこれからと言うよりもかなり先のもので時機尚早なのである。これがEV系のエコカーを持っていないトヨタの悲哀である。先ごろPHVを出したとはいえ、相当出遅れていることには間違いない。中国でのVWとの差を挽回することは、当分の間できないのではないのかな。小生は、中国ではそれほど気張る必要はないものと思ってはいるが、特に大気汚染問題が深刻なのでCO2を出さないEVは必須のエコカーとなるのである。
(続く)