続続・次世代エコカー・本命は?(41)

日産、"自動運転"を「セレナ」に搭載する意味 普及価格帯で世界初も、ジレンマとの戦いへ

木皮 透庸 :東洋経済 記者   20160716日   

 

主力車種である新型「セレナ」に、普及価格帯として世界初となる自動運転技術搭載(撮影:尾形文繁) 日産新型セレナ

 

「自動運転の技術で安心、安全、快適な空間を提供する。世の中にこの価値を問うていきたい」

日産自動車は国内自動車メーカーとして初めて、自動運転技術を搭載した自動車である新型「セレナ」を8月下旬に発売する。13に開かれた技術説明会で研究開発部門トップの坂本秀行副社長は胸を張った。

日産にとって自動運転技術は、排出ガスを出さない電気自動車と並び、研究開発の最重要テーマだ。国内市場向け車種のフルモデルチェンジも201312月発売のSUV「エクストレイル」以来、実に28か月ぶりとなる。足元では三菱自動車から供給を受ける軽自動車の燃費不正問題で厳しい戦いを強いられている国内販売を浮揚させる点からも絶対に失敗が許されない。

テスラの死亡事故で関心が高まる

今年(2016)5自動運転中だったテスラ・モーターズの車両が米国で死亡事故を起こしたことが判明。自動運転の安全性に対して社会の関心が高まり、今回の日産の説明会はメディアの注目を集めた。現地の報道ではテスラ車のユーザーがDVDを見ていた可能性も指摘され、米国運輸当局が調査中だ。

この事故を受け、今月6日、国土交通省警察庁は現在実用化されている「自動運転機能は「運転支援技術」であり、機能を過信せず責任を持って安全運転を行うようドライバーに呼びかけた。国内自動車メーカーと輸入車ディーラーに対しても自動車ユーザーへの十分な説明を求めた。

こうした動きに日産も敏感に反応した。説明会では「自動運転技術」と銘打ったが、質疑応答の時間では坂本副社長が開口一番、「自動運転の意味は運転支援技術であり、全ての状況をカバーできるわけではない」と断りを入れた。一方で「ドライバーの不注意や操作ミスで起きる事故の防止に大きく貢献できる」と新技術のメリットも強調した。

 


フロントウインドウの上部に単眼カメラが設置されている(撮影:尾形文繁)

日産が開発した技術「プロパイロット」は高速道路の単一車線において、時速30100キロの範囲内で前方を走行する車との車間距離を保つ。具体的にはフロントウィンドウの上部に設置した単眼カメラ画像処理ソフト道路上の白線前方の車両を認識し、ハンドル、アクセル、ブレーキを自動制御する。

ドイツのメルセデスアウディでも前を走る車の自動追従技術は既に実用化しているが、普及価格帯への搭載は日産が世界初となる。自動運転機能付きモデルでも300万円以下に抑えるという。セレナはトヨタノアヴォクシー、ホンダのステップワゴンとミニバン市場で競合する日産の主力車種だ。2015年には62000台近くを販売している。

自動車メーカーは一般的に新技術を高級車種から搭載した後、量販車種に広げていく。今回、日産があえて普及車種から搭載していくところにこの技術を普及させたいという強い意志が感じられる。日産は2015年から歌手の矢沢永吉をテレビCMに起用し、「やっちゃえNISSAN」をスローガンに自動運転技術への取り組みをアピールしてきた。ただ、CMで使ってきた「自動運転」という言葉の意味や、その技術が一体どんなものか、消費者の理解が進んでいるとは言い難い。

販売店に対して研修を徹底

日産もこの点は重々承知。CMに見られる積極的な姿勢とはうって変わって、実際の販売は慎重に進める考えだ。同社では新型車の販売前には通常、各販売会社から1名ずつ営業の代表が参加する研修会を行うが、新型セレナの研修では全販売店から1名ずつが参加している。その数、実に2000人弱に上り、全体では3週間をかける。開発者が講師陣となり、実車を用いて、雪道や霧、西日を受けた状態など、カメラの性能限界からプロパイロットが作動しない状況について詳細に説明しているという。

開発幹部は「今までは良いことばかり言ってきたかもしれないが、実際の販売ではお客様と正確にコミュニケーションを取ってもらうよう配慮している」と話す。


新型セレナに試乗。自動運転中もドライバーはハンドルに手を添えている必要がある(写真:記者撮影)

セレナに搭載される「プロパイロット」では、安全に使ってもらうため、ドライバーはハンドルに手を添えていることが求められ、手を離すと5秒ほどで音とディスプレイで警告が出る。さらに10秒経過すると自動運転モードは解除される

日産はこの技術を今後欧米や中国向けの新型車にも搭載する。さらに2018年に高速道路の複数車線、2020年に市街地の走行が可能な自動運転技術を市場投入する計画だ。いずれも事故時の責任はドライバーにあるという前提で開発を進める。

居眠り、脇見運転の感知も必要


自動運転中のモニター画面(写真:記者撮影)

三菱総合研究所の杉浦孝明主席研究員は、「自動運転技術によりドライバーの注意低下を招いて新たなリスクを生むようなことがあってはならない。ドライバーの注意力を認識する機能はこれから必須になる」と話す。

プロパイロットは、ドライバーの居眠りや脇見など不注意運転は感知できない。日産も今後の開発ではドライバーの監視機能を強化する考えだ。

新技術の普及には一定のリスクが伴うのが常だ。リスクを超えた自動運転機能のメリットを日本の消費者や社会にどれだけ訴求できるか。新型セレナは重責を背負っている。

http://news.goo.ne.jp/article/toyokeizai/business/toyokeizai-127629.html?page=3

 

 

自動運転と電気自動車との相性は良い、と言われている。日産は量産EVとしては世界で初めて2010.12月にリーフを世に出している。

 

世界初めてと書いたが、実際には三菱自動車i-MieVの発売が、リーフよりも早い2010.4月でこれが世界初である。まあ三菱のi-MiEVはあまり売れていないし、そのうち日産のEVに吸収されてしまう可能性も大なので、日産リーフが世界初とでも言っておこう。

 

日産にとっては久々に「ノートe-POWER」で大当りしているが、それまでそれほど耳目を集めた技術を盛り込んだクルマの発売はなかったのだ。

(続く)