続続・次世代エコカー・本命は?(60)

まあこの記事は2015年のものであるが、2016~2017年にかけては少し事情が違ってきている。

 

FCV普及でも先行く米国 水素インフラ集中整備
先進地カリフォルニアをルポ

2017/1/26
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

 環境問題への意識が高い地域として知られるカリフォルニア州。ここで水素ビジネスが黎明(れいめい)期を迎えている。再生可能エネルギーで生産した水素を自動車の燃料として供給する仕組みが整いつつある。温暖化ガス削減が求められるなか、日本が追いつくには何が必要なのか。現地取材をもとに探った。

 「映画の街」ハリウッドのガソリンスタンドに自動販売機と同じくらいの大きさの青い箱が置かれていた。米ベンチャーファーストエレメントフューエル(FE)201610に設置した水素ステーションだ。

日本の4倍強

 燃料補給に訪れる燃料電池車(FCV)は「少なくとも1日8~10」(現地の担当者)。日本の平均的な水素ステーションの4倍強だ。

 カリフォルニア州は自動車の販売台数が米国で最も多い州であり、厳しい排ガス規制も敷かれている。世界の自動車メーカーは最新のエコカーを優先して投入しており、これまでに販売されたFCVの台数は1000を超える。そのためのインフラ整備も活発だ。


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 FE社が設置したような商用の水素ステーションは、15年には州全体で2カ所しかなかった。それが16年秋には23カ所に増えていた。17年には50カ所を超えるとみられている。

 16年秋の時点では、水素ステーションの設置数で、日本は約80カ所でカリフォルニア州を上回る。FCVの累計販売台数もカリフォルニア州と同じぐらいだ。

 

     2016年時点   
(注) FCV   H2 ST.     2030年時点

加州 1,000台  23箇所

日本 1,700台  90箇所→ 80万台 900箇所

 だが、カリフォルニア州政府は、日本とは異なり、ある工夫を凝らしている。「小さな成功」の積み上げだ。

 ロサンゼルス市内のホテルから空港へ移動する道すがら、トヨタ自動車のミライなどFCVを数台見つけることができた。日本ではFCVを見かけるのはまれで、1日に複数台と出くわす可能性はほとんどない。

 この差はどこから生まれるのか。業界団体が水素ステーションロサンゼルス市内に集中させるという計画を立てて整備を進めているからだ。一方、日本はステーションが4大都市圏に分散している。関東地区には35カ所あるが、東京の郊外を含めた数字だ。

 カリフォルニア州では、水素ステーションの大半がロサンゼルス市内にある。局所的ではあるが、インフラ整備がFCV普及を促し、それがインフラ整備を加速させるという好循環が起きている。1612月にはホンダがロサンゼルスで新型FCVのリース販売を始めた。

建設助成手厚く

 都市部から始まった小さな成功は、州全土に広がろうとしている。ネバダ州との州境の近くやメキシコに近いサンディエゴでも商用の水素ステーションが稼働している。FE社はワシントンで米エネルギー省と共同で実証実験用のステーションの運営を始めた。西海岸での成功モデルを東海岸で再現する狙いだ。

 燃やしても二酸化炭素(CO2)が発生しない水素は、環境に優しいエネルギー源として注目されている。

 だが、現時点では、天然ガスから製造するのが最も安く済むため、製造の過程でCO2が発生してしまう。再生可能エネルギーで起こした電気などで作る「CO2フリー」水素でなければ、温暖化ガス削減への貢献は限定的になる。

 カリフォルニア州はこの点でも日本より数歩先を行く。FCVに供給する水素の3分の1以上をCO2フリーにすればステーションの建設費85%を州が助成する。運営費についても最初の3年間は全額を肩代わりする。

 企業も本気だ。仏エア・リキードのドワイト・ズック水素エネルギー部門長は「供給する水素の半分を20年までにCO2フリーにしたい」と表明している。

 ステーションを運営するFE社もCO2フリーの水素の調達を増やすつもりだ。シェーン・スティーブンス最高開発責任者は「従来のガス会社とは考え方もやり方も変える」と意気込む。廃棄物などを微生物で分解して得るバイオガス、豊富な土地や日照を活用した太陽光風力などを元にした電気で作った水素の活用を検討している。

日本は整備息切れ、価格・安全対策に課題

 日本の水素インフラの整備は息切れの様相だ。「16年3月末までにステーション100カ所」という目標は達成できなかった。経済産業省16年度にステーションの整備補助事業として約60億円の予算を確保したが、使い切れないまま年度末を迎えそうだ。経産省の担当者は「商用として適切な用地の確保が難しいようだ」と説明する。

 国内でステーションを整備する企業の担当者は「水素価格が安すぎるのも要因」と指摘する。日本では1キログラム約1000で、経産省が発表した20年ごろの目標価格に事業者がならった。この価格は産業用水素ガスより安く、利ざやが薄い。

 カリフォルニア州の水素価格は1キログラム約1900で日本の2倍近い。ステーションの運営会社が利益を得やすい水準だ。FCVの利用者に対し、自動車メーカーが最初の3年間は水素の代金を全額負担する制度もある。

 カリフォルニア州水素ステーションの建設費用は日本の半分程度の2億~3億円。FE社のステーションは従業員の立ち会いが不要で、24時間セルフサービスで利便性も良い。担当者に「水素が漏れたりするようなトラブルは起きていないのか」と尋ねると、「一度もない」との答えが返ってきた。

 水素ステーションに詳しいある日本企業の関係者は「FE社の機器は小さく、温度や圧力の制御も厳密ではない。(安全への規制が厳しい)日本で同じことができるとは思えない」と語る。安全対策とコスト低減の両立は、普及への課題だ。

 国土が狭い日本で大量のCO2フリー水素を製造するのは難しい。円滑に流通させるには、海外から輸入するしかない。経産省のロードマップでは、水素の貯蔵や運搬の技術を確立できるのが30年、経済性と環境性を両立した水素製造は40年。いずれもはるか先だ。

 大和総研の大沢秀一・経済環境調査部主任研究員は「インフラ投資が進まないなら、FCV購入の補助金を上積みすべきだ」と語る。FCVが増えれば水素ステーション利用率が上がり、インフラ投資への意欲も高まるという。

国内水素ビジネス 東京五輪が正念場

 東京を水素社会のショーケースにしよう――。燃料電池車(FCV)を世界で初めて市販化した日本では、2020東京五輪パラリンピックに向けて関連産業の種まきが進む。ただ、FCVの市販直後に比べて、消費者の関心が薄れるなど減速感も強い。産業として確立するためにも、官民の本気度が問われている。

 福島県内で、世界最大の水素製造装置建設が動き始めている。東芝東北電力岩谷産業新エネルギー・産業技術総合開発機構NEDO)などが太陽光で作った電気から、FCV1万台分の燃料に相当する900トンの水素を作る。

 作った水素は貯蔵や輸送が容易なエネルギーとして、トレーラーなどで都内に輸送する。20年にプラントを稼働し、五輪開催時に都内で走る燃料電池(FC)車両の燃料で使うもくろみだ。

 また、都は東京五輪の選手村の住戸で家庭用燃料電池エネファーム配備するほか、FCVを6千台、FCバスを100以上走らせる計画を掲げている。トヨタ自動車は年内にFCバスを市販化し、都交通局が路線バスとして2台導入する予定だ。

トヨタが市販化を予定している燃料電池バス

トヨタが市販化を予定している燃料電池バス

 「水素は政策的後押しで手が届くエネルギーになった。再生可能エネルギーの調整弁になることも五輪で訴え、産業を作っていきたい」。小池百合子都知事は意気込む。

 ただ都の構想に対し、事業者や消費者は、FCV「ミライ」が発売した2年前の熱気はない

 昨年1129日に都が開いた「水素社会の実現に向けた東京推進会議」。委員の1人である、ガソリンスタンド(GS)運営、垣見油化(東京・千代田)の垣見裕司社長はこう発言した。「業界向けに2年前は水素をテーマに2時間の講演依頼があった。今は10分も話せば十分といわれる」

 会議では水素エネルギーの今後を危ぶむ声が相次いだ。「大量輸送の前に、需要と供給のバランスが先だ」(神戸製鋼所)、「20年までにFCバス用の水素ステーションは着実に整備できるのか」(トヨタ自動車

 水素ステーション設置には、道路から距離をとるなどの規制が多い。国には規制緩和を求める声が強いが、この2年間で目立つ進捗はなかった。ガソリンスタンドの5倍とされる設置コストもネック。普及を促すには助成拡充も期待される。

 官と民の取り組みは、鶏と卵の関係だといえる。五輪開催時に遺産(レガシー)を残せなければ、水素エネルギーは過去に何度か訪れたブームの繰り返しで終わりかねない。

(大阪経済部 岩井淳哉、企業報道部 榊原健)

日経産業新聞2017年1月26日付]

http://www.nikkei.com/article/DGXKZO12113100V20C17A1X11000/?df=3

 

 

まあ日本の場合は「東京オリンピックパラリンピック2020」があるから、水素社会への起爆剤とはなりやすいのではないのかな。何れにしても、福島県では太陽光で作った電気で水を電気分解して水素を年間900トンも作る設備が建設されていると言う。なんだか頼もしい限りであるが、水素社会への動きを強めてゆきたいものである。

(続く)