続続・次世代エコカー・本命は?(69)

 「ペンタゴン(米国防総省の本部ビル)の3倍以上のサイズになる世界最大の工場で規模のメリットを追求し、電池を低コスト化する。長距離走できる電気自動車(EVを安価にして、みんなの手が届くようにしたい」。Musk氏はこう強調した。

 「電気をためてクルマが走る時代が来る。社会を変えるためには電池をいかに有効活用するのかが大事で、だからこそパナソニックGigafactoryへの投資を決断した」と津賀氏は語った。

図3 TeslaのElon Musk氏(中央)とパナソニック社長の津賀一宏氏(右)。Gigafactoryの稼働開始を満面の笑顔で祝った

3 TeslaElon Musk氏(中央)とパナソニック社長の津賀一宏氏(右)。Gigafactoryの稼働開始を満面の笑顔で祝った ギガファクトリー-DSXZZO1234576031012017000000-PN1-15

全世界のLiイオン電池生産能力に匹敵

図4 小型セダンのEV「Model 3」。現在のTeslaの主力車と比べて半額で、EVの普及を一気に加速させる可能性を秘める

4 小型セダンのEVModel 3。現在のTeslaの主力車と比べて半額で、EVの普及を一気に加速させる可能性を秘める ギガファクトリー-DSXZZO1235197031012017000000-PN1-14

 Gigafactoryへの総投資額は50億ドル(約6000億円)で、パナソニックの投資額は1500億~2000億円程度になるとみられる。現在は工場全体の約30%が完成した段階で、今後も追加投資して生産能力を順次拡大し、2018年までに電池セルの生産能力を年間35GWh(ギガワット時)に引き上げる。この生産規模は「Gigafactoryを除く全世界で生産されるリチウムイオン2次電池の総量に匹敵する」(Tesla)という。

 同工場が生産する電池は、まずTeslaが開発した家庭用や業務用の蓄電池Powerwall 2」「Powerpack 2」向けに供給する。その後、Tesla2017年半ばに量産を開始する予定の小型セダンのEVModel 3向けに供給する計画だ(図4)。

 「2170」と呼ばれる直径21×長さ70mmの円筒型電池で、現在の主力車である中型セダンの「Model S」や多目的スポーツ車SUV)の「Model X」向けの直径18×長さ65mmの電池「18650」よりも一回り大きい。セル当たりの容量を高めるのと同時に生産効率も向上させられるとする。Model 3のベースモデルの価格は35000米ドル(約416万円)から。Model SModel Xの半額程度の水準になる。

 EVの低コスト化のカギとなるのが、部品コストで最大とされる電池コスト。電池コストを大幅に引き下げるうえで、Gigafactoryが重要な役割を果たす。集中生産で規模のメリットを追求することに加えて、パナソニックなどの電池メーカーや材料メーカーと協業して、材料から電池セル、電池パックまでを一貫生産することにより、バッテリーパックのkWh当たりのコストを30以上削減する。

 電池コストの低減で車両の本体価格を安くしつつも、Model 31回の満充電で走行可能な距離(以下、航続距離)を215マイル(346km)以上にする予定。EVの課題とされる航続距離を十分に確保している。

 Model 3は既に37万台以上の予約を獲得。米国での予約金は1000米ドル(約12万円、日本では15万円)で、新規予約する場合の引き渡し時期は2018年半ばごろを見込む。

電池から車体まで一貫生産に現実味

 好調な予約を受けて、TeslaModel 3の量産拡大を当初計画から前倒しする。カリフォルニア州フリーモント工場では、EVの生産能力を2018年にも年間50万台に高める。フリーモント工場はTeslaが買収する前は、トヨタ自動車と米General Motorsの合弁工場「NUMMI」だった。当時は年間50万台規模の生産能力を持つ工場だったため、Model 3の増産は十分可能とみられる。

 ただし、2019年以降にModel 3などの販売が順調に拡大すれば、EVのより大きな生産能力が求められる。

 その際に視野に入ってくるのが、GigafactoryでのEV完成車の生産だ。Musk氏が目指すのは、「材料段階から電池などの主要部品を製造し、完成車に組み立てた上で、それを展示するショールームにもなる工場だ。将来的にはEVの完成車を生産する可能性がある」(TeslaGigafactory担当の幹部)。

 実際、TeslaGigafactoryにおいて、電池に加えてModel 3向けのDrive Unit駆動ユニット)、モーターなどの中核部品も生産することを決めた。当初は同工場で「電池のみを生産する計画だったが、電池の生産ラインを工夫することでより狭い面積に生産設備を配置することが可能になった」(同幹部)という。

 こうした工夫でスペースに余裕が生まれ、そこを使って他の製品を生産することが可能になる。現時点のGigafactoryの敷地面積176000m2(平方メートル)超、延べ床面積455000m2は、前述のように工場全体が完成した際の3割弱に過ぎない。将来的に電池をフル生産するようになっても、電池以外を生産できる十分なスペースを確保できるメドがついているという。

 Gigafactoryで電池セル、電池パック、モーター、駆動ユニットなど基幹部品を生産する以上、スペースに余裕があれば、完成車も製造した方が効率は高められる。

試されるものづくりの力

 GigafactoryTeslaパナソニックの命運を左右する工場といえる。Teslaにとっては年間50万台規模の生産を目指すEVの低価格化に、Gigafactory製の電池が必要不可欠だからだ。同社初の普及価格帯のEVの成否は、高性能な電池を安価に生産できるかどうかにかかっている。

 パナソニックにとっても数千億円規模の巨額投資は、プラズマテレビ以来の大きな“賭け”だ。EV向け電池でも韓国のLG ChemSamsung SDIとのグローバル競争が激化する中、パナソニックTeslaと組み、シェア世界一に向けて、リスクをとって攻める。

 もちろん従来の18650と比べてサイズが一回り大きい2170の電池の量産をかつてない規模で短期間に立ち上げるのは容易ではない。クルマは高い安全性が求められるだけに、高い品質を確保することも不可欠だ。

 EV完成車の生産立ち上げもハードルは低くない。2016年で生産規模8万台弱の自動車メーカーであるTeslaが、一気に年間50万台まで量産規模を拡大することになる。実際、TeslaModel Xを立ち上げる際には、フリーモント工場で量産を軌道に乗せるのに苦労した。

 リスクが大きいことは否めないが、成功した場合の果実もまた巨大だ。「世界中のクルマをEVにする」というMusk氏の究極の野望に向けて、世界でEVが普及する起爆剤になる可能性を秘めている。

 その成否のカギを握るのが高い品質を確保した上での早期の量産立ち上げ。まさに両社のものづくりの力が試される正念場を迎えようとしている。

日経ビジネス 山崎良兵)

[日経ものづくり2017年2月号の記事を再構成]

http://www.nikkei.com/article/DGXMZO12343160R30C17A1000000/?n_cid=MELMG005

(続く)