日本人には、元々嫌韓・反中感情が強く根付いていた
日本にも、根強い嫌韓感情がある。反中感情はそれ以上に強い。韓国や中国を強く批判する雑誌や書籍は、どうも売れ行きがいいようだ。
戦争を知る最後の世代として、僕は嫌韓・反中感情がエスカレートしていくことに強い懸念を抱いている。
1931年、満州事変という出来事があった。日本の満州駐屯軍、いわゆる関東軍が南満州鉄道を爆破し、その罪を中国軍にかぶせて、満州の大部分を占領してしまったのである。
どう考えてもおかしな話だが、当時の日本の各新聞はこれに大賛成し、国民も賛同した。
さらには、今もなお日韓関係の禍根となっている1910年の日韓併合についても、日本ではマスコミも国民も大賛成していた。
1937年に始まった日中戦争も同様である。当初、近衛文麿首相(当時)および彼のブレーンであった昭和研究会は、この戦争に強く反対していた。近衛首相は、この戦争を一刻も早く止めるべく、広田弘毅外相を駐華ドイツ大使であるオスカー・トラウトマン氏の下へ派遣し、解決を働きかけたのである。
ところが、同年12月には南京が陥落してしまった。そのまま日本は日中戦争へと向かってゆくのだが、マスコミも国民もみんな「戦争賛成」だった。
どうも、日本人のどこかに「韓国や中国を叩きたい」という気持ちが根強くあるようだ。その傾向は、近年徐々に強まっている。大戦直後は、「戦争は間違っていた。周辺国とは仲良くすべきだ」と多くの日本人が思っていたが、戦争を知らない世代が増えてくるにつれ、嫌韓・反日感情が再び強まってきたと感じるのだ。
安倍首相も同様である。1954年生まれの安倍首相は「戦争を知らない世代」だ。彼を支援している日本会議も、「昭和の戦争は正しかった」と主張する団体である。つまり、彼らは周辺国との友好関係よりも、強硬的な態度を優先しやすいということだ。これは極めて危険な思想であると僕は思う。
特に今は、そういった主張をする方が、国民の支持を集めやすい。そのように主張した本や雑誌もよく売れる。国民にも自民党にも、日韓関係を改善させようという気持ちは、ほんの一部にしかないのである。
抗議はしても、日韓関係の悪化は避けるべきだ
日本政府は、これから韓国に対してどのように対応すべきか。僕は、今回、安倍首相が平昌五輪開会式への出席を決めたことは、非常に評価すべきだと思う。
二階氏も、自民党の総務会長である竹下亘氏も、安倍首相は出席すべきだと主張していた。僕もそう思っていた。
確かに韓国には、国際的な約束である日韓合意を否定するという理不尽なところがある。それは、先にも触れたが、そうせざるを得ない事情があるからだ。
日本はそんな韓国に対し、しかるべき抗議はすべきだと思うが、エスカレートして日韓関係を悪化させてしまうのは極めて愚策である。
あくまでも日韓の間で友好関係を維持することが重要である。日本政府は、その点を忘れてはならない。
以上の点から、慰安婦問題について今はあえて脇に置くのが得策だと思う。政治問題にしないということだ。そうすれば、文大統領は日本に対し、積極的にコミュニケーションをとろうとしてくるだろう。
最も重要なのは、米日韓の連携を強固にすることである。そのことは、文大統領もよく分かっているはずだ。
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田原総一朗の政財界「ここだけの話」
ジャーナリストの田原総一朗が、首相、政府高官、官僚、財界トップから取材した政財界の情報、裏話をお届けする。
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