世界自動車大戦争(23)

高齢ドライバー問題の対策として注目集まる

 そうした中、にわかに社会問題として国民の注目を集めるようになったのが、高齢ドライバー問題だ。

 ここ数年で、免許更新時の認知機能検査を厳格化するなど、高齢ドライバー事故対策が進んだ。さらに今年4月に発生した、いわゆる「池袋高齢者暴走事故」によって、高齢ドライバー問題に対する注目度は一気に上がり、国としては早期に様々な角度からの対策を打ち出す必要に迫られた。

 その対策の1つが「多様なモビリティ」であり、超小型モビリティに関する議論が再び熱を帯びてきたと言える。

 とはいえ、仮に経済産業省が来年度から購入補助金を数万円から数十万円単位で設定したとしても、超小型モビリティが一気に普及するとは思えない

 超小型モビリティ実現に向けた過去10年間の経緯を振り返ると、超小型モビリティを取り巻く社会状況はいまだに大きく変わっていないからだ。

ハンドル形電動くるまいすなどをトヨタは「歩行領域EV」として量産するという 歩行領域


普及を妨げる
2つの大きなハードル

 超小型モビリティが普及するためのハードルは、大きく2つあると思う。

 1つめは、社会受容性だ。「本当に超小型モビリティが社会に必要なのか」という根本的な話である。

 前述したように、全国各地での実証試験で“はっきりとした成功事例”がないのだ。

 その背景にあるのが、軽自動車の存在だ。超小型モビリティを運転するには、普通免許が必要であり、そうなると価格、装備、使い勝手などで“軽自動車にはかなわない”のである。実際にこの言葉を、全国各地の実証現場で筆者自身が関係者から数多く聞いた。運転免許制度の改正についての議論もこれまで産学官関係者の間で何度もあったが、そこまで大きく踏み込む動きは現時点でないように思える。

 また、軽自動車に勝る超小型モビリティの利点としてたびたび挙げられたのが、EVであることだ。近年、中山間地域ガソリンスタンド廃止が相次いでおり、自宅で充電できることのメリットがあると言われている。

 ところが、先日の東京モーターショーでも発表があったように、日産と三菱自動車の軽自動車開発合弁企業「NMKV」が近年中にEV仕様の軽自動車を量産する。そうなると、超小型モビリティの社会受容性に疑問を持つ声も増えるだろう。

 もう1つのハードルが、そうした軽自動車や軽EVと共存共栄するためのサービス事業の確立だ。 一定期間の利用権、所有権と言った意味か。サブスクリプション。↓

 たとえばトヨタは、消費者向けのサブスクリプション、またB2B(事業者向け)やB2G地方自治体向け)など、新車や中古車の売り切り型モデルではないエコシステムをサービス事業として構築することを明らかにしている。

 ただし、その実現に向けては、ディーラーとの協業が必要となる。国内でトヨタと直接資本関係があるディーラーは東京エリアに集中している。いわゆる地場ディーラーが、超小型モビリティを組み込んだ新しいビジネスモデルの構築にどれだけ汗をかいてくれるだろうか?

 筆者は、トヨタの地場ディーラー各社と地方自治体が進めるプロジェクトに深く関わっており、地場ディーラーが抱えている今後のビジネスへの不安も承知している。その上で超小型モビリティは、住民と事業者を巻き込んだ地域社会全体の問題として、今後さらに議論を重ねるべきだろう。

 


トヨタが発表した2人乗り小型EVのインテリア

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異なっていた国と民間の思惑

 超小型モビリティの実用化に向けて、これまでは国土交通省が主体となって全国各地で実証試験を行ってきた。筆者はそれらの現場を取材してきたが、自動車メーカーが開発方針を変えることも多く、その度に担当者から苦しい胸の内を聞いてきた。また、夢破れて開発プロジェクトを中止したベンチャー企業関係者とも、今後の日本における交通のあり方について議論してきた。

 

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/58220?page=1

 

 

 

この論考では、「超小型モビリティが 一気に普及するとは思えない」と、断定している。


(続く)