さてゴーンのレバノンへの逃亡で、この問題は膠着状態に陥ってしまった。当分の間は今以上には進展はないものと思われる。
しかしあくまでも日本政府は、レバノン政府にゴーンの身柄引き渡しを要求し続けるべきである。
この身柄引き渡し要求と、香港政庁の中国への逃亡犯の引き渡し条例との関連について、一言述べてこのゴーンの逃亡問題はひとまず終わりとしておこう。
ゴーンの身柄引き渡しを要求するのであれば、中国が香港へ逃亡犯を引き渡せと言う主張には賛成すべきではないか、と言った主張である。
実は共通点が多い「カルロス・ゴーンと香港」
日産本社(筆者撮影)
カルロス・ゴーン被告のレバノンへの逃亡は2019年最後の大きなニュースとなったが、レバノンと日本の間に身柄の引き渡し条約がないことが、ニュースを大きくした主要因と言える。このニュースを聞いて筆者がすぐに思い浮かんだのは、香港で19年から続く大規模デモの発端となった逃亡犯条例改正案だ。これを含め、ゴーン被告と香港では3つの共通点があった。
「香港のデモ隊支持」と
「レバノンへの身柄の引き渡し要求」は矛盾する
香港のデモに関して言えば、日本人の多くは、香港が中国と逃亡犯条例を結ぶ必要はないと考えるのではないかと思う。中国に身柄を引き渡されたら、身の安全がどうなるのか分からないからだ。条例の改正案は最終的に撤回されたが、この恐怖が香港人を立ち上がらせる一番の要因となった。
一方、ゴーン被告の国外逃亡に関して言えば、「日本政府はレバノン政府と身柄の引き渡し条約を結ぶべき」とか「交渉を開始してはどうか?」という思いが頭をよぎる人が多いのではないか。ゴーン被告が指摘するように「日本の司法制度を改善する必要はあると思う」だろうが、日本人として単純に裁判を受けずに国外に逃亡されたら面白くないと感じるのが自然だからだ。
つまり、第3者の案件だったものが、自国の件になった途端に、その捉え方に矛盾が生じてしまうのだ。香港のデモ隊を支持するのであれば、日本がレバノンと身柄の引き渡し条約を結ぶのを支持するのは変であり、香港政府や中国政府を支持するのであれば、レバノンとの引き渡し条約推進を支持をするのが道理だ。「中国は例外」というような国・地域の違いや、イデオロギーの違いで矛盾を正当化する理由にはならない。日本人1人ひとりが身柄の引き渡しとはどういうものなのか考えることが必要だ。
ゴーンも香港人2人も
長期拘留される
ゴーン被告が日本の司法制度を非難した理由の中に「長期拘留」があった。日本では逮捕から23日間、身体の拘束が可能で、その期間中に起訴すれば、さらに2カ月の拘留が認められ、その後も拘留期間の延長ができる。もし弁護士が保釈請求をしても「証拠隠滅の恐れ」を理由に却下されることも多く、ゴーン被告の場合も保釈されるまで約2カ月間拘留された。
実は香港人も長期間に渡って日本で拘留され、今も裁判が続いている案件がある。18年12月12日、郭紹傑被告と厳敏華被告は靖国神社の参道で日本の戦争責任について抗議し、建造物侵入罪で起訴された。東京地裁は19年10月10日に両人に有罪判決を下し、2人は即日控訴している。前者は雨傘運動では抗議活動に従事し、後者は香港の民間ラジオ局の記者だ(日本人には分かりにくいかもしれないが、雨傘運動で民主化を求める人が、戦争に絡む靖国神社に関しては抗議をするという動きは香港人の中では十分成り立つ)
彼らは10月の判決を迎えるまで度重なる保釈請求を求めたにも関わらず、裁判所は「決まった住所のない外国人で、証拠を隠す恐れがある」などの理由で、いずれも保釈を認めないまま判決に至った。
判決の是非ではなく、外国人であるゴーン被告、郭紹傑被告、厳敏華被告は長期拘留されたという事実。こんなところにもゴーンと香港の共通点があった。
日産の高級ブランド「インフィニティ」は
横浜と香港を往復する形に
日産の高級ブランドに「インフィニティ」があるが、実は12年から中国市場を意識して本社機能を香港に移していた。筆者も現地を訪れ、会議の様子を見たことがあるのだが、アジア、欧米、アラブ、東南アジアなど、さまざまな出身国の人々が集まり、まさにグローバルを象徴するようなメンバーだった。
しかし、インフィニティブランドの電動化を念頭に効率性を更に追求し、日産自動車との連携をより強化するために20年半ばに本社を横浜に戻す事を決定した。
日産の広報によれば、ゴーン被告は大体年に1回のペースで香港を訪れていたそうだが、結局はゴーン被告の逮捕が横浜に戻る遠因になったことは間違いないだろう。香港政府は、世界的企業のアジアの地域統括本部が香港に数多くあると宣伝する事が多い。そう言う意味でゴーン被告に結果的に振り回されてしまった。
香港は東京以上にコスモポリタンな街で、世界経済と密接につながっている。日本も今まで以上にグローバル化が進めば、今回の日本を介した「ゴーンと香港」のように、日本と世界が複雑に絡み合っている事例をより感じる機会が増えていくだろう。
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/18520?page=2
共産党一党独裁の中国が、香港へ逃亡した(中国共産党の定義する)犯人を中国へ引き渡すことを規定した条例を、香港に押し付けようとしたことで、現在の香港の大規模デモが起こっている。
要は、香港へ逃げ込んだ犯罪者を、中国へ引き渡すことを規定した条例を、香港政庁が中国の意思で制定しようとしたことから、香港の混乱は起こっている。
丁度、レバノンへ逃亡した犯罪者のゴーンの身柄を、日本政府がレバノンへ、日本へ引き渡せと要求していることと、将に同じ状況である、とこの論考は言っているのである。
だから香港市民の反対していることは、間違っているのではないかとも考えられる、とこの論考は問題提起しているのである。
しかしこの論理には重大な間違いがあることを、この筆者の「武田信晃」氏は隠している。
共産党一党独裁の中国と、民主国家である日本を含む欧米の民主主義国家との正義の定義がまるで違う事に言及していないのである。
中国の言う逃亡犯は、一党独裁中国共産党の定義する正義に反した犯罪人である。この中国の正義は、民主国民国家の正義とはまるで異なっているのである。中国の言う正義は、普遍的なものではなくて、中国共産党と言う独善的な組織に有利な正義であって、民主的な国民国家での正義とはまるで次元が違うのである。ドイツのナチス政権時代の正義よりも更に強固に民主的な国民の正義を犠牲にするものである。だから香港市民が猛反発したものである。
だからゴーンと香港の逃亡犯条例とは、全く次元が異なるものと理解する必要がある。
銅鑼湾書店事件を見れば、そのことがよくわかる。
この件については、小生のブログ「ならず者国家・中国、アレコレ!(63~69)」(2016.2.24~3.3)を参照願う。
さて銅鑼湾書店事件に言及したところで、このゴーンの逃亡については一旦終わりとして、本来のクルマ関係の話に戻そう。
(続く)