世界自動車大戦争(97)

トヨタは今年の東京オリ・パラで(正確にはオリ・パラの年に)、全個体電池を搭載した電気自動車を初披露すると言っている。

 

 

 

ニュース解説

小型のEVでも500kmトヨタが見据える全固体電池の可能性

2020/01/27 05:00   富岡 恒憲=日経クロステック/日経Automotive
 
 「液系のリチウムイオン電池(LIB)では、(電池パックの体積エネルギー密度で)300400Wh/Lの間にある壁を越えられないと考えている。(1充電当たり)500km走れる小型の電気自動車(EV)を造ることは難しい」。トヨタ自動車で全固体電池の開発に関わる中西真二氏は20201月に開催された「第12回オートモーティブワールド」の専門セミナー「EV進化の鍵となる、革新的電池の開発」に登壇し、液系LIBの限界をこのように指摘した。

 

 

 今の電気自動車EV)は、(1充電当たりの航続距離を延ばすために)電池パックをたくさん積まなければならない。そのため、大型、もしくは全高が高い車両が多いというのが同氏の見方だ。そして、こうした壁を乗り越えるためにトヨタが期待しているのが全固体電池だという。

 「トヨタ2次電池の研究開発では、全固体電池にかなりフォーカスしている」(同氏)。この言葉から分かるように、同社は全固体電池の実用化に本気だ。実際、2008年ごろは革新電池に取り組んでいた電池研究者の多くを、今では全固体電池に振り向けているという。東京五輪パラリンピックの年となる2020、同社は試作した全固体電池を搭載した最初の車両のお披露目を目指す。

 その車両に搭載する全固体電池セルは、ラミネートを採用し、フルサイズと呼ぶEVで使われているLIBと同等の大きさのものになる見込みだ()。固体電解質には硫化物系、正極や負極には既存のLIBで実績のある材料を適用する。

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 図 トヨタ自動車が試作した全固体電池セル
2019
5月開催の「人とくるまのテクノロジー展」に出展した。下から順に、スモールサイズ、ミドルサイズ、フルサイズと推定される。(撮影:日経クロステック)  [画像のクリックで拡大表示]

(略)

 

 

https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00001/03534/?n_cid=nbpnxt_mled_dm

 

 

 

トヨタは今年のいつかには、全個体電池を搭載した電気自動車を発表するらしいが、旭化成の吉野彰氏が「リチウムイオン電池」の実用化でノーベル化学賞を受賞したように、このLIB関係はとても気難しいもののようだ。全個体電池と言っても、正式には「全個体リチウムイオン電池」と言うように、LIB液体電解質を個体にしたもので、正負極と個体電解質の境界面での有様を、如何にコントロールするかと言った難しさが存在するようで、これまた一筋縄ではいかないようだ。

 

そのためCATLなどは、中国政府の後押しを受けてせっせとLIB用の投資を続けているようで、全個体電池は2030年までは造らないと、豪語している。

 

全個体電池では1回の充電で、1000キロメートルの走行も夢ではない、と次の論考では言っているが、それも2030年代のことである、としている。やはりCATLの言うように、全個体電池の実用化は相当時間が掛かるものと思っておくことが肝要か。

 

 

 

全固体電池で1000キロ走るEV 安全で大容量

2019/12/27 11:00
日本経済新聞 電子版

次世代のリチウムイオン電池である「全固体電池」が電気自動車(EV)を一変すると期待を集めている。2020年代前半には製造技術が確立する見通しで、30年ごろには1回の充電で現在の2倍以上にあたる1000キロメートルの走行も夢ではない。発火しにくい全固体電池は安全性の高さに関心が向くが、容量が大幅に増える利点もある。電池切れの懸念を払拭するだけでなく、大きな蓄電池とみなして太陽光発電などの電気をためたり非常用電源に使えたりする。電気自動車が「発電所」になる可能性も秘めている。

 

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開発した全固体電池(松田教授提供)

203×年の連休初日。あなたは東京から大阪まで旅行することに決めた。電気自動車を自宅の電源につなぐと、わずか10分で80%まで充電できた。あとは大阪まで向かうだけだ。全固体電池を積んだ車体は急速充電ができ、1回の充電で1000キロメートルも走る。電気自動車は充電がわずらわしく、街中でしか乗れないと話していたのが懐かしい。家が停電のときは、電気自動車の電気を使い回す。

全固体電池は、主にリチウムイオン電池の安全性を高める発想から開発が始まった。燃えやすい液体の電解質を固体の材料に替え、燃えにくくする。大きな発見もあった。電気をつくるリチウムイオンの動きが速まったのだ。急速充電や容量の大幅向上がにわかに現実味を帯びてきた。

研究に力を入れるのが、2019年のノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏が理事長を務める技術研究組合リチウムイオン電池材料評価研究センターだ。全固体電池の委託事業にトヨタ自動車などの企業と大学が参加する。車載向けの全固体電池の標準の形を22年に完成させる計画を立て、大学などを支援する。

豊橋技術科学大学の松田厚範教授らは固体電解質のイオンの動きをさらに速くできるとにらむ。硫化物の固体電解質イットリウムなどを混ぜると、電解質に空間ができてイオンが動きやすくなった。セ氏50度では電解質の抵抗が10分の1になった。試算では、電池の放電容量は約2.5倍に向上する。

より多くのリチウムイオンを負極にためて電池の容量を引き上げようとしているのが、大阪府立大学の辰巳砂昌弘教授らだ。負極に金属リチウムを使う全固体電池を研究する。電解質に塩素などを混ぜた全固体電池では、電極にからみつくリチウムがそれまでの固体電解質よりも少なくできるめどをつけた。「容量を2倍にできる可能性がある」(辰巳砂教授)と期待する。

甲南大学の町田信也教授らシリコンを使う新たな負極を考案した。シリコンは炭素負極よりも23倍のリチウムイオンをため込めるという。液体のシリコンを使い、負極の劣化を抑えた。

ある調査によると、全固体電池の市場は35年に27千億円を超える。吉野氏は12月のノーベル賞受賞記念講演で「リチウムイオン電池が電気自動車や再生可能エネルギーの蓄電に広く普及する未来社会」を紹介した。全固体電池にかかる期待は大きい。

 

 車載向けの全固体電池は、2011東京工業大学の菅野了次教授トヨタ自動車リチウムイオン電池の性能を引き出す電解質を発表し、本格的に研究が動き出した。日本発の電池の実用化に向けて国も支援し、新エネルギー・産業技術総合開発機構NEDO)は18年から5年間で100億円の予算をつける。
 技術研究組合リチウムイオン電池材料評価研究センターが22年に完成を見込む標準電池は、走行距離に関係する「エネルギー密度」という性能が最新のリチウムイオン電池に近づく。現在の車載用リチウムイオン電池に必要な冷却装置などが全固体電池でいらなくなれば、多くの電池を積める。「1回の充電で500キロメートルは走る車になるのではないか」と同センターの石黒恭生常務理事は話す。ただ、ハイブリッド車などは1度の充電と給油で1000キロメートルを走る車もある。全固体電池でも1回の充電で1000キロメートルを超える性能が目標になる。
 米国や台湾のベンチャー20年代前半の実用化に向けて車載向け全固体電池を研究しており、どの国の電池が市場を握るかは不透明だ。ナトリウムイオン電池など他の次世代電池の研究も活発になり、全固体電池の開発で先手を打てるかどうかが問われる。
(福井健人)

 

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53871420X21C19A2X90000/?n_cid=NMAIL006_20191228_K

 

 

 

現在のリチウムイオン電池は、正極と負極の間に液体の電解質を使っている。リチウムは水と反応する性質を持っているため、その電解質有機溶媒などを使っている。そのため液漏れなどで発火する可能性があるため、厳重に密閉されている。しかも発熱するため冷却装置が必要となり、小型化が難しい電池である。


(続く)