世界自動車大戦争(100)

専門的な表現を使えば、個体電解質と電極の接触面の「界面に抵抗層が形成される。それにより出力密度が2ケタ低下し、車載用の電池としての適用は厳しいと考えられていた。」と言う事である。

 

これは、「日経Automotive」の20189月号の「トヨタの全個体電池P64」に記載されている文言である。

 

ここでは「EV用全個体電池の普及は30年以降」とされているように、課題解決は相当難しくまだ 10年はかかると言う事のようだ。

 

それによると、トヨタは、固体電解質には「硫化物系」を使い、正極には「層状酸化物系(コバルトCo、ニッケルNiマンガンMnなどを含む)」、負極には「炭素系」などを使っていると言う。この電極材はLIBで使われているものと同じである。

 

f:id:altairposeidon:20200324205231j:plain

 

この図で言うと、正極にリチウムイオンが流れていく時に、固体電解質と正極の間に抵抗が発生して、大量のイオンが流れないことが原因だと言う。

 

トヨタは、その内部抵抗は「日経Automotive」の20189月号の「トヨタの全個体電池P67」によれば、次の4点だと解明している。

 

(1) 正極内の正極活物質と固体電解質の界面に抵抗層が生じる

 

(2) 固体電解質が厚くなる(薄くできない)

 

(3) 正負極内で活物質が凝集してしまう

 

(4) 正負極や電解質を構成する個体の粒子間に空隙が生じる

 

 

(1)の抵抗層が生じるのは、正極に含まれる金属元素が硫化物系固体電解質の硫黄Sと反応して、硫化物が発生しその界面に付着するためだと言う。これが抵抗層となって、Liイオンを通さなくすると言う。

 

そのため正極物質を構成する粒子(活物質、イオンを受け渡しする)に、反応しないようにコーティングすることで、反応を防ぐことにした。このコーティングはLiイオンを通すものであり、薄くて(10nm)均一でなければならないと言う。

 

(2)の正負極間にある個体電解質が厚くなってしまうと(と言ってもμ単位だが)、Liイオンの移動に時間が掛かってしまうので、電池容量としては少なくなってしまう。

 

初期は、筒状容器に正極合材(正極活物質、固体電解質、導電助剤)、個体電解質、負極合材の乾燥粒子を充填して、上下からねじ締めで圧縮していたので、厚さを300μ~500μmにするのがやっとだったと言う。

 

そのため各材料粒子を溶媒に溶かして練り状(スラリーと言う様だ)にして、夫々箔の上に塗って乾燥させてから向き合わせてプレスすることにした。

 

1.銅箔に負極合材のスラリーを薄く塗る。(Cu-

2.アルミ箔に固体電解質のスラリーを薄く塗る。(Al-s

3.正極合材も別のアルミ箔に薄く塗る。(Al+

4.これらを乾燥させる。

5.負極合材に固体電解質をむき合わせて重ねる。(Cu-)+(Al-s

6.それをプレスして、固体電解質Al箔をはがす。

7.その上に正極合材を重ねて、ブレスする。(Cu-)+(-s)+(Al+

8.すると下から、銅箔・負極・電解質・正極・アルミ箔の個体電池のセルが出来る。

9.こうすると、固体電解質20μ~50μmの薄さとなる。

 

(3)正負極内で活物質が固まってしまうと、表面積が少なくなってしまうため、Liイオンなどを伝える部分が少なくなってしまうからである。

 

そのため筒Aの中に筒Bがある装置の、筒Bの中に正極合材のスラリーを投入して、その装置を高速回転させる。筒Bには小さな穴が沢山空いていて、そこからスラリーがしみだしてくる。しかし筒ABと密着しているために、活物質の粒子の塊がすりつぶされほぐされて均一となる。

 

(4)正負極内で活物質が均一に存在することになっても、電解質と活物質との接触が密でなければ、Liの伝わり方が弱くなってしまう。そのため、粒子間の空隙を無くすように電極物質に圧力をかけて、粒子を密着させる必要がある。

 

そのブレス方法は、冷間静水圧プレスが一番適している、と言う事である。

Cold isostatic pressingと言うそうで、CIPと呼ばれている。

 

密閉パッキングされたセルを真空にして、水の中に入れて水圧を上げてセルをプレスすると言う方法のようだ。それなりの設備となるが、1.5m角程度の設備でよいと言う。

 

 

以上のような技術が、トヨタが全個体電池をものにするためのものだ、とされている。理系的な表現ではないので、うまく表現できているかわからないが、それなりに「日経Automotive」の20189月号の「トヨタの全個体電池」の内容を(かいつまんで)説明したものである。

 

補足説明、修正・訂正などあれば、どんどんやってほしいと思っている。

 

なんだかわかったような解らないような全個体電池であるが、なんとなく難しいものだと言う事がわかった感じはするものである。特にこんな手法の量産化には、トヨタと言えども、相当手こずるのではないのかな。

 

しかしこうして無い知恵を絞って全個体電池の何たるかを理解しようとしたわけだが、なんとなく本能的に「これは難しいな」と言う感じがしている。トヨタが何を根拠に、「2020年代前半に全個体電池をものにして見せる」と言っているのか解らないが、小生の印象では、試作段階に毛が生えた程度のところに留まってしまうのではないのかな、と感じているのである。

 

従って、かどうかは知らないが、専門家でも全個体電池の実用化は難しいと言っている方もいるようだ。

 

その人は、三洋電機でテスラに18650電池を供給することを決めた雨堤徹氏である。三洋電機パナソニックに吸収されたために、今は同社を退職し自分の会社を立ち上げて技術コンサルタントを営んでいる。

 

 

 

電気自動車の進化に必須といわれる「全固体電池」は実用化できない?

2019年11月19 木野龍逸 167件のコメント

f:id:altairposeidon:20200325155701j:plain

トヨタ2017年の東京モーターショーで、2020年代の早い時期に全固体電池を実用化すると発表。全固体電池は電気自動車の進化のカギになる技術として注目されるようになりました。はたして期待していいものか。電池研究の第一人者である雨堤徹さんに質問しました。

 

全固体電池に「いいところはない」?

先日、テスラ『モデル3』で淡路島へ行ったのは、雨堤さんに取材するためでした。今回の「全固体電池」の話題に加え、「EVリチウムイオン電池の必修知識」についての記事を後日ご紹介する予定です。

雨堤さんは三洋電機時代、後にテスラ車などに搭載されることになるリチウムイオン電池の開発に携わってきました。2010年に三洋電機を退職後、Amaz(アメイズ)技術コンサルテイン合同会社」を淡路島で立ち上げ、原材料から生産まで、電池の技術開発全般にわたる技術コンサルティングを手がけている電池のスペシャリストです。

f:id:altairposeidon:20200325155731j:plain

雨堤徹(あまづつみ・とおる)さん
Amaz
技術コンサルテイング合同会社代表
1982
年に岡山大学修士課程修了(無機工業化学)後に三洋電機入社。2008年に大阪市立大学博士課程修了(基礎電気化学工学)。一貫して電池開発に携わる。米テスラ社の黎明期には三洋電機側の窓口としてリチウムイオン電池を供給する契約を締結。2010年に三洋電機退社後、Amaz技術コンサルテイン合同会社を創業。

雨堤さんに質問してみました!

今、EVに関するテーマでもっとも注目を集めている分野が、全固体電池でしょう。2017年に全固体電池の話題に火を着けたトヨタは、今年6月の技術方針の説明会でも全固体電池に言及。今年9月には、2020年の東京五輪で全固体電池を搭載した電動モビリティを提供することを明らかにしました。

こうしたトヨタの動きに反応する形で、新エネルギー・産業技術総合開発機構NEDO2018年~2022年に100億円を投入する開発プロジェクトを進めるなど、官民挙げての取り組みが進んでいます。

では、全固体電池の何がそんなにすごいのでしょうか。メディアでは、安全性が高まったりエネルギー密度が上がるなどと紹介されることもありますが、雨堤さんはどう見ているのでしょうか。

まずは素直に「全固体電池のどこが優れてるのか」と聞いてみました。即答で返ってきた答えは「優れているとは言い切れない」のひと言でした。



───全固体電池のどんなところが優れているんですか?
優れているとは言い切れないです。何もいいところは説明されていないんです(笑)
───
え?
「みなさんが全固体電池が優れていると思うのは、トヨタがそう言ってるからですよね。トヨタとしては、全固体ができないと使い物になる電気自動車は作れませんよと言いたいのではないでしょうか。いわば、先延ばしのための言い訳とも感じてしまいます。なぜ全固体がいいのかという具体的な理由は、誰も説明していないんです。トヨタは自動車メーカとしては誰もが認める素晴らしい会社ですが、電池メーカーとして素晴らしい訳ではありません」
───
軽くなるという話は。
「なんで軽くなるんですか?(笑)」
───
エネルギー密度が上がるとか……。
「なんで上がるんですか? 上がる理由がないんですよ。エネルギー密度は、下がることはあっても上がることはないです。だって、固体の方が液体より比重が重いでしょ」
───
つまり、電極などの原材料が同じなら何も変わらないということですか?
「そうですね。例えば全固体電解質になることで、今まで使えなかったエネルギー密度の高い正極や負極活物質を使えるようになる、だからエネルギー密度が増えるんですよという人がいれば、『なるほどな』と思うか、『え、違うんじゃないの』っていう判断ができると思うんですけど、そういう話は出ていない。電解質を液体から固体に変えただけでエネルギー密度が増えることなんか、絶対にありえないです。電解質は電気容量を支配できないんです

2016年に開催された『全固体電池最前線』というセミナーでは、ノーベル賞を受賞した吉野彰氏とともに登壇。雨堤さんは今回の話と同じ主旨の問題提起をしたそうです。

f:id:altairposeidon:20200325155803j:plain


(続く)