世界自動車大戦争(107)

 “普通”の中身はいくつかあり、1つは航続距離だ。初代MIRAIに比べて航続距離を3割増しにすることを目標に開発している。2居住性で、特に後席を改良した。(初代は4人乗りだったが)5人乗りにする。足元も広くなっている(2)。

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 2 MIRAI Conceptの外観
低重心で伸びやかな外観デザインを採用した。両寸法は全長4975×全幅1885×全高1470mmで、ホイールベース2920mm。(出所:トヨタ自動車  [画像のクリックで拡大表示]


 3見た目で、かっこいいクルマを目指した。消費者が買いたいと思ってもらえるような外観に仕上げた。(「東京モーターショー2019」で披露した)コンセプト車「MIRAI Concept」は次期MIRAI開発最終段階のモデルで、外観は量産モデルでもあまり変更することはないだろう。

--FCVの普及に向けた大きな課題はシステムコストだ。トヨタは、2020年にシステムコストを初代MIRAIから1/2にし、2025年には同1/4まで低減するというロードマップを持つ。次期MIRAIでは、目標のコスト1/2を達成できるのか。

 ハイブリッド車HEV)では、(初代「プリウス」を発売して以降)ハイブリッドユニットを刷新するごとにコストを半減してきた。台数ベースがHEVと全然違うので難しい面もあるが、FCシステムも同様に世代交代するたびにコストを半分にしていかなければならない。

--コスト低減策の1つとして、HEVと部品を共用することが考えられる。

 PCU(パワー・コントロール・ユニット)とモーター、電池などの主要部品は、実は初代MIRAIの時もHEVの部品を流用していた(3)。量産性の高い部品を使うのがコスト低減に効くことは確認済みなので、(次期MIRAIでも)HEVで使っている部品を採用している。

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3 201412月に発売した初代MIRAI(出所:トヨタ自動車
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--初代MIRAIの航続距離は650kmJC08モード)で、3割延ばすと845kmになる。航続距離を延長するには、FCスタックの効率を高める方法や水素タンクの容量を増やして搭載量を多くする方法などが考えられる。貢献度としてはどちらが高いのか。

 貢献度としては、水素の搭載量を増やした方が圧倒的に大きい。タンク容量を増やして多くの水素を搭載できるようにした。大きなタンクを搭載しても、しっかり居住性を確保できるようにして5人乗りのクルマに仕上げた。もちろん、FCスタックの発電効率も高めている。

--次期MIRAIは後輪駆動になるが、プラットフォームとしては「クラウン」や「レクサスLS」など採用しているFR(前部エンジン、後輪駆動)プラットフォーム「GA-L」という理解でいいか。

 そうだ(4)。初代MIRAIは前輪駆動だった。航続距離の延長や室内空間の拡張、走行性能の向上などを考えて、様々なユニットのレイアウトを検討した。その結果、後輪側にモーターを配置するのが最適だと判断した。

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4 トヨタFRプラットフォーム「GA-L
画像はセダン「クラウン」のもの。次期MIRAIは、後輪側に駆動モーターを配置する。(出所:トヨタ自動車
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--走行中に排ガスを出さない「ゼロエミッション車」を巡っては、欧米メーカーは電気自動車(EVの開発に積極的だ。一方で、EVもコストが下がらず、FCVに期待を寄せる声も増えつつあるように感じる。

 他社がEVに注力している中で、「トヨタはまだFCVを続けるのか?」と言われることもある。それでも、FCVの可能性を見直してもらっているのは事実だと思う。

 理由の1つは、エネルギーキャリアとしての役割。再生可能エネルギーの利用量を増やそうとしたときに、電気は安定供給が求められるが、太陽光発電などはどうしても不安定になる。発電した電力を電池に蓄える方法もあるが、限界がある。

 効率論では、発電したものを貯蔵せずにそのまま扱うのが理想だが、より多くの再生可能エネルギーを計画的に使おうと思うと、エネルギーキャリアとしての水素が重要だ。この点は見直されている。例えば、福島県浪江町では、再生可能エネルギーを利用して大規模に水素を製造する実証が進んでいる(5)。こうした拠点で水素の価値が認められていけば、FCVの存在意義も高まってくるはずだ。

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5 再生可能エネルギーを利用した世界最大級の水素製造施設「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」
2020
37に運用を開始した。新エネルギー・産業技術総合開発機構NEDO)と東芝エネルギーシステムズ、東北電力岩谷産業が、2018年から福島県浪江町で建設を進めてきた。(出所:NEDO
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--欧米の動きを見ていると、大型の商用車へのFCシステムの適用が進みそうだ

 確かに、クルマの大きさや求められる航続距離などを考えると、EVでは難しい領域もある。長距離を走らせようとすると、どうしても搭載する電池の量が多くなってしまう。そうなると車両は重くなり、充電時間も増える。何を運んでいるか分からなくなる。特に人やモノを運ぶ商用車では、いかに稼働率を上げるかが重要で、充電時間が重要なファクターになる。水素供給インフラの制約がなければという前提条件にはなるが、FCVにはかなり可能性がある

 FCVでコストが高くなっている要因は、数(台数)が出ていないことだ。技術的に難しい部分も当然あるが、商用車で何万台もの生産台数を確保するのは難しい。乗用車と部品を共用しながら、コストを低減していくことが必要になる。

 

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00134/031700204/

 

 

 

トヨタは、この「ミライ・コンセプト」を普通のクルマとして消費者に選んでもらえることを念頭に開発した、と言っている。将にその通りで間違いないであろう。狙いは次の三つだと言う。

 

1) 航続距離 +30% 650km→845km

 

2) 居住性の向上 4人乗り→5人乗りへ

 

3) 見た目でかっこよいこと。 2つ前の論考の写真参照のこと。

 

この点一つ指摘したいことがある。

 

普通のクルマ」として消費者に選んでもらえる、と言う事は、単にクルマだけの特性をいうのでは、その要求に対して100%満足できる答えではなかろう、特にFCVでは。


(続く)