世界の流れは、EV化(5)

保護貿易」であるという批判に抗えない側面も

一種の強制力を伴わなければ、事態は大きく変わらない。EU執行部はそのように考えているのだろう。

 

しかしそのことは、EU域内市場で行われるゲームのルールが大転換することを意味する。言い換えれば、このルールに適応できなかったプレーヤーは、漏れなくゲームから排除されることになる。今回の自動車市場での出来事は、その端的な事例だ。

 

5億人近い人口を持つEUは、中国とインドに続く世界で3番目に大きな市場だ。その市場で経済活動を行いたいなら、EUのルールに従わなければならない

 

一見するともっともらしい主張のように聞こえるが、これはEU自身が重視する自由貿易の原則と照らし合わすと、整合性が取れないどころか、むしろ矛盾する性格をはらんでいる。

 

本来、車種の選択はユーザーに委ねられるべき事柄だ。EVへの過度な傾斜は消費者の豊かな生活の低下につながりかねない。

 

また欧州委員会は、EVの基幹部品である車載電池について、その生産から再利用までを実質的に域内のメーカーに限定させようと目論んでいる。いわゆる欧州バッテリー同盟(EBA)構想であるが、これにも問題がある。

 

現在、車載用バッテリーの多くが日中韓の企業によって供給されている。産業育成や経済安全保障といえば聞こえは良いが、EBA構想は日中間の企業をEU市場から排除しかねない側面がある。

 

いずれにせよ、EUの一連のEVシフト戦略は、形を変えた保護貿易を志向するものであると、諸外国から批判されても致し方がない性格を持つ。

 

米中市場からの「欧系メーカー排除」の懸念

EU域内の厳しい競争条件を域外にあえて輸出することで、域外の競争環境を改善する。つまりEU域内の厳しい気候変動対策に域外国をコミットさせることで、世界的な気候変動対策を促す。もちろん、そのうえでの技術覇権はEUが握る。

そうしたルールメーカーとしての復権に野心を燃やすEUだが、その目論見通りにコトが運ぶかはなお不透明だ。

 

最も憂慮される事態は、分厚い新車需要を抱える米中がEUへの対抗措置としてそれぞれ独自の規制を導入、市場から欧系メーカーを実質的に排除しようとする展開だ。

 

それこそ環境をタテにした貿易戦争が展開されることになる。もちろんこれは最悪のケースだが、程度の差はあれ、そうした方向に向かっていくおそれは否定できない。

 

この点に関しては、中国以上にアメリカの動きを注目すべきだろう。

 

バイデン民主党政権になり、EUとの関係は改善した。しかし、トランプ前大統領の支持者を中心に、アメリカでも保護主義的な考え方に理解を示す有権者は少なくない。

 

EUの試みに対する反対世論が盛り上がれば、アメリカでも与野党の立場を問わず対抗措置を模索する動きが強まりそうだ。

 

EUは本来、多国間協調を重視する。しかし現状のEUの立ち振る舞いは独善的ともいえ、平和裏な国際合意につながるとは考えにくい。

 

自動車産業は間違いなく日本を代表する産業だ。EV化が世界的な貿易紛争につながることを避けるために、日本は官民を挙げてEUに対し、これまで以上に強く訴えかけていくべきではないか。

(文・土田陽介)

 

 

https://www.businessinsider.jp/post-238911

 

 

 

 

もとを糺(ただ)せば、VWディーゼルゲート事件トヨタHEV対策であった。燃費の良いHEVに対して、特にVWディーゼルエンジンで対抗しようとしたものであった。しかし必ずしもHEVに対抗できるほどの性能を獲得できなかったのである。そのために性能試験の時だけに、特別に性能が良くなるような仕掛けを組み込んで、性能試験にパスさせたものであった。だから通常の走行状態の時には、VWのクリーンディーゼルと呼ばれたものでも、決してクリーンではなかったのである。

 

この件は小生のブログ「続・次世代エコカー・本命は?(22~)」(2016.5.2~)で詳しく論じているのでぜひ参照願いたいが、当時はVWは「ブルー・モーション・テクノロジー」と称してクリーンディーゼルとして盛んに宣伝していたものであった。

 

しかしCO2の排出はそこそこ少なかったのであるが、このディーゼルは通常走行時には窒素酸化物(NOx)を基準の最大40倍も排出していたものであった。この違法なVWディーゼル車は、全世界で1,100万台に上り、ボッシュVWの共同作業による違法行為による結果であった。

 

トヨタは当時、2,800ccのターボディーゼルエンジン搭載の「ランドクルーザープラド」を発売したばかりであり、これはNOxを大幅に減らしたものでエコカー減税の対象となっていた。トヨタのこのプラドは8年振りのディーゼル車であり、当然VWディーゼルも研究対象として調査していたようで、NOxが大量に排出されているとしてVWはじめEUのしかるべき機関に抗議までしていたものであった。トヨタNOx対策は、DPNRDiesel Particulate-Nox Reduction System)という触媒を装着したもので、NOxPMの両方を低減するシステムを初めて実用化したものであった。

 

繰り返すがこのVWの排ガス不正も、もとを糺(ただ)せば、アメリカで販売が好調なトヨタHEVに対抗するために、VWが打ち出してクリーンディーゼル車だったのであるが、いかんせんこのクリーンディーゼル車でもアメリカの排ガス規制に合格させることはできなかったのである。その結果が、ボッシュVWがタイアップした排ガス不正であった。

 

期せずして今回のECの「欧州グリーンディール法案も、トヨタHEVへの対抗策の意図が見え隠れするものであった、と言ってもよかろう。2035年からは、トヨタの得意とするHEVEUでは販売できなくなる。EUHEV対策として、歴史は繰り返す、とはこのことである。

 

 

このECの環境規制案は、ICEの禁止だけではない。電池に対する規制も強化される。例えば、CO2排出量の多い電源で生産した電池は、この規制に引っかかればEUてば販売できないことになる。しかも電池に関しては、電池寿命や充電容量などの識別情報や特性情報を記載したラベルを貼付しなければならないことのなる。

 

このようにCO2の排出量の多い電源で生産される工業製品、例えば自動車などもEUでは何らかの規制がかけられるようになる可能性が高い。トヨタ豊田章男社長の心配する日本の電源構成にも対策が必要となる。すなわち石油を燃やす火力発電などで作られる電気では、CO2の発生が多いために国境炭素税などの関税がかけられる可能性も出てくるのである。

 

と言うことは、再生可能エネルギーの活用と原子力発電の利用拡大が、必須となってくる可能性が大なのである。

 

 

 

EUの新環境規制 2035年のHV販売禁止だけではない苛烈な中身

沸騰・欧州EV10

2021.7.16

大西 孝弘 ロンドン支局長

 

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欧州委員会のフォンデアライエン委員長は14日の記者会見で、「交通部門のCO2排出量は減るどころか、増えている。これを逆転させなければならない」と述べ、自動車産業に厳しい姿勢をみせた(写真:Abaca/アフロ)      



 (2021)714欧州連合EU)の執行機関である欧州委員会が、自動車業界を揺るがす規制を発表した。

(続く)