それは車載バッテリーのリチウムイオン二次電池が発熱し、熱暴走を起こすからだという。
だから今のリチウムイオン電池は怖いのである。
相次ぐEV火災の「消えない火」 バッテリー冷やせず再燃する
岩野 恵 日経クロステック/日経ものづくり 2021.09.22電気自動車(EV)の火災事故が世界各地で相次いでいる。衝突事故に伴う炎上など原因はさまざまだが、共通するのが事故処理の難しさ。一度鎮火してもバッテリーの発熱によって再燃してしまうのだ。全米防火協会(NFPA)や米国家運輸安全委員会(NTSB)の調査結果から実態に迫る。
2021年4月17日夜、米国テキサス州ヒューストン北部で 米 Tesla(テスラ)のEV「モデルS」が木に衝突して炎上し、2人が死亡した(図1)*1。21年8月14日にはドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン、VW)のEV「ID.3」がオランダで充電後に発火*2。米GMの「Bolt EV」も充電中に電池から発火した事例が複数あり、GMは3回にわたってリコール(回収・無償修理)を発表した*3。
*1 地元警察の発表では、事故時の運転席が無人だったことから、事故直後はテスラの運転支援システム「オートパイロット」との関連が注目を集めた。ただし、米国家運輸安全委員会(NTSB)は21年5月10日、事故現場で状況を再現した結果、左右の走行方向を制御する「自動操舵(そうだ)機能(Autosteer)」は作動不可能だったとする初期調査結果を公表した。オートパイロットを使うには自動操舵機能と、前方車との距離を制御する「交通量感知型クルーズコントロール機能(Traffic Aware Cruise Control)」の両方を作動させる必要がある。
*2 ID.3の電池は韓国LG Energy Solution(LGエナジーソリューション)製とみられる。
*3 Bolt EVの全モデル、合計約14万台がリコール対象となっている。電池はLGエナジーソリューション製。
図1 21年4月17日にテキサス州で事故を起こしたテスラのEV
木への衝突で、EVの前方に搭載したバッテリーパックが損傷し、火災が発生した。(出所:NTSB)
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これらの事故で明らかになったのが、EVの車両火災の危険性の高さ、特に消火の難しさだ。NFPAとNTSBの資料を基に、EV火災事故の詳細について解説する(1~4)。
消したはずの火が何度も復活
冒頭で紹介したテスラ車の火災事故の消火活動は、いつもと勝手が違ったという。テスラの消火に使った水の量は一般的な車両火災とは比べものにならないほど多く、具体的には約2万8000ガロン(10万5991L)もの水が必要だったのだ。山火事を消すのに使う世界最大級の消防用航空機で運べる水が約2万ガロン(7万5708L)なので、その量の多さを推し量れる。
消火に当たった消防署の署長は現地メディアのインタビューに対して「我々が経験したことのない事故現場だった」と語った。火を消すまでに要した時間は約4時間。「通常の車両火災は消防隊が到着すると、数分で鎮火できるものだ」(同)と事故の特殊性を指摘する。
事故の経過を詳しくみると、車両はずっと火だるま状態だったわけではない。実は、消防隊員は現場に到着した数分後の21時39分に一度鎮火した(表)。しかしその後、一度消したはずの火が復活(再燃)し、22時には再燃したバッテリーパックに水をかけて冷却を始めなければならなかった。
表 21年4月17日、米国テキサス州で起きたテスラのEVによる事故の経過
(出所:米国テキサス州ウッドランズ消防署の情報を基に日経クロステックが作成)
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これはリチウムイオン2次電池を積むEVならではの現象と考えられる。事故の衝撃などでリチウムイオン2次電池の正極と負極が短絡(ショート)すると、大きな電流が流れて発熱し、その熱がさらなる発熱を引き起こす「熱暴走」と呼ばれる現象が起きて電池が発火する。
現在、事故で損傷したリチウムイオン2次電池から素早く確実にエネルギーを抜く方法はない。そのため、消火しても、電池内に残ったエネルギーにより再び発熱し、再燃に至る。鎮火した数日後に再び火が出るケースもあるという。
再燃を防ぐには、電池を冷やすしかない。しかし多くのEVでは、容器に格納された状態の電池を車両の床下に配置しているため、直接水を当てて冷却するのが難しい。事故を起こしたテスラのモデルSの場合、444個のリチウムイオン2次電池(電池セル)を1つの容器にまとめたバッテリーモジュールが16個、座席の下に並ぶ(図2)。
図2 テスラのモデルSのバッテリーの構造 テスラBatteryモジュール
座席の下に設置されているバッテリーパックは、16個のバッテリーモジュールで構成される。各モジュールには単3電池より少し大きなサイズの「18650」と呼ばれる円筒形のリチウムイオン2次電池(電池セル)を444個搭載する。つまり、バッテリーパックは合計7104個の電池セルの集合体だ。(出所:NTSB) [画像のクリックで拡大表示]
今回の事故では、消火栓から引いた水を車両の上にかけ続けたものの、再燃を止められなかった。冷却を始めておよそ2時間後の翌18日の0時15分、黒焦げになったテスラ車の残骸をクレーンでつり上げることが可能になり、車両底面にあるバッテリーパックに直接水をかけた。その結果、完全に火が消えたという。
(続く)