世界の流れは、EV化(21)

これに対してLG Chem のバッテリー火災は、製造上の欠陥によりバッテリー内部で短絡(ショート)してしまい、発火したものである。

 

いずれの場合でも、EVの火災は、普通の水かけではなかなか消火できないものだ。

 

それは、火災で熱を持ったバッテリーをうまく冷やせないからである。だからデンマークの消防署では、水を張ったコンテナーにEVを沈めて消火することにしているのだ。

 

さて話を元に戻そう、LG Chemのバッテリー火災は、バッテリーの製造上の欠陥が原因である。製造上の欠陥の発生原因は、無理な低コスト化だと言われている。

 

 

海外のEV火災、電池コスト削減が一因 専門家に聞く

2021/10/7 5:00
日本経済新聞 電子版

 

車載電池開発に詳しい名古屋大学未来社会創造機構客員教授佐藤登氏(出所:日経クロステック) 佐藤登氏

 

カーボンニュートラル(温暖化ガス排出実質ゼロ)の実現に向けて、自動車メーカー各社が電動化に舵(かじ)を切る中、海外では電気自動車(EV)の火災事故が増えてきている。EV電池発火のメカニズムや増加の背景について、ホンダや韓国の電池大手サムスンSDIEV用の電池開発に深く携わった佐藤登氏に聞いた。



【関連記事】相次ぐEV火災の「消えない火」 電池冷やせず再燃

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00134/091500280/?P=1



発火しやすく消火しにくい部材



──そもそもEVのリチウムイオン2次電池はなぜ発火するのでしょうか。

「発火の原因は多種多様である。代表例としては、電池製造工程で混入した金属の異物が充放電を繰り返すうちに正極と負極を分離するセパレーターを突き破ることで内部短絡が発生し、火災に至る場合がある」

「他にも、充放電の条件や構成材料によっては、充電時にリチウムイオンが負極中へ取り込まれないために『デンドライト』という金属リチウムの針状結晶が生成される。これがセパレーターを突き破ると内部短絡につながり、発火の原因となるケースもある」

「衝突事故などで外部から大きな衝撃が加わると電池が破損し、火災事故に至る可能性が高まる。鉛蓄電池ニッケル水素電池は電解液が無機系で不燃性なのに対し、リチウムイオン2次電池の電解液は可燃性有機溶媒で、そもそも燃えやすい性質を持つ」

「また、電池を構成する部材が熱安定性に劣ると、過充電になった場合などに発熱が促進され熱暴走、そして火災に至る。電池を構成する部材は可燃性の物が多いので、一度火災に至ると消火が難しい

「消火したとしても温度が下がらず、電池内部に熱がこもっていると再燃を繰り返すことがある。海外ではリサイクルのために保管してあるリチウムイオン2次電池から出火した事例もある」

「次世代電池として注目が集まる全固体電池の固体電解質無機系で難燃性だ。これが普及すれば、火災事故の低減にもつながるだろう。かといって、全固体電池でも条件がそろえば火災事故に至るケースもあり、全固体電池だから火災事故は起きないとは言いきれない」



──効果的な消火方法はありますか。

「公道での車両火災事故は、やはり大量の水で酸素を遮断しながら鎮火させる方法が現実的だ。EV用途のように電池容量が大きくなると、普通の消火器では消火が難しい。実験室や試験室での火災においても同様だ」

「私が上席顧問を務めるエスペックでは電池の安全性受託試験などを手掛けており、限界試験や過酷試験などの独自試験で電池が発火する場合がある。発火の際には頑丈な試験評価室内のスプリンクラーが作動し、十分な放水で消火している」

「試験終了後でも電池が化学的に不安定な場合が多い。安全に保管や輸送をするために、電池を塩水に浸して失活処理を行っている。その結果、短時間で効率よく完全放電できるので再燃を防げる」

エスペックでは過去に、液体窒素の噴霧も検討したが、あまりにもランニングコストが高いので断念した。二酸化炭素を使って消火する方法もあるが、試験室内での使用は人命への影響が懸念される。結果として大量の放水が効果的、かつコストと安全の観点からも妥当といえる」



コバルト高騰で正極材が燃えやすく



──近年、海外でEVの車両火災が増えています。

韓国製の電池を搭載した電動車の火災2019年中ごろから急に増えた。背景には、電動車の価格に占める比率が高い電池の価格低減を自動車各社が求めていることがある。電池部材のコストを削減する必要がある中、安易に安価な部材を採用していることが原因の1つと考える」

「もともと、日系自動車メーカー各社は車載電池に対して独自に厳しい安全基準と試験規格を設けて開発や安全性評価試験を進めており、安全性が十分ではない安価な部材を見極める機能が働いている。私のこれまでの経験から、欧米韓中の自動車メーカー各社の電池に対する開発基準が日系勢の基準と乖離(かいり)し、緩い条件下で進められていたと実感している」

「さらには、正極材を構成する材料も変わってきている。正極材はいくつか種類があり、最も広く適用されているのがニッケル、コバルト、マンガンを主成分とする『三元系』。従来は性能と安全性の観点で3種類の元素が1:1:1と同じ比率で入っていた」

「近年は価格が高騰するコバルトの比率を下げ、代わりにニッケルを増やすハイニッケル化が進んでいる。ニッケル、コバルト、マンガンの比率を6:2:2、そして8:1:1まで拡大した正極材の適用が中韓の電池メーカー各社を中心に進められている。ニッケルが増えると熱安定性が下がり、発火しやすくなる傾向にあるため、安易なハイニッケル化はリスクを伴う」

「価格競争の中で低品質の部材が採用される例が増えている。韓国のある電池メーカーでは、もともと日本企業のセパレーターを採用していたものの、日本製の半値ともいわれる中国製のセパレーターに全量転換した事例もある」

「中国製は価格面で優位にあるので、電池のコスト低減効果は絶大だ。その分、品質が日本製よりも劣るものもあり、電池に不具合が起こる原因となっている可能性もある」



日本メーカー、厳格な安全性試験



──国によって電池やEVの安全性に差はあるのでしょうか。

「国際的には『ECE-R100-02』という電池の試験規格が国連規則として16年に発効し、認証取得まで義務付けられている。日本の自動車メーカーはこの国連規則に加えて、厳格な独自の安全性試験を実施している」

「例えば充電率だけでみても、規格では『140%程度の過充電状態で火災・爆発などを起こさないこと』が求められる中、日本のメーカーは充電を続けて電池が破壊される『死に際』を把握することで電池の安全性を担保する。こうした限界試験を実施し、自主的に高い次元での安全性を確認しているのだ」

「国連規則の基準は教育に例えれば義務教育に相当する。それだけでは不十分で高等教育が必要であることを、昨今の海外勢の車両火災事故とリコールが立証している」

「日本の試験基準に対して、韓国や欧米はその8割くらいの厳しさ、中国に至ってはそれ以下の厳しさで試験をしてきた。海外製の電池で採用できる各種部材も、日本の基準に照らし合わせると採用できないことは多々ある」

「だからこそ、日本製の電動車が25年の長きにわたって公道で火災事故を起こしていないといった世界に誇れる実績を出している。電池の不具合によるEVの火災事故と大規模リコールは、安全性と信頼性が強みである日本の電池産業にとっては追い風になるだろう」

「昨今のEVシフトの中で、人命に関わる車載電池のあるべき姿を、海外の自動車メーカー各社と電池メーカー各社は再考する必要がある」



佐藤登(さとう・のぼる)氏


名古屋大学未来社会創造機構客員教授エスペック上席顧問、イリソ電子工業社外取締役1978年ホンダ入社。自動車の腐食防食技術の開発に従事し、その社内成果で工学博士の学位を取得した後、90本田技術研究所基礎研究部門へ異動。91年車載用の電池研究開発部門を築く。チーフエンジニアであった2004年にサムスンSDIに常務として移籍。中央研究所と経営戦略部門で技術経営を担当、12年退社。

(聞き手は日経クロステック/日経ものづくり 岩野恵)

[日経クロステック2021924日付の記事を再構成]

 

関連リンク

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2995X0Z20C21A9000000/?n_cid=NMAIL006_20211007_Y

(続く)