トヨタ、水素エンジンで耐久レース完走 「プレイグ」との戦い
清水 直茂 日経クロステック 2021.05.24トヨタ自動車は2021年5月22日から23日にかけて、水素エンジン車で24時間レースを完走した。途中、中核部品のインジェクターや電気系統の異常による修理時間があったものの、レースを「実験場」としてデータ収集の場に活用する目的は果たした。ドライバーの1人として参加したトヨタ社長の豊田章男氏は「従来の内燃機関をベースにした水素エンジン車も、カーボンニュートラルを実現する1つの選択肢ということを示せた」と胸を張る。
出走車両の水素エンジン
ベースはGRヤリスの1.6Lエンジンで、水素の配管などを追加した。(撮影:日経クロステック)[画像のクリックで拡大表示]
富士スピードウェイで開催された「スーパー耐久シリーズ2021」の第3戦となる24時間レースに参戦した。車両は「カローラスポーツ」を改造したもので、水素エンジンや水素タンクなどを搭載した。水素エンジンは「GRヤリス」の排気量1.6Lガソリンエンジンをベースにする。
レース結果は周回数が358(1634km)で、総合優勝車両の半分以下。走行時間は11時間54分にとどまり、半分以上の時間をピット作業と水素の充てん(4時間5分、35回)に使った。豊田氏はレース前に「なにがなんでも走りきりたい」と意気込みを語っており、目標を達成した。
レース中の水素エンジン車
車名は「ORC ROOKIE Corolla H2 concept」。(撮影:日経クロステック) [画像のクリックで拡大表示]
レース中にトヨタの技術者が力を注いでいたことの1つが、水素エンジンの大きな課題である「プレイグニッション(早期着火、以下プレイグ)」の抑制だ。点火前に着火してしまう現象で、「筒内圧センサーを全気筒に装着し、レース中はプレイグを常に監視している」(トヨタ技術者)と、その対策にかなりの力を注いでいた。筒内圧が一定のしきい値を超えると、プレイグが生じ始めたと判断するようだ。
水素は、ガソリンに比べて着火しやすい。エンジン燃焼室内が高温になるとプレイグが生じ、最悪の場合はエンジンが壊れかねない。レース中はエンジンのほとんど高負荷域で走るため、燃焼室内は高温になる。とりわけプレイグが生じやすい環境になってしまうため、トヨタは今回、エンジン出力を抑えて臨んだという。レース車では致命的な対応だが「完走を目指すにはやむを得ない」(同技術者)と判断した。
それでもレース中に「プレイグ傾向」に陥る。筒内圧センサーの値がしきい値をたびたび超え始めていたようだ。トヨタは途中、中核部品の1つである水素インジェクターや点火プラグを交換するなどしてしのいだ。
今回参戦した水素エンジン車のベストラップは2分4秒/周。昨年参戦していたGRヤリスに比べて約10秒遅い。タイムが遅くなるのは、エンジン出力を抑えていることに加えて、車両質量が重いこともある。水素タンクや多くの計器類の追加で、通常のカローラスポーツに比べて約200kg重くなったと明かす。データ収集はレースに参戦する大きな目的であり、多少遅くなろうと計器類は外せなかった。
水素の充てん作業
約10周で1回と頻繁に充てん作業がある。(撮影:日経クロステック) [画像のクリックで拡大表示]
水素エンジンについては、デンソー製の水素インジェクターや燃料電池車「MIRAI(ミライ)」に搭載した水素タンク、水素の配管を追加しているものの、残るハードウエアの改造はほとんどしていないという。
トヨタ執行役員でGAZOO Racing Company Presidentの佐藤恒治氏は、「エンジンは基本的にGRヤリスのものをそのまま使っている。量産車のエンジンに水素インジェクターとタンクを積んで、配管を通した。裏を返すと、今ある技術を応用すれば造れる」と説明し、水素エンジンは特別なものではないと訴える。
レース直前の集合写真チーム名は「ROOKIE Racing」で、ドライバーには小林可夢偉選手やMORIZOこと豊田章男氏など6人いる。(撮影:日経クロステック) [画像のクリックで拡大表示]
トヨタが着手もFCVと両立するか 「水素エンジン」10の疑問
トヨタ自動車は2021年4月22日、水素エンジンの開発に取り組むと発表した。エンジンの「脱炭素」を目指す。同年5月21~23日開催の富士24時間レースの参戦車両に搭載し、開発を本格化させる。
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/news/18/10437/?ST=print
それよりも、『バイオ燃料』や『合成燃料・e-Fuel』の方が、実用性が高いのではないのかな。
(続く)