世界の流れは、EV化(41)

既存設備が活用できるという大きなメリット


液体の合成燃料には、化石燃料を由来とするガソリンや軽油などの液体燃料と同じく「エネルギー密度が高い」という特徴があります。つまり、少ないエネルギー資源量でも多くのエネルギーに変換することができるということです。これにはどんなメリットがあるのでしょうか?

いま、乗用車は電動化や水素化が進んでいますが、動力源を電気・水素エネルギーに転換させることがむずかしいモビリティや製品もあります。それは、現在使用されているガソリンなどの液体燃料と電気・水素エネルギーでは、エネルギー密度に大きな差があるためです。

 

たとえば大型車やジェット機の場合、電動化・水素化すると、液体燃料と同じ距離を移動するには液体燃料よりも大きな容量の電池や水素エネルギーが必要となってしまいます。こうしたモビリティや製品があるかぎり、液体燃料は存在しつづけると考えられています。

エネルギー密度の比較
電池、ガス燃料、液体燃料のエネルギー密度をグラフで比較しています。

(出典)トヨタ自動車   

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このようなケースで、化石燃料由来の液体燃料を液体合成燃料に置き換えることができれば、エネルギー密度をキープしつつCO2の排出量をおさえることができます。

また合成燃料の大きな特徴として、従来の「内燃機関」(たとえばガソリンを使うためのエンジンなど)や、すでに存在している燃料インフラを活用できる点があります。水素エネルギーなどのほかの燃料では新たな機器やインフラを整備しなければならないのにくらべて、導入コストをおさえることができ、市場への導入がよりスムーズになると考えられます。

これまでの化石燃料と変わらない使い勝手の合成燃料は、エネルギーのレジリエンス(強靭性)やセキュリティの面でもメリットがあります。積雪により停電が発生した地域への燃料配送、高速道路で立ち往生した自動車への給油もでき、災害対応機能を持った全国のサービスステーションなどでは既存のタンクを活用した備蓄も可能です。また、国内で工業的に大量生産できること、常温常圧で液体であるため長期備蓄が可能であることなど、さまざまな優位性があります。

さまざまな分野での合成燃料の活用方法


自動車
「グリーン成長戦略」では、自動車の電動化を推し進め、2035年までに乗用車の新車販売で電動車100%を目指すことになっています。けれども電動車の普及には、新たな車両蓄電池の開発、電動車に対応したインフラの整備など、さまざまな課題があります。

2017
年に発表された国際エネルギー機関IEA)の見通しによると、世界的な電動化の流れの中でもエンジン車との共存は続くと見込まれています。2030年時点でガソリン車やハイブリッド車などのエンジン搭載車91%残っており、2040年時点においても乗用車販売の84%をエンジン搭載車が占めると予想されています。カーボンニュートラルを実現するためには、これらのエンジン搭載車に供給する脱炭素燃料が重要となります。

IEAが示した「技術普及シナリオ」によると、2050年になってもガソリン車が一定程度残ることを表した図です

(出典)IEA ETP(Energy Technology Perspectives) 2017」に基づき経済産業省作成

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そのための選択肢として、バイオ燃料と並んで注目を集めているのが合成燃料です。特に、電動化のハードルが高い商用車などについては、合成燃料を代替燃料として利用することで脱炭素化をはかることができると考えられます。今後は合成燃料の開発にくわえて、内燃機関の技術開発や、現在のガソリン・軽油に代わる合成燃料の国際規格についても検討していく必要があります。

航空機・船舶
航空機・船舶の分野では、国際機関の要請によりCO2の削減目標が定められています。そのため、航空機についてはバイオジェット燃料・合成燃料船舶については水素・アンモニアなどの代替燃料の技術開発が進められています。

航空機では国際民間航空機関ICAO)が、2021年以降の国際航空に関してCO2排出量を増加させないという目標を採択しているため、その達成に向けてバイオジェット燃料に加えて合成燃料の活用が期待されています。すでにバイオジェット燃料は商用化されていますが、今後はその原料が不足することも懸念されています。一方、合成燃料はCO2と水素から工業的に大量生産でき、持続可能な航空燃料となる可能性があります。

石油精製業など
既存の燃料インフラや内燃機関の活用が可能な合成燃料は、導入コストをおさえられるなど産業界にとっても大きなメリットがあります。特に石油精製業では、国内の石油需要の減少で設備能力の削減が求められる一方、余剰となったタンク、土地、人材などの資源をどうするかという課題があります。合成燃料を導入すれば、既存インフラを活用しながら新規事業に取り組むことができます。

合成燃料を製造し、それが輸送され、燃料として供給されるまでの過程を図であらわしています。

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(続く)