ソニーのEVを差別化する3つの要素
センシング技術に強みをもつソニーにとって、EVに搭載する安全なEVを実現するためのセンサーは重要な差別化要素の1つ、と捉えている。
出典:CES2022プレスカンファレンス中継より ソニーEV_AASwz82
一方で、今のVISION-Sがそのまま製品になるのか、という問いには「そうではない」と答える。
「製品としては、もっと最適化できます。課題はまだあって、製品化までのすべてがクリアに見えた、と言い切れるものではないです」
ソニーグループが発表したリリースでは、「事業化への取り組みを発表」「EVの市場投入を本格的に検討」と、若干含みを持たせた書き方になっている。その理由は、川西氏のいう「改善が必要な部分」にあるのだろう。
では、ソニーが「自社のEV」を作る上で必要な要素はどこになるのか? 川西氏は「3つある」と話す。
「もともとVISION-Sは、3つのテーマを掲げて開発を進めてきました。
1つは『センシング』。センサーを使い、安心・安全を実現する技術です。次が『アダプタビリティ』。簡単に言えば、ソフトウエアをベースにし、機能などをアップグレードしていく前提での自動車づくりです。最後が『エンターテインメント』。自動車という移動空間のエンターテインメントを変えていく、ということです。
これらが具現化できる見通しが立ち始めた……というのが今の状況です」
ソフトウェアで「パーソナライズ」される車
VISION-Sはソニーが開発したEVだが、すべての部分をソニー1社で独自開発したわけではない。多数の企業との協力体制によって作られている。その中には、自動車生産の分野でトップクラスの実績を持つ、オーストリアのマグナ・シュタイア社も含まれる。
自動車の基本は「走る・曲がる・止まる」。EVも基本は変わらない。
川西氏は、「走る・曲がる・止まる、といった部分は協業でないと作りづらく、手を出しにくいところがある」とも話す。
「自動車としての基本部分はソニーの設計でないなら、どこに独自性があるのか」と思う人もいそうだ。
ただ、ソニーは、「それら重要な部分を協業の形で開発したとしても独自性を出せる」と考えているようだ。それが、前述の「具現化できた3点」に関わる部分である。
「『ドメイン制御』と呼ばれたりもしますが、車全体を統合制御する部分や、いわゆるADAS(先進運転支援システム)、インフォテイメントなどの領域は、自分達の強みがかなり活かせます」
そう川西氏はいう。
実際、加速・減速のタイミングや、乗り心地と走行安全性に関わる電子制御サスペンションの効かせ方など、ソフトで制御可能な部分は多々ある。それらの部分を徹底的にソフト化し、アップデートによって継続改善できるようにする、というのがソニーの狙いだ。
「結果として、(自動車にも)パーソナライズできる領域を相当増やせると考えているんです。同じVISION-Sであっても、人によって乗り味が違う、車の特性を変えてしまう、といったこともできます。ただし、自動車ではボディ剛性も重要ですし、(ハードウェア的な)作りに起因する特性もあり、すべてが変えられるわけではないのもわかっています。その上でどれだけ(ソフトで)コントロールできるか、ということが、我々にとってのチャレンジです」
ソニーのEVはaiboであり、プレイステーションであり、IoTである
川西氏の言葉を紐解くと、ソニーが作ろうとしているのは、「乗り味」「走り味」をソフト制御で自分好みに変え、先進安全や自動運転などに関わる機能がアップデートされ、進化していく自動車……ということになるだろうか。
ハードウェアというよりは「サービス」としての自動車のようにも見える。
ソニーグループの吉田憲一郎社長は、米・ラスベガスで新聞などの記者の質問に答える形で、EVのビジネスのあり方として「リカーリング(継続型)ビジネスになる」と話した、と報道されている。
ソフトで進化するサービスとしての自動車、となれば、それはリカーリングビジネスそのものだ。
この点を川西氏にたずねると、次のように笑いながら答えた。
「私としては、ずっとやってきたことをそのままやっているので、当たり前だと思っているんですけどね」
川西氏は過去、ソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)でCTO(最高技術責任者)を務め、PlayStation 3などの開発を指揮した経験を持つ。その後、ソニーでAIロボティクス・グループを率いる立場となってからは、aiboの復活も手がけた。
「どれもプラットフォームがあって、その上でアップデートやソフトの追加で価値が高まっていくものですよね。クルマも同じなんですよ。ネットワークにつながるデバイスという大きな括りで言えば、車もaiboも同じ『IoT』ですから」
そのためには、当然通信が必須だ。そして、自動車が通信連携前提になれば、さらに進化が期待できる。いわゆる、「V2X(Vehicle to everything)」と呼ばれる領域だ。
「V2Xでは、通信インフラの先にある、あらゆるサービスとの連携が必要になります。そもそも人にとっては、自動車の中でも生活は、家に住むと同じくらい大切なものです。家と同じような環境が作れるかどうか、個人の時間を車の中に持ち込めるかどうかが、非常に重要な要素です」
ソニーが作る自動車事業検討のための新会社「ソニーモビリティ」は今春に設立される。その頃になれば、ソニーならではの車とはどんなものなのか、より具体的な姿が見えてくるのではないだろうか。
(文・西田宗千佳)
https://www.businessinsider.jp/post-249065
簡単に、ソニーの動きをまとめてみよう。