世界の流れは、EV化(74)

350万台という数字はどこから来たのか

 では、350万台という数字の根拠はあるのか。どうやら、電動車と再生可能エネルギーに対する各国の方針を踏まえているようだ。2030年にトヨタの世界販売台数が現在と同じく約1000万台のままだと仮定し、米国と中国、欧州、および日本の台数を計算してみよう。

 米国は、2030年までに新車販売の5割を電動車にするという大統領令にバイデン大統領が署名した。欧州では、欧州委員会が再エネ比率を2030年に65%に引き上げると発表した。そして、中国は新車販売に関するロードマップで、2030年に省エネ車が60%(うちHEV45%)で新エネ車を40%、2035年には省エネ車(HEV)が50%で新エネ車を50%にするという目標を掲げている。最後に日本は、再エネ比率が3638%必要と経済産業省が試算している。これらの比率通りにEVが売れると仮定し、2019年の販売台数と掛け合わせることで各国のEV販売台数の目標を計算する。

米国:275万台×0.5138万台
欧州:105万台×0.6568万台
中国:162万台×0.581万台
日本:161万台×0.3760万台
合計=347万台

 予想の難しい未来ではあるものの、350万というのは見通せる範囲での根拠に基づいた数字のようだ。メディアの“思い込み”を一掃することが主眼と思われる発表とはいえ、適当に盛った数字を持ってこないあたりが生真面目なトヨタらしい。

トヨタの本当の「敵」

 欧州委員会が世界のカーボンニュートラルを先導するリーダーシップは素晴らしい。だが、実現可能性を踏まえたカーボンニュートラルには総合力が求められる。そのために、現段階では可能性のあるカーボンニュートラル対応技術を試行錯誤しながら開発していくことが大切であり、技術の可能性の芽を摘んではいけない。

 EVの環境への貢献度、すなわち二酸化炭素CO2)排出量の実力については、各国・地域のエネルギー事情次第というのは、日本自動車工業会会長でもあるトヨタの豊田社長がかねて説明してきた通りだ。要は、再生可能エネルギーの割合次第である。

 「EV一択」では、グローバルでのカーボンニュートラルは達成できない。ましてや、HEVは環境に優しくないから販売禁止とは暴挙であり、環境負荷軽減への大きな実力を無視した誹謗(ひぼう)中傷の部類と言ってよいだろう。

温暖化ガスを大幅に削減するための包括案を発表する欧州委員会

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温暖化ガスを大幅に削減するための包括案を発表する欧州委員会 (写真:欧州委員会

 そして、欧州委員会に決定的に欠けているのが、顧客の視点だ。先の通り、欧州市場ですらより多くの顧客がEVよりもHEVを選んでいる。まさか民主主義社会に生きる欧州の国民から自由を奪い、強制的にEVを買わせるつもりなのか

 推測するに、欧州委員会は焦っているのではないか。EVシフトを打ち出したものの、思ったほどEVが売れない、国民(顧客)が付いてこないと。

 トヨタHEV関連特許を無償公開している。自力で製造コストを抑えたHEVが造れないのなら、欧州の自動車メーカーはトヨタの技術を使わせてもらえばよい。そんなことはプライドが許さないのか。欧州の顧客は手ごろな価格のHEVを求めている。その声を聞かずにEVを押し売りするのなら、顧客無視の開発姿勢と言わざるを得ない。

 トヨタは、欧州の自動車業界の復興を織り込んだ欧州委員会が主導する経済・産業戦略と、それに安易に乗っかった報道による世間のイメージと戦っている。これらの「敵」と戦うために、トヨタはついに、したたかな広報戦略に打って出たと見るべきだろう。

報道陣からの質問に勝手に回答

 最後に、報道陣からの質問に、記者が勝手にトヨタの本音を推測したものを織り込んだお節介な回答をいくつか披露しよう。

──EV150万台も上方修正した理由は?

お節介な回答:どういうわけだか、200万台でもEVに後ろ向きとメディアに言われてしまうからだ。そこで、各国のエネルギー政策などを最大限に織り込んで算出したら、350万台という数字になった。2020年にTeslaが販売した台数の7倍だ。ここまでの数字を出したのだから、さすがにトヨタEVに消極的などという報道は、もうされないだろう。

 逆に、EVの市場評価がそんなに高いというのなら、トヨタ時価総額Tesla7倍にならないとおかしいのではないか。ちなみに、20211217日時点でトヨタ時価総額34.3兆円で、Tesla105.2兆円だから13程度だ。これは一体、どういうことか。株式市場にも正しい評価を期待したい。

──全方位をやめてEV化か?

お節介な回答:まごうことなき、全方位戦略だ。これまでエンジン車からFCVまで幅広く車種を展開してきたが、その全方位戦略をEVにも広げるということだ。全方位戦略であらゆる車両を用意しておけば、市場が変化しても即応できる。これまでEVをあまり商品化してこなかったのは、EVを望む顧客がそれほどいなかったからだ

 しかし、世間のイメージが変わったこともあり、「EVはないのか」と顧客から聞かれる機会も増えてきた。それならば、ということで、一気に30車種を展開することに決めた。

──なぜEV100%じゃないのか?

お節介な回答:EVはメディアが報じるほど売れていないからだ。あれほどEVシフトが起きていると報じられている欧州市場でも、足元ではEVのシェアは1割にも満たない。1000万台のフルラインアップを捨ててEV100%にしたら、100万台のクルマしか売れなくなる計算だ。とてもじゃないが、今の企業規模を維持できない。仮にそんな無謀な経営判断をしたら、顧客や株主に対する責任を果たせないのはもちろん、関係先や従業員にも説明できない。

 例えば、米国は50%をEVにするという方針を政府が出した。確かに、東海岸や西海岸は充電設備を含めてEV関連のインフラが整うかもしれない。だが、中央部の住民はどうするのか。先進国でもこうした状況なのだから、新興国ではなおさらだ。しかし、我々はそうしたEV環境に恵まれない顧客にも、クルマを購入する選択肢を提供したい。逆に聞きたいが、あなたはそうした顧客はクルマに乗るなとおっしゃっているのか??


トヨタの新
EV戦略、章男社長らが記者の直球質問に真剣回答説明会QA 前編


https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/06361/?i_cid=nbpnxt_sied_blogcard




EVに消極的」、報道陣の根強い“誤解”にトヨタ社長の回答は

  

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/06362/?i_cid=nbpnxt_sied_blogcard

 

 

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00138/121800942/?P=1