世界の流れは、EV化(76)

電動スクーターからステップアップ

中国の田舎では今でも十分な数のガソリンスタンドがなく、公共交通も整備されておらず、また所得水準も低いため、多くの人は家庭用電源で充電できる電動スクーターを使っている。

この電動スクーターからのステップアップ需要に宏光MINI EVがぴったりはまったのである。スタイリングもシンプルで好ましいもので、中国の若者は自分好みにドレスアップして楽しんでいるようだ。

中国・杭州市のシェアバイクとEバイク

 

写真=iStock.comgregsawyer

※写真はイメージです   

スクーターでも家庭用電源で夜間充電していたので、使い勝手もまったく変わらない。集合住宅に住んでいても、窓から電線を垂らして充電しているようだ。もともと長距離を乗るつもりなどない需要だから、航続距離は120kmあれば十分である。電池容量も少ないため、通常の家庭用電源でも一晩で満充電にできる(充電時間は6.5時間)。

また脱炭素という側面からもこのEVは理にかなっている。回生しないという問題はあるものの、バッテリーの容量は小さく車体重量は軽く、生産時も走行時もエネルギー消費は小さい。



日本での普及のカギは「地方の足となる軽EV」か

テスラのような高性能・大型EVは生産時に多大なCO2を排出してしまうため、ライフサイクル全体で考えるとガソリン車と大差ないCO2排出量となってしまう。また短距離走行でも常に大きく重いバッテリーを抱えながら走ることになり、非合理的だ。

今年日本メーカーから発売が予定されているEVの多くは欧米メーカーのEVに準じた500万円以上の中大型車であり、テスラのような見栄が張れるとも思えず、現在の日本で誰が買うのか非常に見えづらい。おそらく販売台数も限定的なものになるだろう。現状では「うちもEVに力を入れています」というポージングのための発売という意味合いが強いように感じる。

今日本に求められているEVこそ、まさに宏光MINI EVのようなEVではないだろうか。もちろん、日本市場では宏光MINI EVそのものでは通用しないだろうが、求められているものはこのようなコンセプトのEVではないだろうか。

日本の地方での足として軽自動車が普及しているが、軽のEVこそ、EVの主役となるのではないだろうか。



日本に必要な国・行政の普及支援

生産中止となってしまったが、三菱i-MIEVという軽のEVが存在した(2009年発売)。

ベースの三菱i自体が軽自動車としては高価なモデルで、バッテリー価格も高かった時代だったため、軽自動車としては非常に高価になってしまい、あまり売れなかった(発売当初の価格は459万円)。現在、日産と三菱が合同で軽EVを開発しているらしいが、200万円以上と軽自動車としては高価なものとなるといわれている。

トヨタ超小型EVCpodを一般に向けても販売を開始したが、「超小型モビリティ」という新しい規格に準じた仕様のため2人乗り、最高速も60kmhと制限され、まだ量産体制ではないためか165万円と内容の割に高価だ。

超小型モビリティはまだ免許や税制面での優遇措置がないため(現状では軽自動車に準じる)、今のままでは普及は難しいだろう



徹底的な「小型・軽量・低電費」化に勝機

リチウムイオンバッテリーの価格は2010年比で9分の1にまで下がっているといわれており、宏光MINI EVを分解して分析した名古屋大学の山本教授によれば、バッテリーのコストは16万円程度ということらしい。

徹底的に割り切った設計をすれば、日本でも100万~150万円程度の低価格軽EVを作ることができるのではないか。もしもそのようなモデルが発売されれば、日本でもEVが大きく普及していくのではないだろうか。

普及するのは、もちろん地方からである。



若者の支持がカギを握る

宏光MINI EVのように、デザインを工夫すれば安っぽくてもファッション性の高いアイテムとして若者にも支持される可能性もある。

電気自動車が充電完了するのを待っているバスケットボール選手

 

写真=iStock.comSimonSkafar

※写真はイメージです 

シトロエン2CVや初代フィアット・パンダなど、安っぽいベーシックさがかえって人気となったケースも過去には多々あった。このようなEVであれば、ある程度普及しても電力需要に与える影響もそれほど多くないだろう。

環境負荷、使い勝手両面から考えて、EVを普及させるためには現在欧米各社の主流の開発方向である「大型・高性能・長航続距離」ではなく、徹底的に「小型・軽量・低電費」であるべきと思う。





https://president.jp/articles/-/54485

 

 

 

BEVも、超小型であれば、「小型・軽量・低電費」で需要も出てくるであろう、と言う趣旨の論考である。今のところ、これが一番BEVにはふさわしい使われ方ではないかと、小生も思っているが、そうであればなおさら、HEVハイブリッド車)は捨てたものではないぞ、と言うことも言えるのではないのかな。この上記の論考と同じ作者の「山崎明氏」の次の論考も、ぜひとも参照願う。

(続く)