世界の流れは、EV化(77)

「脱炭素へ、今必要なのはEVよりハイブリッド車」欧米が絶対認めたくない"ある真実"
日本だけがものにできた先端技術

PRESIDENT Online 2021/11/14 12:00

 

「人類の未来のために脱炭素社会の実現を目指す」というビジョンに異論はないだろう。その一方で、急激な変化が原油価格の高騰、LNG争奪をはじめ世界同時多発的なエネルギー危機を引き起こしている。「1020年というレンジで考えたとき、ハイブリッド車の効果を再評価すべきだ」と自動車業界に詳しいマーケティングブランディングコンサルタントの山崎明氏は指摘する──。



「ハイブリッドは時代遅れの技術」は本当か?

COP26(国連気候変動枠組条約26回締約国会議)が開催され、脱炭素化の話題がまた盛り上がっている。

 

脱炭素の話になると決まって出てくるのが、「日本の自動車メーカーは脱炭素に消極的だ」「遅れている」という議論だ。そういう主張をする人はテスラが最も進んでいて、欧州、特にドイツの自動車会社がそれに続いているという認識のようだ。

日本のメーカーが遅れていると言う人の主たる論点は、日本のメーカーはハイブリッドには力を入れているがEVには消極的というものだ。ハイブリッドはもう時代遅れの技術であって、EVこそ最新の技術だ、という主張だ。だからEVを積極的に売ろうとしない日本のメーカーは取り残される、という。

果たして本当だろうか。ここでハイブリッドとはどういう技術なのかをあらためて考察してみたい。

充電中のプラグハイブリッドカー

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ハイブリッドの方式は大きく2つある

ハイブリッドとは、異種のものを組み合わせた仕組みをいい、自動車の世界では内燃機関と電気モーターを組み合わせたものを一般的にハイブリッドと呼んでいる(以下、内燃機関をエンジンと記す。ちなみに英語ではエンジンとモーターは同じ意味で、電気モーターをエンジンと言うこともある)。

ハイブリッドといってもその仕組みにはさまざまな種類がある。大きく分けると「シリーズハイブリッド」と「パラレルハイブリッド」という2つの考え方がある。

シリーズハイブリッドとはエンジンで発電し、その電気で駆動用電気モーターを回すというものだ。パラレルハイブリッドとはエンジンによる駆動と電気モーターによる駆動を切り替えて走る方式のことをいう。

一般的には、電動は低速時に効率に優れ、高速時はエンジンのほうが優れているためそのように切り替えることが多い。さらには発進時のみ電気モーターを補助的に使う簡便なマイルドハイブリッドもハイブリッドの一種として扱われている。

 

トヨタ・ホンダ・日産の違い

それでは日本メーカーのハイブリッドはどのようなものなのか

ハイブリッドといえばトヨタだが、トヨタのシステムはシリーズハイブリッドとパラレルハイブリッドの両方の利点を兼ね備えているシステムだ。

エンジンは発電用モーターと駆動輪に遊星ギアでつながれていて、その力の分配をシームレスに変化させられるようになっている。発進はバッテリーに蓄えた電気のみで行い、エンジンがかかっても低速ではエンジンの力はほぼ100%発電用モーターに使われ、その電気で駆動用電気モーターを回して走る。

速度が上がるにつれその配分は変化し、高速走行時はほぼ100%エンジンの力が駆動輪を回すことに使われる。そして減速時は、そのエネルギーを電気として回収してバッテリーに蓄え、それを走行に使う。発進時や低速走行時にエンジンがかからないのは、その電気を使っているからだ。

ホンダのシステムは、かつてはパラレル式だったが、最近のものはシリーズ式メインにパラレル式を加えた考え方になっている。基本的にエンジンがかかってもその力で発電し電気モーターで走り、高速走行時にはエンジンが直接駆動するモードに切り替えることもある、というものだ。

日産のE-POWERは完全なシリーズハイブリッドである。エンジンは発電に徹し、駆動はすべて電気モーターで走る。エンジンは車輪とまったくつながっていない。日産のものはEVに発電用ガソリンエンジンを積んだ車と理解すれば良い。そのかわりバッテリーは小型のもので済ましている。

 

EV+発電機」がハイブリッド車の正体

トヨタとホンダのシステムは日産より複雑で、EVとしての機能に加え、エンジンでも駆動する機能を加えている。その意味では、トヨタのシステムは3社の中でも極めて高度であり、エンジンと2つの電気モーターとバッテリーの制御を非常に緻密に行うシステムとなっている。

つまり、ハイブリッド車とはEVに備わる技術はすべて備えたうえで、エンジンを発電機ないし駆動用にも使うという仕組みなのである。最もシンプルな日産のものでさえ、技術的にはEVよりもはるかに高度なものなのである。

欧州メーカーもかつてはハイブリッド車の開発に取り組み、2010年代の初頭にはそれなりの数のモデルがリリースされた。しかし彼らの技術では燃費の向上はたいしたことはなく、車重が増えて運動性が悪くなったり、トランクが狭くなったりとデメリットのほうが目立つものばかりだった。

当然の結果としてあまり売れず、今では欧州メーカーでプラグインでないハイブリッド(マイルドハイブリッドを除く)を作っているのはルノーだけである(ご存じの通り、ルノーは日産とアライアンスを組んでいる)。つまり、ほとんどの欧州メーカーは日本メーカーのような高性能ハイブリッドを開発することができなかったのである。

 

日本だけがものにできた、世界に誇る先端技術

そこで欧州はプラグインハイブリッド(PHEV)の燃費基準を、電動走行部分を過大に評価するものとしてそれに力を入れている。

しかしガソリン走行時の燃費は依然として褒められたものではなく、たとえばBMW3シリーズのPHEVモデル、330eの日本基準(WLTC)の燃費は13.5kmlだが、同じエンジンを積むガソリンモデルである320iはなんと13.8kmlPHEVでない普通のガソリン車のほうが好燃費なのである。PHEVにすると重くなってしまうため、ハイブリッドモードでも燃費が悪化してしまうのだ。

しかしヨーロッパ基準ではプラグイン充電での走行距離66kmを勘案し、なんと76.9kmlWLTP)と評価され、素晴らしく環境に良い車と見なされているのだが……(320iのヨーロッパ基準の燃費は14.9kml)。

このように欧州メーカー(および米国メーカー、そして中国メーカーも)は優れたハイブリッド車が開発できなかったためやむなくより単純な技術で作れるEVおよびまやかし基準のPHEVに特化しているのである。

ハイブリッドはガソリン車とEVの中間にあるもはや時代遅れの技術、という見方が根本的に間違っていることをご理解いただけたであろうか。ハイブリッド技術とは、日本だけがものにできた、世界に誇る先端技術なのである。

(続く)