世界の流れは、EV化(78)

忖度なしで試乗してみた

そこで最新のハイブリッド車を実際に体験してみることにした。乗ったのは日産ノートE-POWER、ホンダフィットe:HEVトヨタヤリス・ハイブリッドである。

試乗コースは、私の住む神奈川県藤沢市から伊豆の河津町までのルートで、往路は国道134号線から西湘バイパスを経て箱根新道で箱根を越え、国道1号線を三島まで下って伊豆縦貫自動車道―国道414号線を通るルート、帰路は国道135号線で海岸線を通るルート(西湘バイパス以降は往路と同じ)である。

試乗した日はそれぞれ異なるが、交通環境はほぼ同じだったので、燃費のデータは比較して問題ないと思う。

日産ノート

最初に試乗したのがノートであるが、運転感覚がEVに非常に近いのに驚いた。アクセルに対して車両の反応が素晴らしく良く、またアクセルを離すとすぐに減速するので、ほとんどブレーキを踏む必要もなく自分の思い通りに走れることに感動した。

日産ノートの実測値    

普通のガソリン車との違いを一番感じたのがこの車である。往路の燃費は24.9kml、復路は29.1kmlという優秀なものだった。

ホンダ・フィット

次に試乗したのがフィットである。フィットはノートと違って、ガソリン車の運転感覚に近いフィーリングを出そうとしているように感じられ、加速感も穏やかで温和な顔つきのスタイリングとマッチしたものであった。室内も明るく広く、個人的に内外装のデザインが最も気に入ったのがこの車である。

ホンダ・フィットの実測値

写真提供=筆者

ホンダ・フィットの実測値    

燃費は往路25.5kml、復路は30.8kmlと大台に乗せてきた。ノートにくらべ穏やかな性格な車のため、運転も穏やかになったのも貢献しているかもしれない。

 

トヨタ・ヤリス

最後のヤリスであるが、欧州の小型車にもまったく引けを取らない運動性能で、とても運転を楽しめたのが印象に残っている。動力性能も十分以上で、トヨタのハイブリッドで運転が楽しい、と心底思えたのは初めての経験である。

驚いたのは燃費だ。それなりに楽しんで運転したにもかかわらず、往路31.9kml、復路はなんと38.1kmlという驚異的な数字をたたき出したのである。

トヨタ・ヤリスの実測値   

これは高度な制御により駆動を最適化しているトヨタハイブリッドシステムの優位性がはっきり出た結果だと思う。藤沢―東京間でも、往復とも30kml以上の数字が出ている。

合計350kmの試乗が終わって給油したら10リットル少々しか入らなかったのは感動的ですらあった。通常のガソリン車であれば倍近い燃料が必要だったと思う。

「脱炭素」視点で現状最も効果が高いものは…

3車を試乗して、燃費ではヤリスが断トツではあったが、ノートもフィットも相当に優れた数値であり、乗り味もそれぞれ個性があって非常に楽しめた。車としての出来も良く、どの車も自信を持ってお勧めできるものだった。

現在、日本ではハイブリッド車200万円少々で手に入る。使い勝手もガソリンを入れさえすれば良く、しかもなかなか減らない。一般の人が買うのに障害は非常に少ない。

一方、EVは高価なうえ、自宅に充電設備を設置できる人はいいが、そうでない人が購入するのは非常に厳しいだろう。一般の急速充電器では、30分充電しても100km程度の航続距離分しか充電できないためだ。もちろん遠距離ドライブは100km走るごとに30分の充電を強いられる。

そのうえ火力発電がメインの現状では、リチウムイオン電池の製造過程でCO2を大量に排出するため、EVは一般的に考えられているほど環境に優しくないのだ。

EV化を推進するボルボが昨年発表したデータによれば、現状の世界の発電状況では、XC40EVモデルXC40 RechargeCO2排出量がガソリン車のXC40と同じになるのは14.6km走行後だという。日本のハイブリッドとの比較であれば、おそらく25km以上走行しないとCO2削減効果が得られないであろう。

欧州各国は巨額の補助金を出してEV普及に努め、ドイツでは100万円を超える補助金(=税金)や優遇策で販売の10%以上をEVにすることに成功しているが、10%少々をEV化しても効果はたかがしれている

 

脱炭素へのロードマップは正しいか

一方で、日本ではハイブリッド車の比率は4割ほどになっている。脱炭素という視点から考えて、どちらの効果が高いかは一目瞭然だと思う。日本メーカーはもっとハイブリッドの意味を世界にもっと強くアピールすべきだ。

しかもハイブリッド車EVのような不便さをユーザーに押しつけることなく、比較的安価にCO2排出量を半分程度にすることができる。生産時のCO2排出量もバッテリーが小型のもので良いのでEVよりはるかに少ない。

EVは充電設備の充実などインフラへの投資も必要で、そもそも生産にも走行にも電気が必要で発電量を抜本的に増やす必要も生じる(そうでなくても電力需要は逼迫ひっぱくしているのだ)。

短期・中期・長期のプロセスデザインが必要

もちろん将来的にはすべての車を完全に脱炭素化すべきだろう。しかし同時に発電も脱炭素化にしなければ意味はない。

山崎明『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書) 

山崎明『マツダBMWを超える日』(講談社α新書)

原発の増設も容易ではない中、その道のりは険しく、既存電気需要ですらすべて脱炭素化するのもなかなか困難だと思う。加えて、暖房需要なども電気に置き換えなければならないのだ。

これは日本だけでなく、ほとんどの国に共通する問題で、急速に進んでいる欧州の再エネ発電化も遠からず限界点を迎えると思う。

ここ1020年というレンジで考えたとき、EV販売比率を3040%にするよりハイブリッドを100%にするほうが絶対に環境に優しいし、実現も容易だと思う。欧米の政府や環境団体やメーカーのプロパガンダに惑わされないようにするとともに、日本政府やメーカーもきちんと情報発信してもらいたいものである。

https://president.jp/articles/-/51709?page=5

(続く)