世界の流れは、EV化(81)

日本の場合、新車販売台数のうち、ハイブリッド車HV)やEVFCV燃料電池車)など、次世代自動車が約40%(2019年時点)を占めている。2020年末のグリーン成長戦略で示された「2030年までに販売車を全て電動化する」という目標に向けて順調に伸びているように見える。

しかし、保有車数全体に占める電動車の割合や保有年数を考慮すると、見方が変わる。2020年時点における自動車保有台数約8,185万台中、ハイブリッド車(約933万台)とEV(約12万台)、あわせて約945万台であり、その比率は約10%程度にすぎない。(一般社団法人自動車検査登録情報協会調べ



車の保有年数もここのところ長期化傾向にある。例えば、20203月末の乗用車(軽自動車を除く)の平均使用年数は13.51年となり、5年連続の増加で過去最高を記録している。つまり、新車販売を脱炭素化しても、保有車全体でみるとガソリン車など従来型の自動車が大きな割合を占める傾向は当面続くわけだ。したがって、自動車業界でカーボンニュートラルを達成するには、保有車の脱炭素化も同時並行で進めていく必要がある。ハイブリッド車やガソリン車にそのまま使えて、従来のガソリンよりエコな合成燃料は、新たな切り札として期待されている。

海外・日本の合成燃料の動向


海外での合成燃料の開発をみてみると、欧米を中心に、自動車会社・石油会社・スタートアップなどが共同で研究開発や実証プロジェクトへの着手を始めている。特に、環境規制の厳しいヨーロッパでは、政府の支援によってプロジェクトが進んでいる。

なかでも、いち早くe-gasolinAudiが使用している呼称)の研究に着手したのが、ドイツの自動車会社Audiだ。2017年に研究施設が設立され、2018年にはフランス化学会社、Global Bioenergies S.A.と共同で、エンジンテスト用に60リットルのe-fuelの生産に成功した。

 

Audiは、2017年以前からe-gase-dieselといったエコなモビリティーの可能性を模索してきた。例えば、g-tronモデル(Audiのラインアップの中のCNG=圧縮天然ガスモデルを指す。主に天然ガスと再生可能なメタンガスを燃料とし、バックアップとしてガソリンを使用する)でe-gasを使用すると、最大80%のCO2の削減が可能としている。e-gase-diesele-gasolinee-fuel戦略の3本柱として、今後も精力的に合成燃料戦略を進める計画だ。

 

一方、日本における合成燃料の動向はどうだろうか。経済産業省は、合成燃料研究会 中間取りまとめ(20214月)において、2030年までの高効率かつ大規模な製造技術の確立および、2040年までの商用化を目指すべきとの考えを示した。そのために、2020年代に集中的な技術開発や実証実験に取り組むべきであるとしている。

 

実際、国内においても関連技術の研究開発がおこなわれてきた。2020年には、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDOが「CO2からの液体燃料製造技術に関する開発シーズ発掘のための調査」を実施した。2020年末には、東芝エネルギーシステムズなど6社が「持続可能なジェット燃料」を検討し始めているまた、2021年になってからは、JPEC(石油エネルギー技術センター)と石油会社などが、CO2からの液体合成燃料一環製造プロセス技術の研究開発」における連携を開始した。

図) CO2からの液体合成燃料一環製造プロセス技術の研究開発の概要図)CO₂からの液体合成燃料一環製造プロセス技術の研究開発の概要

出典) 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO

 

日本の自動車業界では、トヨタ自動車日産自動車、ホンダの3社がe-fuelの研究開発に本格的に取り組み始めているが、実用化はまだまだ先になりそうだ。

課題と今後の展望


合成燃料も商用化に向け克服すべき課題がある。

まず、低い生産効率だ。e-fuel製造のCO2からO2を取り除くプロセス(還元反応)には大きなエネルギーを要する。還元後の生成プロセスにおいても、最適な触媒を開発する必要がある。

 

コストの問題もある。合成燃料の製造コストは化石燃料よりも高い。合成燃料はCO2H2から作られているため、CO2の分離・回収コストとH2の製造コストや輸送コストを下げていくことが重要だ。海外には、水素を日本よりも安く製造できる地域もあるので、輸入も検討していくべきであろう。



また、「合成燃料」がカーボンニュートラルであるためには、DACバイオマス由来CO2の活用が不可欠だ。つまり、これらの技術開発と平行して進めねばならない点にも留意せねばならない。

ガソリン車のみならず、日本が強みを持つハイブリッド車への活用も見込める合成燃料はカーボンニュートラルに向け、必要な技術の一つではあろう。しかし、ことはそう単純ではない。技術開発競争だけに目を奪われていてはならない。

カーボンニュートラルを巡る熾烈な国際競争


「合成燃料」で先行する欧州が、その定義などでデファクトを取ろうとする可能性は高い。EVの充電器規格で日本と欧州が互いに譲らず、異なるものができたのは記憶に新しい。21世紀の国際競争は単に商品の優劣だけで決まるものではない。周辺技術の標準化や、環境規制などでライバル国を蹴落とすことも相手に勝つための戦略的手段となる。

例えば、EU202012月にEVバッテリーの製造・廃棄・リサイクルに関するLCA規制を提案している。LCAとは「Life Cycle Assessment(ライフサイクルアセスメント)」の略で、製品の製造、輸送、販売、使用、廃棄・リサイクルまで、すなわちある製品やサービスの一生(ライフサイクル)の環境負荷を評価するものだ。今後はバッテリーのみならず、車体そのもののカーボンニュートラルも要求されることになるだろう。そうなると、電力の脱炭素化が遅れている日本は不利になる可能性がある。



「合成燃料」は、日本が国際的なカーボンニュートラル競争の中で、産業競争力を保つための一つの手段に過ぎない。産官学、一体となった脱炭素競争戦略の必要性が今、一段と高まっている。

安倍宏行 Hiroyuki Abe 

安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
Japan In-depth
     

https://ene-fro.com/article/ef205_a1/

 

 

合成燃料CnH2n という化学記号(https://bizchem.net/what-is-ft/)になっているので、二酸化炭素CO2と水素・H2から作られるのであるが、一般的に工場から排出されるCO2DAC (Direct Air Capture)による空気中からのCO2と水・H2O電気分解による水素・H2を高熱で分解して合成ガス・CO+2H2を作り、それをFT合成という方法で液体の合成燃料・CnH2nとするものである、とものの本には書かれている。

 

FT合成とは、CO2を高温の水蒸気・H2Oで分解してCOH2の合成ガスを作り、その合成ガス

をコバルトや鉄の触媒で再度つなぎ合わせることによって、液体の合成燃料・C2H2nを作る方法である。

 

FTとは、第二次世界大戦中に石油に事欠いたドイツのフランツ・フィッシャーとハンス・トロプシュが発明した燃料で、その頭文字をとってFTFicsher-Tropsch)合成と呼ばれているものである。(https://bizchem.net/what-is-ft/
(続く)