世界の流れは、EV化(96)

 

図2 EVの普及によるカーボンニュートラルに対する疑問

2 EVの普及によるカーボンニュートラルに対する疑問
(出所:日経ものづくり)   [画像のクリックで拡大表示]   



 EVの普及がカーボンニュートラルに貢献する可能性は高いが、EV一辺倒が良いわけではない。また、EVが普及するためには解決すべき課題があり、その解決策を探る必要がある─。専門家への取材からは、こんな実状が浮かび上がる。

発電時に排出したCO2は?

 加熱するEVブームに一石を投じたのが、日本自動車工業会JAMA)会長でトヨタ自動車社長の豊田章男氏だった。213月に開いたオンライン会見で、総発電量の約75%を火力発電が占め、再生可能エネルギーのコストが火力発電より高い日本の電力事情について触れたのだ(表1)。

1 日本・海外のエネルギー状況

日本では火力発電所での発電量が海外に比べて高い。20213月に公表。(出所:日本自動車工業会

表1 日本・海外のエネルギー状況

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 この時に豊田氏が強調したのは、「LCALife Cycle Assessment:ライフサイクルアセスメント)ベースでの炭素中立の実現」だ。

 LCAとは、製品の原材料生産から廃棄に至る製品のライフサイクル全体で環境負荷を評価する考え方だ。欧州では、EVなどの電池に対して24年からLCAによるCO2排出量の申告を義務付けるなど規制強化の議論が本格化。日本でもLCAの考え方が浸透し始めている。

 この時、なぜ豊田氏は「総発電量の75%を火力発電が占める日本の電力事情」に言及したのか。それは日本の系統電力の電源構成が、EVCO2排出量に影響するからだ。

 EV自体が走行時にCO2を排出しないのは疑問の余地はない。しかし、モーターを動かすのに石炭火力などCO2を排出する火力発電所で発電された電気を使っていれば、走行時にCO2を排出しているのに等しい。特に原子力発電所がほとんど稼働していない日本では電源における火力発電所の比率は高い。「EVが増えて電気を使えば使うほど、CO2排出量が増大しないか、本当にCO2排出量がガソリン車より少ないのか」という疑問が頭をもたげる。

 

 

「走行時CO2排出量はEVの方が小さい」

 この疑問に対して、使用する電気の電源を考慮しても、「走行時に限って言えばEVCO2排出量はガソリン車やハイブリッド車HEV)より『少ない』と言っていい。仮に火力発電所しかない電源構成でもほぼ確実に少なくなる」と答えるのは、電力中央研究所(電中研)グリッドイノベーション研究本部研究参事の永田豊氏だ。理由は「ガソリンエンジンよりモーターの効率の方が良い点に尽きる」という(同氏)。

 この仮説を証明するデータがある。電中研の試算だ1。永田氏によると、日本の火力発電の約半分はCO2排出原単位2が石炭火力の半分以下の天然ガス発電であるうえ、電源構成で水力発電1割程度を占める。最近は太陽光発電も増えている。電中研の試算では、「系統電力のCO2排出原単位が(17年度の全電源平均である)496g/kWhを超えるケースはまずないだろう」(同氏)という。

1 分析に当たっては、製造と走行に伴う波及効果を含め、温暖化ガス排出量を評価できるように産業連関モデルを拡張した。総務省の「産業連関表(2015年)」や国立環境研究所の「産業連関表による環境負荷原単位データブック(3IED)(2015年)」、富士経済(2017a)、富士経済(2017b)などのデータを基に、分析モデルの部門分類に電動車部門を追加した。

2 排出原単位
定量の電気をつくる場合のCO2排出量。

(続く)