世界の流れは、EV化(97)

 電中研では日産自動車EV「リーフ」やトヨタ自動車の「プリウスPHV」などが走行する際のCO2排出量を積算。系統電力のCO2排出原単位の増減によって、どのように変化するかを比較した(図3)。

図3 ガソリン車とEVの走行時CO<sub>2</sub>排出量の比較

3 ガソリン車とEVの走行時CO2排出量の比較   

1kWhを発電するのにどれだけのCO2を排出するかを示す「排出原単位」によって変わる、ガソリン車とEVの走行時CO2排出量を比較。各社のカタログを参照。国土交通省が定める「JC08モード」での走行を想定して試算。(出所:電力中央研究所    [画像のクリックで拡大表示]

 このグラフを見ると、仮に石炭火力発電が100%だとするとEVである日産自動車のリーフの走行時CO2排出量は、ガソリン車である同社のノートよりも多くなってしまうが、17年度の全電源平均ではノートより少ない。トヨタ自動車PHEVであるプリウスEV走行させた場合は、石炭火力発電が100%でもノートより少ないという結果が出た。

 このグラフによれば、系統電力の排出原単位が496g/kWhより少ない場合、EVの走行時のCO2排出量は少なくともガソリン車よりは小さいことになる。

 もう1つの電中研の試算がある。資源採掘から材料や部品、車両の製造、生涯走行に至るまでのCO2排出量を、EVHEVPHEV、ガソリン車で比較したものだ(図4)。この試算でも、EVの排出量が最も低いという結果となっている。このグラフを見ると、EVは「素材・部品・車両製造、物流」と「燃料・電力製造」におけるCO2排出量の合計はガソリン車などよりも多い。それでも走行時のガソリン燃焼による排出がない分、トータルではHEVPHEVに比べても少ないという結果になる。

図4 1台当たりの温暖化ガス排出量

4 1台当たりの温暖化ガス排出量  

事業用火力発電比率が90%として試算。EVリチウムイオン電池の製造に伴う温暖化ガス排出量が多いため、「素材・部品・車両製造、物流」における排出量の比率が高い。電力で走行するので、充電需要に伴う「燃料・電力製造」の比率も高い。(出所:電力中央研究所      [画像のクリックで拡大表示]

 電中研の試算では、走行時に限定しても、材料や部品、車両の製造まで含めた「トータル」のCO2排出量も、EVの優位性は揺るがないという。「燃費が良いHEVなら(CO2排出量で)EVとの差が縮まる可能性はある。ただし、どんなに燃費が良くなっても、走行時の排出は残るので、カーボンニュートラル実現に向けては、電源の脱炭素化に併せてEVを普及させることが重要になる」(電中研社会経済研究所主任研究員の間瀬貴之氏)と結論づける。

 ただし、この試算には廃棄時の排出量は含まれていない点に注意が必要だ。一般的なLCAでは、廃棄時まで含める。つまり、廃棄まで含めた場合は結果が変わる可能性がある。

 LCAの観点からCO2排出量を考えるのは重要だが、実は現時点ではまだ全世界で統一された算出法は確立されていない。LCAの難しさは、燃費や走行の仕方などの前提条件で結果が変わってしまう点にある。日本自動車研究所環境研究部LCAグループ主任研究員の鈴木徹也氏は、「世界で評価方法をある程度ルール化した上でLCAで評価し、その方法で算出されたLCAの数値をカタログに載せるような仕組みが必要だ」と指摘する。

バッテリーや充電の問題解決が必要

 仮にLCAの評価方法が確立され、EVCO2排出量がガソリン車やHEVより小さかったとしても、それでEVに対する疑問が解けるわけではない。普及させる上で技術的な課題を抱えているからだ。

 特に重要なのがバッテリーをめぐる課題だ。現行のリチウムイオン2次電池の多くは、いま以上のエネルギー密度の大幅な向上が見込めない。質量エネルギー密度で280Wh/kg程度、体積エネルギー密度では800Wh/L程度が上限とみられている。そのため長距離移動が求められる運輸トラックなどではバッテリーの体積が大きく、重くなる。クルマが大型になるほど電費が悪くなり、さらに大きなバッテリーが必要になるというジレンマに陥る可能性が高い。

 正極材料にコバルトやニッケルなどの希少金属を使っており、コスト低減も難しい。製造時のCO2排出量も多い。図4EVの「素材・部品・車両製造、物流」が、ガソリン車やHEVより多いのは、バッテリー製造時の排出量の影響が大きい。電中研の間瀬氏によると、「EV製造時の排出量の4割程度はバッテリーが占める」という。

 また、現行のリチウムイオン2次電池の多くは可燃性の有機電解液を使っている。そのため、充電中に発火したり、衝突事故の衝撃などで正極と負極が短絡して発火したりする事故が世界各地で発生している。エネルギー密度が高くなるほど、危険性も高まる。こうした課題を解決するためにはエネルギー密度を高める一方で、安全性を確保し、コストを抑える次世代電池の開発が待たれる。

 長い充電時間も課題だ。一般家庭などに設置できるEV向けの普通充電設備は、車種や充電設備によって多少の違いはあるが、普通充電(200V)だと30分で10km程度走行できるといわれている。急速充電設備を使っても同じ10km程度走行するために12分を要する。30L程度のガソリンタンクを満タンにするのに5分とかからず、航続距離が数百km程度に及ぶガソリン車に比べてあまりに長い。

 充電ステーションのような都市基盤の設置も必要だが、充電にこうまで時間がかかると、EVの販売・保有台数が増えた場合にステーション数が追いつかない可能性もある。

 国土交通省によると日本国内におけるCO2排出量(約11800t2019年度)のうち、自動車全体の排出量は16.0%(1888t)と2割弱。これをEV化で低減できればもちろんカーボンニュートラルに貢献する。

 もっとも、日本国内における20年度時点のEV保有台数は約123700台(乗用車)で、軽自動車や乗合車などを加えても約13万台にすぎない(表2)。同年時点の乗用車の保有台数は約6180万台(軽自動車を含む)だから、EVはその0.2%でしかない3

(続く)