表2 国内のEVなど保有台数
(出所:次世代自動車振興センター)
※自動車検査登録情報協会のデータと一部メーカーへのヒアリング調査などによって算出した各年度末時点の推定値。FCVについては、2014年度末からデータの計上を開始。
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*3 自動車検査登録情報協会の調べ。
技術的な課題を解決して保有率を向上させなければ、EVがカーボンニュートラルに貢献するとは言えないだろう。
脱・ガソリン車が唯一の解なのか
そして最後の疑問だ。脱・ガソリン車が唯一の解なのか。
日本総合研究所フェローの井熊均氏は「モビリティーの範囲に限って言えば、EVの普及によるカーボンニュートラルだけでなく、むしろ、公共交通機関にシフトするのが有効ではないか」と指摘する。貨物や旅客当たりのCO2排出量はバスや鉄道、船舶などの方がはるかに少ないからだ(図5、6)。「鉄道やバス、ライドシェアなどを連携させるMaaS(Mobility as a Service)などを活用すれば、日本ならではのカーボンニュートラル対策を打ち出せる」と提案する。
図5 旅客用途の交通機関における輸送量当たりのCOの排出量
(出所:国土交通省) [画像のクリックで拡大表示]
図6 貨物用途の交通機関における輸送量当たりのCO2の排出量
(出所:国土交通省) [画像のクリックで拡大表示]
ガソリン車からEVへの全面シフトには、解決しなければならない課題も多く、それが唯一の解というわけではない。EV普及はモビリティーにおける有効な手段の1つであると改めて認識し、社会全体を俯瞰(ふかん)して幅広い視点でカーボンニュートラルを捉えていく。その姿勢こそが現時点で取り得る解だろう。
EVだけでない都市レベルのエネルギー管理を
日本総合研究所 フェロー 井熊 均 氏
国内外でEV製造への集中を宣言する自動車メーカーまで現れているが、ビジネス上の大きなリスクになりかねない。
というのも、当面世界市場で販売されるクルマの半分はHVになりそうだからだ。米国と中国というクルマの2大市場は新車販売の2030~35年の半分をEVやFCVにする方向を示している。つまり半分はHVを販売することを意味する。
またEVでは既に10~20年という時間をかけてEVのバリューチェーンを確立している中国に勝てそうもないからだ。EV購入の補助金制度ばかり話題になるが、中国は国を挙げてEV生産体制を構築している。リチウム鉱山の権利把握から蓄電池産業の振興、EVメーカーの後押しに至るまで、他国が一朝一夕でまねできるものではない。EV製造の水平分業体制も整っており、価格競争では中国メーカーに勝てるとは思えない。少なくとも1企業の努力ではどうにもならないだろう。
日本に求められる独自戦略
現在は世界中が、「EVバブル」の状況だ。米Tesla(テスラ)の株価が一時期、時価総額で1兆ドル(1ドル114円換算で114兆円)を超えるといった信じられない事態になっている。EV開発にどれだけ力を入れているかという評価だけで時価総額が上昇するといった状況は、EVバブルと言っていい。
今後、カーボンニュートラルの動きが止まらないのは間違いないだろうが、首をかしげたくなるような株価上昇を記録している再生可能エネルギー関連企業もある。これは投資家の意向が働いているからにほかならない。
EVがどこまでカーボンニュートラルに貢献するのか。EVが搭載するバッテリーに必要な希少金属を十分賄えるのか。こうした課題を熟慮することなく、世の動きはEV推進に大きくシフトしている。その原動力は投資家だろう。技術的な観点から見た冷静な判断とは言い難い。
過大評価されている企業がいずれ適正に評価され、過大な株価などがクールダウンするのは金融・経済の常だ。EVバブルもいずれははじけるだろう。
実は日本には、EVよりも強力なカーボンニュートラル対策を打ち出せる潜在力がある。公共交通を中心とした町づくりによるエネルギーマネジメントだ。
モビリティーにおけるカーボンニュートラルの本質は、公共交通への移行と考える。一時期、EVを活用するシステムとして鉄道やバス、タクシー、ライドシェア、レンタサイクルといった公共交通機関を連携させるMaaS(Mobility as a Service)の有効性が注目を浴びていたが、いつの間にかEVの導入ばかりがクローズアップされるようになった。MaaSの本質は公共交通へのシフトだったはずだ。
EVはバッテリーなどに非鉄金属を大量に使用し、その生産過程で大量のエネルギーを消費する。それらを全て再エネで賄えば問題はないかもしれないが、それでもEV1台の生産過程でのCO2排出量を考えると、鉄道やバスなどの公共交通にシフトする方がCO2排出量を削減できる。10人が移動するのに1人1台ずつのEVを利用するより、10人が同じ電車で移動する方がCO2排出量は1桁少ない。だから、公共交通機関が発達している日本はCO2削減に貢献できるのだ。
トヨタ自動車が静岡県裾野市の工場跡地に建設中の「Woven City(ウーブンシティ)」は、都市レベルでのエネルギーマネジメントを産業にする動きとも言える。日本はこうした取り組みをもっと世界に訴えるべきだろう。
充実した公共交通機関を利用したCO2削減策の方が、EV単体でのCO2排出量削減よりもはるかに効果的なはずだ。これを産業化できれば、世界中に輸出できるチャンスがある。EVバブルに振り回されず、こうした都市単位でのエネルギーマネジメントに日本の強みを見いだしていくべきだ。(談)
井熊 均(いくま・ひとし)
日本総合研究所 フェロー
1958年生まれ。83年早稲田大学大学院理工学研究科修了後、同年三菱重工業に入社。 90年に日本総合研究所入社後、創発戦略センター所長などを歴任。2021年6月、専務執行役員を退任。7月より現職。著書に「脱炭素で変わる世界経済─ゼロカーボノミクス」など
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01936/00002/
(続く)