ブチャの「レイプ」が突きつけるもの
悪夢のようなエイプリルフール以降、3G、特に「レイプ死体」の発見はあまりに決定的で、4月第1週のうちに、少なくとも欧州は「100%ロシア排除」に針が振り切れます。
ミュンヘン滞在中は親しくご指導いただいている熊谷徹さんがフォーサイト(https://www.fsight.jp/articles/-/48772)に詳しくお書きになっているように、ドイツではシュタインマイヤー大統領が「対ロ宥和的な政策は誤りであった」と異例の声明を出しました。
メドベージェフ「前大統領」がなりふり構わぬ「侵略行為」などのコメントを発したのは、欧州からの「死刑宣告」に、スピッツが吠えたもの、と見ることができます。
確かにプーチン以下、戦争指導部としては想定外だったでしょう。どこかのコメディアンではないですが「聞いてない」。寝耳に水だったかもしれません。
まあ「拷問」や「虐殺」はFBSの常道手段ですから、言ってみれば「想定内」の残虐行為です。
ただ、これらについては「戦争犯罪か?」と問われた時、いくらでも言い逃れができます。
「スパイだった」「歯向かおうとした」「やむを得なかった」死人に口なしですから、言ったもの勝ち。水掛け論で押し通せます。
しかし強姦殺人や略奪は違う。これは言い逃れのできない「犯罪」で、一国の国軍が命令系統を通じて指令することはありません。
4月9日、時事通信は、軍規の緩んだロシア兵が戦車の中などに隠して持ち去ったのでしょう、ベラルーシから本国に送った洗濯機やエアコンからテレビ、スクーターまで、ウクライナの商店や個人宅から略奪した盗品を発送する模様(https://news.yahoo.co.jp/articles/1f3b117ba3130000a8bc72ccb4c6235199184fd5)を報じました。
窃盗犯。単なる泥棒で、これだけでプーチンの「人道的特殊軍事行動」強弁は、もうアウトです。戦場でレイプや略奪が発覚すれば、軍法会議と略式裁判で直ちに「銃殺刑」も普通のこと。レイプや泥棒は戦場で「絶対にやってはいけないこと」です。
また民兵組織や、復讐の怒りに燃え上がった大衆暴動などでは、強姦殺人や略奪の秩序崩壊が起きやすい。これも発覚すれば厳しく裁かれます。
私は2008年、ルワンダ共和国大統領府の招きで6週間現地に滞在し、ルワンダ国立大学や国営放送局とメディア濫用によるジェノサイドの再発防止プログラム作りに協力した経験があります
その折、都合3度にわたってジェノサイド事犯を裁く法廷(「ガチャチャ裁判」)を傍聴し、戦場での強姦や強奪のな生々しい現実に接しました。それをまざまざと思い出しました。
極刑が待つA級・B級・C級戦犯
ブチャに遺された「証拠」には、複数の異なる水準のものが混在しています。
#1:街中に放置された遺体、地下室で発見された拷問死体などは、FSBの命令系統に沿って実行された残虐行為の犠牲者と考えられます。しかし、
#2:商店から持ち出されたテレビや冷蔵庫、一般家庭に踏み込み、冷蔵庫から食料を持ち出して庭で火を焚いた飲食などの「略奪」の跡は、上官の命令ではあり得ない。
元来は2日間電撃戦に勝ったのち、着々と侵略していく予定だった「正規軍」は、年齢も若く殆ど戦歴のない18歳や19歳の若い兵士が多いとされます。
そこに兵站の補給が途絶えたら?
経験豊富な軍人であればまだしも、軍紀のとれない素人兵の寄せ集めであれば?
食糧不足に陥った部隊は、容易に武装する暴徒集団に変化してしまいます。また故郷で待つ恋人に、盗んだバッグをお土産に持っていくと語るロシア兵の肉声なども傍受されてしまいました。
まさに「ヴァイキング」海賊の恋人たちで、17世紀以降の国際法では、間違いなく有罪となる「窃盗犯」以外の何物でもない。
#3:ましてレイプ、強姦殺人は言い逃れのできない「凶悪犯罪」でしかありません。犠牲者の遺体に犯人の体液など残っていた場合、犯人の特定も可能となります。
だからこそ、多くの軍は最前線にも「従軍慰安所」を設け、それが今に至るまで問題の尾を引いているのも周知の通りです。現地で民間人にやってしまったら、終わりです。
で、終わったわけです。
プーチン戦争指導部は4月1日時点で「お前は既に死んでいる」状態となった。ドイツやEUの死刑宣告は、そのダメ押しに過ぎません。
ちなみに、なぜ兵士は略奪・強姦事件を起こしやすいのか?
それは、自分自身の生命も危険に晒されている最前線で、生きものとしてのあらゆる「本能」が極限まで高まり、食欲や性欲など動物的な衝動の爆発を抑えられなくなるのです。
これも私自身、ルワンダの現場で、複数の実行犯から直接耳にしました。
国連決議でプーチンは訴追可能
軍紀の低い武装した若者が前線に取り残され、彼らは本能に従って食物を奪い、強姦殺人を犯し、略奪した「戦利品」を持ち帰った。これらすべて、間違いなく「犯罪」です。
でもこうしたC級戦犯の犯罪は、本人だけの責任なのでしょうか?
これらよりも重い罪、拷問殺人などを犯したFSBなどが捕らえらればB級戦犯に問われるでしょう。こうした裁判でB級被告人は
「命令があったから」「軍人として職務をこなしただけ」と言い訳します。敗戦後の法廷では、多くの場合この言い訳は通用しません。
しかし最も重い責任を問われるA級戦犯は、どうなのか?
プーチンやメドベージェフなどの「最高指導者」たちは「兵隊にレイプしろ、などと決して命令してない!!!」と慌てて否定するでしょう。
ということは、彼らA級戦犯は無罪なのか?
ヤクザの親分は、末端の鉄砲玉が犯した犯罪に責任を問われないのか?
事実、プーチンもボルトニコフも「強姦しろ」などと一言も命じてはいないでしょう。
昨2021年夏、北九州の暴力団「工藤会」の「総裁」と「会長」は、個別具体的な命令は発していないと思われますが、死刑と無期懲役の判決を受けました。
この「工藤会」暴力団のケースとロシアを直接比較する是非は措くとして、軍紀統制が取れず、強姦や略奪、組織だった窃盗などがあれば、一般に総司令官は100%、重い管理責任を問われます。
これはナチスを裁いたニュルンベルク裁判から極東軍事裁判、ルワンダ・ジェノサイドのアル―シャ国際犯罪法廷に至るまで一貫する判断です。
(続く)