ロシアのウクライナ侵攻(9)

2.戦闘膠着時は後方を叩け

 ウクライナ軍は、東部・南部でのロシア軍の攻撃前進を何とか止め、そして、5月には反転攻勢に出たい思いであろう。

 

 ウクライナ軍が攻勢に転移するため、今後の戦い方は、ロシア軍の後方部隊、つまり、第2梯隊か予備隊、砲兵部隊、防空ミサイル部隊、工兵部隊(障害処理と応急渡河器材)、弾薬・燃料・食料などの補給を担当する兵站部隊を叩くことだ。

 

 ここで戦闘の膠着状態の流れを攻勢に変える。

 

 ウクライナ軍が攻勢に出られるポイントは、大量の自爆型無人誘導砲弾を発射できる火砲の射撃(通常の砲弾を発射できる火砲ではない)が勝敗を分ける。

 

 なぜなら、戦闘が膠着してくると、相互の戦力、特に戦車と対戦車ミサイルがぶつかり合っている近接戦闘だけでは、大きな戦況の進展が見られなくなり、相互に無謀な突撃戦闘をしなくなるからだ。

 

 ロシア軍が、プーチンに脅されて命令されたとしても、兵士は自分の命にかかわると直感的に思えば、無謀な突進はしない。

 

 では、大きな戦況の進展がなくなっている今、何が、勝敗を決定するのか。

 

 それは、前線の戦闘と合わせて、軍部隊の後方で行動する部隊を同時に破壊することだ。

 

 前線で戦う兵士は、後方から支援する砲の射撃、上空を防護する防空兵器、弾薬を補給する部隊や後方連絡線が遮断されると、孤立して各個撃破されることを恐れるために、パニックになって後方に後退するのだ。

 

 指揮官が兵士に、その陣地を死守せよと命令しても、彼らは恐怖心が優先して、後方に下がる。

 

 数人が命令に反して後方に下がると、大勢が逃亡する、そしてその雪崩現象が起きて、防御が瓦解してしまう。

 

 過去の戦史ではよくあることだ。

 

3,使えない兵器と使える兵器

 両軍が戦う戦場において、敵の後方部隊を叩くには、対地攻撃機・戦闘機、空挺・ヘリボーン攻撃、火砲、短距離ミサイルがある。

 

 新型の防空ミサイル網が張り巡らされた戦場では、戦闘機など、空挺・ヘリボーンは、ミサイルで打ち落とされる可能性が高いために、大きな被害を受けるので、投入することは難しい。

 

 火砲はもともと曲射弾道であることから、戦車などの目標物を狙うものではなく、地域に展開する歩兵やトラックなどのソフトターゲットを狙って射撃するものである。

 

 そのため、移動する戦車には命中させることができないし、戦車の厚い装甲板を貫通することはできない。

 

 射撃範囲は、20キロ前後だ。ロシア軍の火砲は、この旧型のものだ。

 

 しかし、米・独・仏国が供与する新型の口径155ミリ火砲と砲弾(M982弾)は、新型で、4070キロ先まで射撃することができる。

 

 これまでの火砲と異なり誤差が少なく命中精度が良い。

 

 CEP(半数必中界)は約520メートルという。GPS誘導機能があるのだ。無人偵察機と連携させれば、ソフトターゲットを効率よく破壊・殺傷することができる。

 

 40キロ以内を飛翔する、ミニチュアミサイルと言ってもよいくらいだ。

 

155mm誘導砲弾(M982)(上)と通常砲弾(下)

出所:米陸軍© JBpress 提供 出所:米陸軍    

 短距離ミサイルについては、ロシア軍のイスカンデルミサイルが威力を発揮しているが、ウクライナ軍には新型のミサイルは確認できていない。

 

 ウクライナ軍が必要としている戦闘機や弾道ミサイルの役割を果たしている、いや、それ以上の役割を果たしているのが、新型の自爆型無人と命中精度が良い火砲の射撃だろう。

 

 また、火砲と無人偵察機は、連携して、ロシア軍に狙いを定めて破壊を行っている。

(続く)