ロシアのウクライナ侵攻(36)

 

小手先の軌道修正を行う中国共産党

 他方、中国共産党は、その戦略や基本政策の間違いを小手先の軌道修正で取り繕おうともしている。

 例えば、「ゼロコロナ」政策における「社会面ゼロコロナ」である。

 上海市は、隔離区域外での感染拡大を420日までに封じ込める目標を設定し、「社会面ゼロコロナ」へ方針を緩和した。

 上海市内を「封控区」「管控区」「防控区」の3つの小区に分けて、隔離地域外での感染者数がゼロになれば、徐々に小区の出入りを自由にする段階的な管理を行うものだ。

 全面的なロックダウンから部分的ロックダウンへの方針の緩和である。

 しかし、実際には小区からの出入りは相変わらず禁止され、生活はほとんど変わらないと指摘されており、「ゼロコロナ」政策を変更したわけではないのである。

 また、民間IT企業の締め付けも、緩和されるようである。

 

 習近平主席は、経済の重心を国営企業側に押し戻そうとしている。

「共同富裕」を旗印に格差是正に取り組む中で、近年、存在感を強める電子商取引最大手アリババ集団やインターネットサービス大手の騰訊(テンセント)といったIT企業に対する当局の規制を強化していた。

 しかし、国内経済や若者の雇用の悪化を受けて、それを支えるため緩和方向に路線転換する考えを示している。

 ところが習政権下においては、基本政策としての社会主義市場経済、すなわち共産党が指導する疑似市場経済(国家資本主義あるいは開発独裁)への固執は、今後強まりこそすれ、弱まるようには見られない。

 戦略の世界では、「戦術の失敗は戦略で補うことができるが、戦略の失敗は戦術で補うことができない」という格言がある。

 この格言のように、習近平主席が指導する中国共産党は、まさに戦略の失敗を戦術で補おうとしているのだ。

 それはあくまで小手先の弥縫策あるいは戦術的修正に過ぎず、戦略・政策の根本的見直しや抜本的転換には繋がっていない。

ウクライナ後も台湾の武力統一は不変

 中国は、ウクライナ戦争を注意深く観察・研究しているが、ロシア軍の残虐非道さに対する非難や莫大な人的・物的損失、国際社会からの孤立化などを見ても、習近平主席が内外に向け公言している以上、台湾の武力統一の考えは変わっていない

 それゆえ、中国の台湾侵攻の決意を過小評価してはならないのである。

 ウクライナに対し世界中が糾弾する戦争を仕掛けたロシアのウラジーミル・プーチン大統領と中国の習近平国家主席の思想・行動は、随所に共通点・類似点が見られる。

 プーチン大統領は「ウクライナは(ロシア)固有の歴史、文化、精神的空間の一部」と主張し、習近平国家主席尖閣諸島、台湾、南シナ海を中国のものと主張し、それぞれ一方的に「力による現状変更」を試みている。

 また、プーチン大統領「大ロシアの復活」を掲げたソ連復古主義者であり、習近平国家主席は「中国の夢」としての「中華民族の偉大な復興」を掲げた毛沢東復古主義である。

 いずれも、戦後、日米欧を中心に自由、民主主義、人権、法の支配を共通理念として形成してきた国際秩序に対し、独裁体制の下、専制主義・強権主義の立場から現状変更の挑戦状を突き付けている。

 そして、自らが描く独善的な世界観で冷戦後の国際地図を塗り替えようとしている。

 まさに「民主主義専制主義」の対立によって東西冷戦の再来を彷彿とさせているようであり、世界を再び大戦の危機に陥れている。

 

 ロシアのウクライナ侵攻後の39日・10日、米議会下院の軍事委員会でロシアのウクライナ侵略が中国の台湾侵攻計画に与える影響等に関する公聴会が開かれた。

 そこで、中国専門家のイーライ・ラトナー国防次官補(インド太平洋安全保障担当)、ジョン・C・アクイリーノ太平洋軍司令官、ウィリアム・バーンズ中央情報局(CIA)長官およびスコット・ベリア国防情報局(DIA)長官がそれぞれ証言した。

 彼らは、異口同音にロシアのウクライナ侵攻の国際法違反、非人道性に対する批判および経済制裁強化の必要性について発言した。

 その上で、中国がロシアのウクライナ侵攻を注視していることから、その行動に与える影響を指摘しつつも、台湾の武力統一の考えは変わらず、その決意を過小評価してはならないないと指摘した。

 

 そして、米国の協力と台湾独自の努力によってその防衛力を高め、これを支える西側社会の結束した取組みがあれば、中国に対する抑止力を強化することが出来ると説いている。

 言うまでもなく、中国の主敵は米国であることから、ウクライナ戦争における米国の直接軍事不介入の決定について、これを合理的判断と見るか否かによって中国の対応は大きく変わる。

 もし、米国を「弱腰」と見なせば、中国は台湾に対し一層攻撃的になる可能性がある

 今後中国は、ウクライナ戦争の危機に乗じて、米国を努めて欧州に釘付けし、インド太平洋への関与を弱めようとするであろう。

 さらに、米国のインド太平洋関与をめぐり地域諸国に揺さぶりをかけ、特に台湾の人々に米国の軍事介入の決意を疑わせるようウクライナ戦争を利用するであろう。

 中国は、「接近阻止・領域拒否(A2/AD)」戦略や「一帯一路」構想に基づき、グローバルな覇権拡大を目指している。

 

 特にインド太平洋地域を焦点に、一貫して「力による現状変更」の試みを実現しようと妥協なくかつ高圧的な姿勢で軍事活動を拡大・活発化させている。

 そのため、ウクライナで起きたことは、当該地域で民主主義陣営の第一線に立つ日本や台湾およびその周辺地域でも現実に起こり得ると考えなければならない。

 そして、こうした懸念は、今後一層強まる一方と見ておくべきである。

 ウクライナ戦争は、「力の信奉者(往々にして独裁者)には、力以外のものは説得力を持たず、いかなる経済制裁も外交による平和的解決の訴えも侵略者の行動を抑止することはできない。

 

 そして、抑止が崩れた時に的確に対処できない軍事力は張子の虎に過ぎない」ことを示した。

 日本は、年内を目標に国家安全保障戦略等戦略3文書を見直すに当たり、急変悪化する国際安全保障環境の先行きを見極め、より現実的・具体的で実効性ある体制を速やかに構築しなければならない。

 この際、北朝鮮の核ミサイル戦力の強化や、北方領土問題を抱える日本にとってロシアのウクライナへの軍事侵攻などの事態は決して無視できない脅威であるが、あくまで「中国が最大の脅威」であることを前提条件としておくべきである。

 その上で、まず今後予測される国家非常事態に臨み、今こそ「国防なき憲法」下の戦後体制を克服し、国家百年の計として、防衛力を飛躍的に増大し、祖国防衛の決意を内外に向けて明確に示す時である。

 同時に、日米同盟を基軸とし、クアッド(Quad)やオーカス(AUKUS)を背景に、日米台3か国の連携メカニズムを構築し、同盟国や友好国による周到な安全保障ネットワークの整備・強化に邁進しなければならない。

 このようにして、ウクライナ戦争と同じことをインド太平洋、なかんずく東アジアで起こさせないよう、中国の軍事的冒険に対する抑止力・対処力を強化し、断固わが国を守り抜く国家安全保障・防衛体制の早期確立に注力することが望まれる。

 

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/70311?page=6

 

 

ウクライナではロシアが攻勢に出ているようだが、今後の趨勢は如何なることになるのか。

 

バイデンが武器の供与を出し渋っているようなので、徐々にウクライナ側が押されてくるのではないのかな。80km程度の飛距離の榴弾砲では勝ち目がない。

 

ウクライナはバイデンのために負けることになるのか。残念である。

 

(終わり)