爆笑問題・太田光と(旧)統一教会(23)

岸信介安倍晋太郎&晋三は統一教会の広告塔なのか 

 

90年代、教団の主催する集会やイベントには、多くの政治家が顔を出して、挨拶や演説をしていました。なかには、教組や組織の幹部らと堅い握手をかわす者もいました。20代だった筆者は、「政治家は次の選挙に向けての支持獲得のため、宗教団体を訪れるのだろう」と思っていました。 

 

その頃、集会やイベントなどでしばしば、安倍晋三氏の父親である安倍晋太郎の名前を聞きました。「統一教会の信者が、彼、および彼に近い議員の下に秘書として、多く入り込んでいる」。そんな話を末端の信者たちは何度も聞かされました。当時の教団内の話では、晋三氏の祖父である岸信介元首相とのつながりが深いとのことで、筆者も当時、「安倍一族はそんなに統一教会とつながりが深い人物なのか」とその関係性を不思議に感じていました。 

 

統一教会は信者らは名前を変えたさまざまな団体をつくっていますが、そのひとつに「勝共連合」があります。文字通り、共産主義に対抗するための政治団体ですが、この組織を通じて、安倍氏を含めて多くの政治家とつながりをもっているということでした。 

 

信者時代に聞いて印象深かったことのひとつに、1987年の中曽根康弘の首相退陣の際の教団上層部からの発言があります。中曽根氏が後継として竹下登を指名したことについて、こう言いました。 

 

「中曽根氏は神の摂理に失敗した。統一教会との結びつきの強い晋太郎を総理大臣に指名すべきだった。久保木修己統一教会初代会長)を政治に参加させる道が絶たれた」 

2006年7月24日、小泉内閣の閣僚が国民と直接対話する「タウンミーティング」の5周年記念行事に参加した安倍晋三官房長官(当時)写真=AP/アフロ        

 

その後、父、晋太郎氏が67歳で亡くなった時には、教組や幹部らは非常に残念がっていたという話も伝え聞いています。 

 

山上容疑者の母親も、教団に多額の献金をして20年前(2002年)に破産したということですから、1990年代の信者とすれば、おそらく筆者と同じ話を聞いたと思われます。そして、統一教会が政治の世界を動かして、文鮮明氏を中心とした神の国を実現しようとしている。そうした熱い思いを抱いたことでしょう。 

 

その後、その子供である安部晋三氏は総理大臣を2度も経験しました。昨日(7月11日)の記者会見でも、「安倍氏統一教会の友好団体のイベントにメッセージを寄せていた」ことを教団側は認めています。権力の座についた安倍氏からの言葉は、祝電であれ、メッセージビデオであれ、教団にとって信者を鼓舞するためのとてもよいプロパガンダになったはずです。 

 

そもそも教団内では、上の言葉を絶対に信じなければならないもので、それに下の者が異を唱えることは許されません。よって、組織の上の人物から「安部晋三氏は統一教会と深いつながりがある」「熱烈な教団の支援者である」と言われれば、信者らはそれを疑うことなく信じて、さらに下の人たちに伝えることになります。 

 

教団が政治家とのつながりを積極的に持とうとするのは、彼らの権威を利用すれば、勧誘と献金を増やせるからです。言ってみれば、政治家は広告塔なのです。 

 

信者勧誘の際は「現在の貯蓄は?」と聞くのがセオリー 

 

今回、容疑者の母親は多額の献金をしたと報じられています。筆者自身は学生上がりで貯金もたいしてありませんでした。その分、睡眠を3~4時間に削って、教団に多額の献金をしてくれる人を勧誘(伝道)するのに必死でした。完全にマインドコントロールされていたのです。 

 

勧誘手法のひとつに、街頭で声をかけて、勧誘場所に連れ込んだ人にアンケート用紙を書かせるという手口があるのですが、その項目に「現在の貯蓄は?」があります。勧誘現場の人たちはこの項目を注視していましたので、勧誘を通じて、献金につなげようとしています 


 

画像=宗教法人世界平和統一家庭連合の公式サイトより 

 

統一教会に限らず宗教団体は信者の勧誘時に「うちは、○○さんという政治家の支援を受けている」などとしばしば口にします。つまり、政治家の権威を利用して、自らの思想を信じさせようとしてくるわけです。 

 

真偽不明な話なので、筆者は鵜呑みにしませんが、それを聞いて信じてしまう人はいるのではないでしょうか。 

 

山上容疑者がにわか信者としてわずかでも教団の施設に通っていれば、先のような話を聞いているでしょうし、もし信者ではなかったとしても、母親からの勧誘のなかで、安倍一族に関する話はあったに違いありません。 

 

他者を排除するような思想団体に入信してしまうと、家族に大きな迷惑をかけることになります。筆者も長きにわたって家族に精神的、金銭的負担をかけてきました。脱会についても、家族、親族の献身的な助けを受けました。脱会できたのは、これまで教団から教えられてきた「幸福になるための神の教え」が、どれほど家族らを苦しめてきたのかに気づいたからです。 

 

今回の会見で、会長は「個人の救い」だけではなく「家庭の救い」を目指すなかで、名称を「統一教会」から「世界平和統一家庭連合」に変えた、と語りました。 

 

しかし、それを聞きながら思うのは、「家庭の救い」とは正反対の状況です。 

 

容疑者によれば、母親は教えを信じて多額の献金をした結果、破産してしまいました。それにより、母と息子との関係にもひびが入り、家庭は崩壊しました。 

 

筆者自身が脱会を決意できたのも、多額の献金のため借金に苦しむ仲間の信者らの姿をみて、教団側の言葉の矛盾に気づいたからです。幸い筆者は大きな借金をせずに教団を脱会できましたが、今回のように、金銭を奪われたことで恨みが深くなり、その反動から、過激な行動に出てしまう人もいるかもしれません。 

 

実のところ、元信者やその家族らの教団への恨みから暴力事件などが起こる可能性を筆者は以前から懸念していました。こうした事態を繰り返すことは絶対に避けなければなりません。そこで、あえて過去のつらい経験をお伝えすることにしました。 

 

教団内にいれば、毎日のように「神の国実現」のための献金が叫ばれます。思想を信じる人ほど、その教団の願いに応えようと必死になります。「カードでお金を借りてでも、献金しなさい」と言われれば、そうせざるをえない状況です。その結果、当時、返済に困り、破産したり、金銭的に困窮したりする信者がたくさんいました 

 

こうした「過去の出来事」は、今回の悲劇と無関係とは思えません。かつて統一教会霊感商法に際して「信者が勝手にやったこと」とうそぶくことがありました。しかし、教団の教えをもとに信者がこれらの活動を行っていたことは周知の事実であり、こうした信者の行動に対して一定の責任があるはずです。 

 

もちろん事件の責任は、安倍氏を殺害した山上容疑者にありますが、統一教会の教えが発端になり、山上容疑者の家族関係が破綻に追い込まれたのだとすれば、今回の事件について道義的な責任はあるのではないでしょうか。 

 

それに当時、家や土地を担保にして、無理な借金を重ねさせて献金させるケースは、他にも数多くあったと考えています。こうした献金手法に問題はなかったのかなど、今回のような悲劇を繰り返さないためにも、よりいっそうの厳しい目を向けての議論が必要だろうと思います。 

 


多田 文明(ただ・ふみあき)ルポライター 

1965年生まれ。旭川生まれ、仙台市出身。日本大学法学部卒業。雑誌『ダ・カーポ』にて「誘われてフラフラ」の連載を担当。2週間に一度は勧誘されるという経験を生かしてキャッチセールス評論家になる。これまでに街頭からのキャッチセールス、アポイントメントセールスなどへの潜入は100カ所以上。キャッチセールスのみならず、詐欺・悪質商法、ネットを通じたサイドビジネスに精通する。著書に『サギ師が使う交渉に絶対負けない悪魔のロジック術』、『迷惑メール、返事をしたらこうなった。』、『マンガ ついていったらこうなった』(いずれもイースト・プレス)などがある。 ---------- 

 

https://president.jp/articles/-/59518 

(続く)