世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題で深手を負った岸田政権だが、自民党と教団のつながりには長い歴史があり、遡れば知られざるエピソードが次々出てくる。だが、自公連立政権のバックには国内ではより大きい宗教勢力が付いている。
安倍元首相はその昔「統一教会より創価学会の方が怖い」と漏らし、あの菅義偉元首相さえ「池田大作は人間の仮面をかぶった狼だ」と罵った。平和の党を標榜する公明党は敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有になぜ声高に反対しないのか。『統一教会と改憲・自民党』(作品社)を上梓した評論家の佐高信氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
(VTR)
──1984年に統一教会の開祖である文鮮明氏が米国?で脱税で逮捕された時、安倍元首相の祖父である岸信介元首相が当時の米大統領ロナルド・レーガン氏に釈放を求める手紙を出したというエピソードが本書の中で紹介されていま
す。
佐高信氏(以下、佐高):岸が統一教会と組んだのは共産主義の力を削ぐことが目的ですが、文鮮明もまたそこを利用した。お互いに利用する関係でした。
たしかに、岸は文鮮明の釈放を求めてレーガンに手紙を送っていますが、当時の岸はもはや首相という立場ではなかった。どのようなルートでレーガンに手紙を出したのかは明らかにされていない。ここも問題だと思います。
──当時の自民党にとって共産主義はそれほどまでに恐れる存在だったということですか?
佐高:自民党の中にも2つの考え方があったと思います。岸信介と石橋湛山のそれぞれ異なるスタンスです。石橋湛山は共産主義と競争する「共競」の姿勢でした。共産主義を恐れる必要はなく、競争したって負けやしないと考えた。この石橋湛山の考え方はその後、宏池会に引き継がれていきます。
これに対して、岸信介などは「共産主義は許すまじ」と考えた。ここが大きな違いです。
統一教会は霊感商法や高額献金の問題などもあり、警察の取り締まりの対象になりましたが、直後にオウム真理教の活動の方が問題視され、その陰に隠れて見過ごされてしまった。世の中の関心から逸れたところで増殖し、自民党の中にそれを利用した人たちがいたということです。
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「清和会こそカルトなのでは?」
──「岸に始まる統一教会との縁は岸派を継いだ福田赳夫の時に深まり、その派閥の清和会の後継者、安倍晋太郎にバトンタッチされ、息子の晋三がそれを決定的なものにした」と書かれています。自民党でも特に清和会と統一教会が深くつながっているのでしょうか?
佐高:岸信介の娘婿が安倍晋太郎ですが、安倍晋太郎、竹下登、宮澤喜一の3名が自民党の総裁選挙を争った時に、統一教会は安倍晋太郎を推しました。
安倍晋太郎から安倍晋三に至るまで、清和会は宗教勢力と結びついてき
た。「清和会こそカルトなのでは?」という印象さえあります。
これに対して、石橋湛山の流れを汲む宏池会は政治と宗教を一緒にしてはならない、という信念を持っていた。天皇制との関わりからくる政教分離の発想です。
このように岸信介と石橋湛山の考え方の違いが統一教会問題をめぐり、あらためて浮かび上がってきている印象がある。
文鮮明は日本を支配しようとしていましたが、そのような統一教会と保守を標榜する清和会が手を組んでいた。清和会の単純さと薄っぺらさが見て取れ、まるでコメディーです。
──清和会は霊感商法や高額献金などの問題を抱える統一教会と関係を持つことに危機感はなかったのでしょうか?
佐高:自民党には世襲議員が多い。選挙も伝統的に受け継がれてきた方法で周りがやるので、本人はあまり汚いことや難しいことを考える必要はありません。神輿は軽くてパーがいい。「ぼっちゃん、そちらにいてください」といった調子で。世襲議員は飾りなのです。
福田赳夫の孫で、衆議院議員の福田達夫が統一教会との関係について、「なんでこんなに騒いでいるのか正直よく分からない」と発言して問題になりましたが、本音なんじゃないでしょうか。
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佐高:自民党から出て新党さきがけを結成した田中秀征は世襲議員ではなく、統一教会の選挙の協力を断ったことがありました。そうしたら「田中は容共だ」とビラを撒かれた。
断った時に初めて存在がよく分かるのです。ボンボンの世襲議員たちは先代の引き継ぎなので断らない。
「世襲議員は、存在は許されても行動は許されない」と田中秀征は厳しいことを言っています。こういった世襲議員の典型が岸田文雄だと思います。中身がない。宏池会を名乗らないでほしいですね。
岸田は宮澤喜一の写真を飾っていると言うけれど、宮澤は中曽根と争って最後まで護憲を貫いた人です。戦争ではなく貿易を、というのが石橋湛山の考えですが、岸田はその根本が分かっていない。おめでたい人です。
世襲議員というものは、平和というものを肌で感じることができないのだと思います。政権を維持するためにはどうしたらいいのか、ということだけに頭を使い近視眼的になる。
私は中曾根康弘という政治家の考え方には共感しませんでしたが、自分が総理大臣になったら何をするという考えを彼はずっと持っていた。岸田にはそのようなビジョンはありません。サラリーマンが出世して、そのまま総理大臣になったようなものです。
──安倍晋三さんが統一教会に恨みを持つ若者に銃撃され、凶弾に倒れました。長期政権を通して安倍さん自身が様々なことをしましたが、A級戦犯から総理大臣になった祖父の岸信介さんの歴史とイデオロギーを継承していたがゆえに保守層から象徴的に崇拝され、左派・リベラル層から嫌悪されたのではないかとも感じます。あらためて、佐高さんはどのように安倍晋三という政治家を考えますか。
(続く)