カーボンゼロ、クルマの未来はどうなる?(15)

知財は企業の生死を握る。後では取り返しがつかない」。日産の内田誠社長兼CEOはルノーとの交渉が続く中、周辺にこう繰り返した。「『ゴーン時代』の四半世紀で共同特許などの運用ルールは曖昧になっていた」(日産関係者)という反省があった。 

 

 

日産株43%を持ち優位な立場にあるルノーが対等な資本関係を認めたのは、日産のEVや自動運転車などの特許技術が今後の競争に欠かせず、EV新会社への出資も引き出したかったからだ。ルノーが譲歩し合意に至った6日、内田氏は「議論を尽くした」と述べた。 

 

 

次世代車の成否は知財にかかり、今後の再編は知財の競争力をいかに強化できるかがカギになる。特許調査会社のパテント・リザルト(東京・文京)によると主要分野の特許数はトヨタ自動車が軒並み首位。モーターなどEV関連は7738件、全固体電池は1431件もある。 

 

日産・ルノーをみるとEVは2542件で4位。全固体は177件でトップ5位圏外だ。つながる車は3634件で3位。先進運転支援システム(ADAS)は定評がある。車シェアといった移動関連サービス「MaaS(マース)」などで498件と3位だ。 

 

独調査会社のスタティスタによると世界車市場(トラックなどを除く)は2027年に2兆1800億ドル(約300兆円)に達する。そのうち30%超をEVが占める見通しだ。 

 

米調査会社試算では車のソフトウエア市場規模は30年に今の3倍近くまで膨らむ。1960年代にはゼロだったのが、車産業全体の価値の半分をソフトが占める。富の源泉は工場や生産技術から、特許やソフトなどに移る。車は単なる乗り物ではなく関連サービスも含めた「モビリティーへ転換する。 

 

 

「X万台クラブ」――。車メーカーの再編はこれまで世界販売台数に象徴される規模が重要な意味を持った。コスト削減やブランド力の裏付けとなるからだ。 

 

1999年に始まった日産・ルノー連合も規模を追求した再編だ。400万台から1千万台クラブへの飛躍を目指し、部品や車両設計などの標準化でコストを抑えアジアなど新興国に広げた。 

 

だが、生産設備などの規模を追求した連携は国や地域ごとのマーケットの変化にうまく対応しきれず限界に来ている。 

 

今や再編は車メーカーにとどまらず、車参入が取り沙汰される米アップルやEVでホンダと組んだソニーグループなどの異業種をまき込む。 

 

「車産業は生まれ変わらなければならない」。ルノー筆頭株主であるフランス政府のマクロン大統領は強調する。かつては大統合の絵を描いていたが、ルノー・日産の新体制を支持する姿勢に転じた。乗り遅れれば国力を揺るがすとの危機感がある。日仏連合の再出発と時を同じくして産業秩序の大転換が始まる。 

 

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福井健策骨董通り法律事務所 代表パートナー/弁護士
  

 

分析・考察 

2030年には車のコストの50%はソフトウェア費になる、という記事もありましたね。まさに「軸は知的財産に移る」ということです。自動車に限らず、小資源・成熟社会の日本にとって、知財・情報産業が生命線であることは間違いないでしょう。https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN011RU0R00C23A1000000/そして知財というとすぐに開発や特許が頭に浮かびますが、記事にある通り、それを守り生かすための契約交渉は同じくらい重要です。また杉本さんのおっしゃっる暗黙知も、極めて正しい視点です。これらの開発環境・権利化・その普及と契約交渉力。それらを含んだエコシステムの全体が「知財」であるということを、理解し活かせる法務部門の充実が、急がれますね 

2023年2月8日 8:24 

 

 


山崎俊彦東京大学 大学院情報理工学系研究科  教授
 

 

別の視点 

全く違う分野ですが、みなさんが画像や映像で絶対にお使いになるJPEG/MPEGという世界標準規格があります。当然、これらも知財の塊なのですが、企業間で個別の交渉をしていては大変です。そこで、パテントプールという考え方で運用されています。知財を囲い込むのとパテントプールを採用するのは良し悪しですが、そのような運用形態もあるという参考情報としてご紹介します。パテントプールhttps://www.jpo.go.jp/news/kokusai/developing/training/textbook/document/index/patent_pools_jp_2009.pdf 

2023年2月8日 6:31 

 

 


杉本貴司編集委員論説委員
 

 

別の視点 

トヨタ自動車がHVで圧倒的な地位を築いた背景として見逃せないのが、遊星ギアや昇圧システムといった基幹技術に関する特許だけでなく、むしろ特許として公開しない暗黙知の存在です。その後、トヨタ燃料電池車では特許を他社に提供する仲間づくりの戦略を取りましたが、思いのほか反響は小さかった。トヨタ知財を活用することがすなわちトヨタの主導権の下に入ることになるという懸念に加え、そもそも特許として公開しない暗黙知が競争力を左右するという事実が認識されていたことは否めないでしょう。明文化されない暗黙知をどう育て、どう成長戦略に活かすか。知財戦略にはそんな視点も存在すると思います。 

2023年2月8日 4:31 (2023年2月8日 4:35更新) 

(続く)