カーボンゼロ、クルマの未来はどうなる?(47)

 実際、ポルシェは合成燃料の開発と生産も進めている。同社は22年12月、独シーメンスエナジーとチリで合成燃料の生産を始めたと発表した。工場では風力発電機から水素製造の電解装置、合成燃料製造装置を備え、一気通貫合成燃料を生産できる。 

                                               

ポルシェは独シーメンスエナジーと、チリで合成燃料の生産を始めている 

 

 最初の合成燃料はポルシェのレース用に利用し、26年には年間5500万リットルを生産する予定。28年には5億5000万リットルを生産する計画だ。再生可能エネルギーの電力を使うため、CO2排出量が実質ゼロのカーボンニュートラルを実現できるという。ポルシェが長年こだわって開発してきたものだ。 

 

 最初の合成燃料はポルシェのレース用に利用し、26年には年間5500万リットルを生産する予定。28年には5億5000万リットルを生産する計画だ。再生可能エネルギーの電力を使うため、CO2排出量が実質ゼロのカーボンニュートラルを実現できるという。ポルシェが長年こだわって開発してきたものだ。 

 

 合成燃料の生産と利用は、欧州委員会の要請に対する反抗でもあった。欧州委員会は35年にはエンジン車の新車販売を禁止することを提案していた。合成燃料を使うエンジン車の扱いについては議論が続いていたので、筆者は2月下旬に環境政策を統括するティメルマンス上級副委員長に何度も聞いた。 

 

 ティメルマンス氏の答えはこうだった。「排出ガスフリーにできなければ、EUで生産することも、EUで市場に出すこともできない」と合成燃料を認めない方針を示した。ブルーメCEOの宣言は、こうした欧州委員会の方針に真っ向から反旗を翻すものだった。 

 

 ブルーメCEOの発言の背景にはドイツ政府の後押しもあった。EUでは欧州議会EU理事会が35年にエンジン車の新車販売禁止について暫定合意していたが、ドイツ政府が強硬に反対。最終的にEU合成燃料を利用するクルマに限り販売を認めることで合意した。ドイツ政府やブルーメCEOの執念が実ったのだ。 

 

苦戦のソフトウエアの開発は、以前よりオープンに 

 

 EVシフトと同時にVWの大きな課題になったのが、ソフトウエアの開発だ。鳴り物入りで20年に発売したEV「ID.3」は、ソフト開発の遅れで納車が遅れた。EVはソフトウエアの塊であるため、エンジン車よりもソフトの開発力が必要になる。これはトヨタも含め、既存の自動車会社がEVシフトをしていく際に大きな課題になり得る。 

 

 VWはグループ横断でソフトウエア会社「カリアドを設立したが、自前主義にこだわり、開発が遅れたといわれている。そこで、ブルーメCEOは記者会見で、「オープンソースのプラットホームを提供していく」と外部との協業拡大を示唆した。ソフトの開発遅延でいくつかのEVモデルの発売が遅れたが、ソフト開発をテコ入れして、24年には発売する。 

 

 こうした動きは、3月12日の試乗会でも確認できた。日曜日だったが、カリアドの開発メンバーが集結し、新しい開発方針やソフトウエアを説明。実際、アウディの新車向けに23年夏から新しい機能を導入する。 

 

 韓国サムスン電子傘下の米ハーマンインターナショナルと組み、独自のアプリストアを開発。米アップルの「アップストア」のように、第三者のアプリに直接アクセスできるようになる。また、カリアドは基幹のオペレーションシステム(OS)の新バージョン開発に力を入れており、24年以降の新車に搭載していく方針だ。 

 

 VWは完全にEVにシフトしているという誤解もあるが、EV専業になるとは言っていない経営資源をEVに振っているが、全振りはしていないのだ。トヨタ合成燃料の開発を続け、エンジン利用を続ける方針であり、世界中で1000万台近い自動車を生産・販売する両雄の共通点は多い。その中で、EVソフトの開発に悪戦苦闘する姿もまた共通する。 

 

 ただ、VWグループは22年に57万2100台のEVを販売している。30年には販売台数の5割をEVにする予定であり、過去の販売総数から見るとEV販売は400万〜500万台になる。それに対して、トヨタの22年のEV販売台数は約2万5000台であり、30年には350万台のEVを販売する計画だ。このEVシフトの規模とスピードが両社の異なる点である。シリーズ「沸騰・欧州EV」の次回は、VWの新しいEVについて検証する。 

 

 欧州でEVの販売が急増しています。欧州で発売されたEVが時間差で日本に投入され、欧州の規制が日本の規制の参考にされるケースも少なくありません。そこで、日本の自動車産業の未来を考えるヒントになるように、欧州EVの虚実を伝えるシリーズを展開しています。 

 

 インタビューを交えながら各社の戦略を探ると同時に、「EVは温暖化ガス削減に寄与するのか」などといった様々な問題を検証していきます。これからインタビューをする会社の幹部や識者に対しては、読者のみなさんからの質問もぶつけたいので、質問をコメント欄に書き込んでください。自動車産業の未来を一緒に考えていきたいと思います。 

(続く)