カーボンゼロ、クルマの未来はどうなる?(49)

合成燃料(e-fuelなど)もよいのだが、これはCO2とH2で合成されるので、水素が必要となる。 

 

その水素H2は再生可能エネルギーでの水の電気分解で取り出すことになるものだが、この取り出した水素H2を更に複雑なFT合成という方法でCO2と結合させて液体の合成燃料CnH2nしているのであるが(2023.4.6,NO.29参照のこと)、そんな金の掛かることをせずに直接水素H2をICEで燃やせばよいのではないかと考えて、悪銭苦痛しているのでトヨタである。 

 

水素エンジン車であるが、最近気体の水素から液体水素を使う方法にもトライしているようだが、その実情はどんなものが興味あるものであるが、その前にこのEUのe-fuelの容認をどう考えるものなのか、興味あるところである。 

 

そんな論考を一つ、ご一読願う。 

 

 

欧州の合成燃料容認をどう考えるべきか? 

鶴原 吉郎 オートインサイト代表 2023.04.11 

 

 欧州連合EU)理事会は、2035年にエンジン車の新車販売を禁止するというこれまでの方針を撤回し、カーボンニュートラル燃料のみを使用する車両であれば販売を容認することを正式に決定した。エンジン車の禁止に対して反対を表明したドイツのウィッシング運輸・デジタル相は2023年3月25日、ツイッターに「2035年以降も、内燃機関を搭載した自動車は、カーボンニュートラル燃料のみを使用すれば新規登録が可能だ。気候変動に影響を与えない、安価なモビリティーの重要な選択肢を今後も残す」と投稿した。ここでEUが想定するカーボンニュートラル燃料とは、再生可能エネルギーを使って製造される合成燃料を指す。 

 

EUにおける乗用車および小型商用車のCO2削減目標。乗用車では2030年までに55%2035年までに100%の削減が求められる(出所:EU 

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 EUの方針転換に対して、ツイッター上では賛否入り乱れた多くの意見が投稿されている。反対意見で多いのは、「再生可能エネルギーを電気自動車(EV)で使用すれば総合エネルギー効率70%程度に達するのに、合成燃料にしてエンジン車で使用すれば10〜20%にしかならない」などと効率の低さを指摘するものや、「そもそも合成燃料は電動化が難しい船舶や航空機用のもので、クルマに使うほどの量は確保できない」というものなどだ。 

 

 一方で賛成の意見としては「多様な選択肢が残るのはいいことだ」「エンジンサウンドは重要なクルマの魅力なのだから失われてはならない」といったエンジン車の価値を残したいというものも多く見られる。ただ、全体としては、EUの方針転換に反対・失望を表明する意見のほうが多いように見える。 

 

合成燃料とは何か 

 

 ここで、EU2035年以降も使用を認めることになった合成燃料、いわゆるe-fuel」とは何かについて少し確認しておきたい。e-fuelは、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを使って、空気中の二酸化炭素(CO2)と水(H2O)を反応させて合成する炭化水素燃料である。一般的な製法は、再生可能エネルギー由来の電力でまずH2Oを電気分解し、酸素(O2)と水素(H2)を得る。このH2を600度以上の高温でCO2と反応させて一酸化炭素(CO)を得る(逆シフト反応)。そして、このCOとH2を250度程度で反応させて炭化水素燃料を得る(フィッシャー・トロプシュ法:FT法)というプロセスになる。 

 

 FT法は、触媒を使ってCOとH2を反応させて炭化水素を得るプロセスであり、既に天然ガスなどを原料として液体燃料を得る工業プロセス(GTL:Gas to Liquid)などに使われている。ただし、FT法は希少金属であるコバルト(Co)を触媒として使用する(これ以外の触媒だと、炭化水素の収量が減ったり、反応温度が高温になったりする)うえ、エネルギー損失が多い、炭化水素に変換される比率も100%ではない、などの課題もある。このため、触媒に使うCoを減らす、異なる金属の触媒を使う、反応温度を下げてエネルギー損失を減らす、などの手法が盛んに研究されている。 

 

 こうして製造されるe-fuelの製造コストは、再生可能エネルギーのコストにも左右されるものの、現状では1300〜1400円/Lに達するといわれる。将来的に低コスト化が進んだとしても、200〜700円/L(新エネルギー・産業技術総合研究機構の試算)と、現在のガソリンよりも割高になるのは避けられない。また、先のツイッターの意見にもあったように、合成燃料は製造にエネルギーが必要なため、総合エネルギー効率は太陽光や風力で発電した電力で直接EVを走らせるのに比べて大幅に低い 

 

新エネルギー・産業技術総合研究機構の試算:https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/gosei_nenryo.html 

 

まずは高級車で採用か 

 

 ここまで考えてくると、冒頭で紹介したドイツのウィッシング運輸・デジタル相の「安いモビリティーを確保するため」というツイッター投稿とは裏腹に、合成燃料を使うエンジン車は安上がりなモビリティーとは必ずしもいえない。たとえ車両価格が抑えられても、燃料価格が高くつくからだ。そもそも、先のツイッターでの意見にもあった通り、合成燃料は現在、主に船舶や航空機用として検討されており、多くのクルマを走らせるほどの量は確保できないと予想される。 

(続く)