カーボンゼロ、クルマの未来はどうなる?(54)

一斉充電でも0.03% 

 

電気自動車(画像:写真AC)      

 

 次世代自動車振興センターの統計によると、2021年時点での国内のEV保有台数は14万台弱だ。通常は考えにくいものの、仮にこの10%にあたる1.4万台が同時に3kWで充電した場合でも、消費電力は42MWであり、これまでの冬季の国内の最大需要を記録した2021年1月8日の156GW(15万6000MW)と比べると、増加量は0.03%にも満たない。今後EVの保有台数が10倍に増えても0.3%未満だ。 

 

 さらに、後述するが、自家用車は常に9割程度が駐車されており、駐車時間中に充電を終えれば問題ないため、電力の需給に合わせて夜間などに充電時間を調整することは、決して難しくない。実際にこの冬も、多くの電力会社でデマンドレスポンス(DR = 電力需要や市場価格に合わせて単価を変えたり、インセンティブを用意したりすること)などにより、需要を平準化する取り組みが行われている。 

 

 また、米カリフォルニア州が2022年9月に記録的な熱波に襲われ、電力需給が逼迫した際には、一部の報道やSNS上で「EV充電禁止に」と書かれたが、実際は「不急の場合はEVの充電時間を夕方ではなく深夜にずらすように」という要請だった。 

 

 さらに、同州サクラメントで電力網の戦略的ビジネスプランナーを務めるエリック・ケイヒル氏は、同州で予定されている2035年の新車販売100%EV化に「対応できると確信している」という。10年以上という長い準備期間があることに加え、州政府がEVに対する明確なビジョンを示していることから、設備や制度(DRや後述のV2Hなど)を整えることができるというのだ。ただし、逆に言えば「政府などがあらかじめビジョンを示さなかった場合は、対応が困難となる可能性もある」点に注意すべきだろう。 

 

電力不足の解消にも役立つEV 

 

オーストラリアでV2G対応の充放電設備に接続された日産リーフ(画像:日産自動車    

 

 冒頭で述べた通り、スズキの鈴木社長が節電要請との矛盾を指摘する一方で、EVへの移行に注力する米ゼネラルモーターズGM)のマーク・ロイス社長はビジネスインサイダーのインタビューで、 

 

「EVはV2Gにより電力網への負担を減らせる」 

 

と真逆の趣旨の発言をしている。V2G(Vehicle to Grid)は、電力網の需給が逼迫した際などに、EVの大きな蓄電池にためた電力を電力網に供給する機能だ。V2Gはこれまでも日本を含め世界各国で実証実験が進められていて、EVの普及と合わせて実用化されつつある。 

 

 V2Gを語る際によく「車を使う際はどうするのか?」と指摘されるが、2018年に公開された論文「データから読み解く自動車の使われ方の変化~全国道路・街路交通情勢調査自動車起終点調査の分析から~」によると、国内の自家用車は最も需要が増える朝夕でも約1割しか使用されておらず、残りの約9割は駐車中(あるいは運用休止中)とされている。自宅や勤務先などの駐車場に充放電設備を設置することでこれらの車を活用し、需要が少ない時間帯に充電、需要が逼迫した際に放電し、電力網への負担を減らすことが可能となる。 

 

 現時点での課題としては、充放電設備の設置費用に100万円程度(充電のみなら数万円~)かかる点だが、例えばEVに独自の補助金を提供している東京都では、V2H(Vehicle to Home = EVから自宅への電力供給)機器にも10割近い補助金を提供。東京都在住のEVオーナーであれば、ほぼ自己負担なしでEVの蓄電池にためた電力を自宅で使用可能となる。 

 

 加えて充電するための普通充電器や200Vコンセントについても補助金が用意され、1割程度の費用負担で設置できるほか、管理組合での合意形成から支援したり、初期費用を無料にしたりする設置業者も増えており、東京都を中心に全国の集合住宅や月決め駐車場、公共施設・商業施設の駐車場などで設置が進んでいる。 

 

 一方で豪・南オーストラリア州の送配電事業者であるサウス・オーストラリア・パワー・ネットワークスは日産自動車などと協力し、2022年12月にEVとV2Gを使った独自の新サービスを提供開始。需要が少なく電気料金が安い時間帯に充電し、逆に需要が逼迫する時間帯に放電することで、利益が得られるようになった。実際にこの仕組みを利用している南オーストラリア州の「バリークロフト ワイナリー」では、これまで年間6000豪ドル(約54万円)の電気代がかかっていたのが、太陽光発電を導入することで年間2000豪ドル(約18万円)に削減、さらにEVとV2Gを導入することで逆に年間2500豪ドル(約22万円)の利益が出せるようになったという。 

 

 仮にV2GやV2H設備に100万円かかっても、5年未満でもとが取れる計算だ。もちろん太陽光発電の設備にも初期費用がかかるが、一般的に5~10年程度でもとが取れるとされており、合計でも10~15年程度でもとが取れる計算となる。 

 

EVや蓄電池と再エネによるエネルギー安全保障の強化 

 

太陽光発電のイメージ(画像:写真AC)    

 

 近年は春や夏を中心に太陽光の発電量が増加して逆に昼間に電気が余り、市場連動型の電気プランではkWh単価が0円に近づくことも多い。冬でも、年末年始のような企業が休みとなる時期にも発生することがあり、日本卸電力取引所(JEPX)によると、2023年の元日にも、午前10時から14時ごろに下限の0.01円まで下落した。また、沖縄電力では再エネの増加により、元日に史上初となる再エネの出力制御(電力網の需給バランスが崩れて不安定にならないよう、太陽光などの発電を停止する措置)も行われた。 

 

 前述の通り、昼間でも走行中の車両は1割程度であり、駐車中に電気が余っている昼間に充電することで燃料費を節約できるだけでなく、化石燃料の消費削減やエネルギー自給率の向上につながる。日本を含む多くの国がロシアのウクライナ侵攻などに伴う化石燃料の高騰に苦しんでおり、エネルギーのほとんどを輸入に頼る日本では、特に影響が大きい。新電力ネットが公開している化石燃料の統計情報によると、2022年の化石燃料の輸入額は、2013年に記録した最高額(約25兆円)を大きく上回る約30兆円に達するとみられている。 

 

 安定したエネルギー確保が国家安全保障にとって重要なことは言うまでもなく、化石燃料の輸入に頼る限りリスクが付きまとう。再エネ設備を輸入に頼るリスクも指摘されているが、一度設置すれば数十年稼働する「設備」と、常に輸入を続ける必要がある「燃料」では、大きくリスクが異なる上に、再エネ設備国産化も可能だ。実際に米国では中国産の太陽光パネルに高額な関税をかけ、国産化を進めている。 

 

 これらのリスクに対して、例えば欧州では2022年に2021年の約1.5倍にあたる41GW以上の太陽光発電を追加し、わずか1年で総容量が167.5GWから208.9GWへと約25%も増加した。さらに欧州の二酸化炭素排出量を調査しているCREAのリポートによると、11月の排出量は過去30年間の最低記録を更新した。これは太陽光や風力などの再エネの増加に加え、暖冬の影響などが組み合わさったことが原因とされている。 

(続く)