カーボンゼロ、クルマの未来はどうなる?(62)

トヨタが世界に対して果たす役割 

 

 さて、その上でトヨタが社会、あるいは世界に対して果たす役割は何かと言えば、それはこれまで通り「幸せの量産」である。何を何台つくるかはそのための手段でしかないし、もっと言えば単なる結果であって、経営課題として常に一番上に置くのはあくまでも「幸せの量産」ということになる。 

 

 「幸せの量産と言われてもどうも腑に落ちない」人もいるだろう。そこを説明したのが図2だ。トヨタは世界各地域でクルマを販売するグローバル企業であり、地域によって求められるクルマも技術も異なる。これまでトヨタが何度も説明してきたマルチソリューションとは、「幸せの量産」のために、多様な地域の人々の暮らしそれぞれに合わせた最適な答えを複数用意することであり、それら複数のクルマを最速かつ合理的に生産するために共通基盤技術であるTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)を採用していくことになる。 

 

図2:トヨタは多様な地域の個性に合わせた商品を展開する    

 

 TNGAの採用によって、各地域で具体的にどのように顧客の支持を得られるようになったのかを表したのが図3である。2005年比で小売台数総合計を32%増やしながら、地域ごとのシェア比を均等に近づけている。乱暴に言えば日米がメインの会社から、アジアや中国でもマーケットの取れる会社へと転換を図っているということになる。 

 

図3:18年以降進めてきた地域軸経営によって、総量の増加に加えて、地域の柱が多角化した   

 

 もちろん、そうやって多様な地域のニーズに応える商品をつくることで、コスト的に厳しくなっては意味がない。そこを説明するのが図4である。左のリーマンショックの08年と部品不足で生産が思うようにいかなかった22年を比べると、22年は08年比で台数を8%落としながら、営業利益を32%増やしている。そんなことができているのは「TNGAをはじめとする原価低減」の効果であり、それによって得られたものは「稼ぐ力」と「未来への投資力」である。 

 

図4:稼げる体質の強化と、原資の確保による安定的な未来投資    

 

 という話になると必ず出てくるのが「トヨタばっかりもうけやがって」という陰口なのだが、挙げた利益を「国・お客様・仕入れ先・株主・従業員」にどのように分配してきたかを示すのが図5で、多くに具体的な金額が入っている。まあこれだけのエビデンスを出しても文句を言う人はなくならないとは思うが、数字ベースで見るとこういうことだ。図のタイトルにトヨタの主張が込められている。 

 

図5:従業員や株主、仕入先などのステークホルダーとともに成長するトヨタのサイクル 

 

トヨタが描く電動化戦略 

 

 さて、ここまでが全体的な話で、ここから各論に入っていく。まずは電動化戦略について、これまでの成果を表したのが図6だ。2250万台と書かれているのはHEV(ハイブリッド車)の累計販売台数である。 

 

 これをBEV(バッテリー電気自動車)に換算すると、約750万台に当たるとトヨタは主張しており、電動化プログラムの中でそれだけのCO2削減を達成してきたことを述べている。まあ「敵はCO2」とするならば妥当な主張だと思うが、「CO2をどれだけ減らしたかは関係ない。とにかくBEVをどれだけ売ったかが全て」と主張する人には通じそうもない説明である。 

 

図6:トヨタの電動車累計販売台数      

 

 では、BEVをどうやって増やしていくかを説明するのが図7と図8になる。プリウスの発売以来25年で、HEVの原価を6分の1に低下させ、ついにガソリン車の利益を超えたことが示されている。BEVの事業的可能性を見た時、現実的な話として中国系のメーカーは国からの多額の補助金が入っているので評価のしようがない現状を考慮すれば、きちんと利益を上げているのは世界でテスラだけである。 

 

図7:HEVの収益性について                     

 

図8:利益の拡大で実現した「未来への投資」「みんなで成長」「CO2低減」 

 

 トヨタがBEVのラインアップを増やした際に、テスラ同様黒字になると考えるのはあまりにもご都合主義である。常識的にはBEVに取り組んでいる各メーカー同様、BEV事業は赤字になると考えるのが妥当なので、そのBEVの赤字対策は終わったよ。ということをこの資料は説明している。底が抜けたザルのように赤字が出ても維持できる体制をHEVの利益率向上によって確保したということになる。トヨタはもう少しBEV事業で儲かる会社が増えてから参入したかったのだが、腹を括って「大出血我慢比べ」に参入する覚悟をした。そういう戦い方になるBEV事業を始めるに当たって、まずは滑落防止のザイルを用意したことを示すのがこの図である。 

 

 というところから先は個別の製品戦略の話に移るので、中嶋副社長のプレゼンになるのだが、その前に佐藤社長のプレゼンのまとめ部分をちゃちゃっとやってしまおう。 

(続く)