カーボンゼロ、クルマの未来はどうなる?(63)

 図9は、各地域別のパワートレイン構成比だ。国によって比率は大きく違う。単純にBEVを抜き出せば、ドイツは17%、中国は18%、米国は5%、インドネシアは1%インドネシアに「ドイツの事情に合わせろ」と言っても無理だし、ドイツに「米国の事情に合わせろ」と言っても無理だ。それぞれのマーケットでクルマの使われ方も、経済的な豊かさも、インフラ事情も違う。だから地域ごとにパワートレインも異なるし、そもそもBEVに求められるスペックも違うはずだ。

 

図9:各地域別のパワートレイン構成比

 

 というわけで結論として図10が示される。これから2050年までの26年間を見通せば、図9の比率はどんどん変わっていく。その全てに対応するためにはマルチパスウェイが必要であるという結論になる。そういう意味ではトヨタの結論は豊田社長時代と何も変わってないといえるし、それこそが継承になる。 

 

図10:全てのパワートレーンを強化

 

●今後どう変わっていくのか 

 

 ではどう変わっていくかの短期的見通しを示したのが図11で、先進国ではbZシリーズ、つまりBEVの性能を強化するとともにラインアップを拡大する。新興国では多様なニーズに対応して地域に応じたパワートレインを用意し、働くクルマのCO2を削減する次世代ピックアップトラックを発売。加えて都市内ニーズに対応するために電池容量を限定して、販売価格を下げた小型BEVをリリースしていく。 

 

図11:各地域のBEVの取り組み       

 

 そしてさりげなくすごいことを言っているのが、その次の図12だ。左側のグレーの四角形と右側のそれを比べてほしい。これは台数を表しているので、つまり先進国では既存の台数をトータルで維持できるとトヨタは考えており、同時に新興国では台数を大幅に積み上げる予測でいる。こうした資料をつくる時、説明で言及こそしないものの、そういう数字的ファクトではうそをつかないように丁寧につくるのは当然のことだ。つまり、ここの部分のイメージは図を制作した人の頭の中にあることだと考えて良い。

 

図12:事業成長の構図          事業成長の構図 

 ざっくりと見ると、先進国と新興国に含まれる水色のBEVの面積の合計は新興国の増加分より少ないが、BEVが売れた分、まるごと内燃機関付きモデルが減るという構図ではない。BEVの合計台数を過去の発表数字350万台と仮定するならば、おそらく100~150万台程度内燃機関付きモデルが減って、350万台のBEVが加わることになる。 

 

 それが何を示しているかを読み取れるだろうか? トヨタは、従来のサプライヤー内燃機関部品の大規模な縮小を求めず、販売増加した分についてBEVの部品生産に切り替えて行けば、現状の内燃機関付き車両の部品生産はほぼ規模を維持したまま行かれるルートを考えている。言い換えれば、550万人の雇用を維持しながら、トヨタ全体では、BEVの生産台数を大幅に増やしていく戦略を示しているのだ。 

 

 それが台数と営業利益に何をもたらすのかを描いているのが図13になる。こちらも全くさりげなく、というかバレないように「新興国の成長」の上に書かれている「HEVの台数・収益増」という言葉はまさに匂わせそのものだ。しかもそういうことができるのが「トヨタだからこその稼ぐ力」だと言うのである。もちろんそんなことが本当にできるかどうかは分からないが、彼らが描く絵図はそういうことを意味している。

 

図13:トヨタが目指すさらなる基盤強化             

 

 では、その市場が爆発的に伸びる新興国とはどこか? それはいまバブルに沸いているASEANだろう。テーマとしては違う捉え方をして書いた記事だが、トヨタがすでにタイのマーケットに手を打っているのは1月の記事「トヨタは日本を諦めつつある 豊田章男社長のメッセージ」を参考にしていただければ分かりやすいだろう。実際のところ佐藤社長のプレゼン資料もこの後、タイでの事業に関する資料が数ページ続く。筆者の読みが的外れということはなさそうに思える。 

 

 ところで、各媒体をにぎわしている「26年までに新たに10種の新EV、年間150万台販売」というBEV戦略の話はどうした、という問いに答えるのは、文字数の関係で後編で続けたい。(後編、4月11日掲載予定) 

 

筆者プロフィール(池田直渡) 

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。 

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている 

https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2304/10/news060.html 

(続く)