カーボンゼロ、クルマの未来はどうなる?(68)

 今回各メディアでも大きく取り上げられた「26年までに新たに10モデル、年間150万台計画」の大まかな骨子は、佐藤社長から概要説明があった通り、大きく分けて、これまでのbZシリーズの延長線上にある先進国用の中上級価格帯モデルと、実用ニーズを担う新興国用の短距離小型ベーシックモデルに分かれるはずだ。 

 

26年までに10モデル投入、年間150万台の販売を目指す      

 

 その他、既にスタイルが発表されているスーパースポーツEVもこれに加わるだろう。かつてのレクサスLFAを彷彿(ほうふつ)とさせるモデルである。 

 

米国で開催されたモントレー・カー・ウィーク2022でお披露目されたコンセプトモデル「Lexus Electrified Sport」                    

 

 このクルマの果たす役割は、言うまでもなくトヨタのBEVのイメージリーダーである。21年12月に行われたトヨタのBEV戦略説明会で、質疑応答に答えた豊田章男前社長は「今までのトヨタのBEVには興味がなかった。これからのBEVに興味がある」と言った。「トヨタの、あるいはレクサスのクルマらしい乗り味」、それはつまり金太郎飴ではないBEVということだが、本当にそういうものがつくれるのかどうか、これまで積み重ねて来た言葉が問われることになる。 

 

トヨタが公開した「次世代のバッテリーEV」 

 

 ただ、中嶋副社長が「心揺さぶる走りデザインを兼ね備えたまさに次世代のバッテリーEV」という説明の件に差し掛かった時、バックに映し出されていたクルマは、この「Lexus Electrified Sport」ではなかった。全く未発表のクルマが映し出されていたのである。 

 

プレゼンで紹介された次世代のバッテリーEV         

 

 明らかに新型プリウスのデザイン系統に属するスタイルで、既存のBEVと印象が違う。これまでのBEVの造形は、ボディシェイプとしては、古典的なセダンかSUVがほとんど。ノーズ回りの造形をグリルレスにすることで、BEVらしさを演出してきた。 

 

 まれに「フィアット500」や「マスタング・マッハe」のような、自社のアイコン的デザインを取り入れた少数のクルマが注目を集めていたマーケットに、トヨタは、明らかにスペシャリティのジャンルを狙った、4ドアのクーペライクデザインセダンを投入しようとしている。それはブランドイメージをけん引すればよい限定的販売台数のスーパースポーツと異なり、本当に顧客の選択肢となる商品群の中で、旗艦となる商品だろう。 

 

 Cピラー回りの処理を見る限り、明らかにリヤドアを備えた4もしくは5ドアモデルである。少々見飽きた感が出てきたSUVに代わって、クーペライクデザインのセダンBEVは、基礎的なシェイプそのものに未来感がある。その未来感を担うのは、内燃機関車の常識を超えて、極端に低いノーズと、ハイライトを強制的に入れるためのプレスラインをもたないぬるりとした面構成で作られた造形だ。 

 

 一例としてノーズの起点からフロントタイヤ上へと続くフェンダーの厚みを、既存のBEV、例えばこれまで先進的でスタイリッシュといわれてきたテスラモデル3と比べてみると、その違いは分かりやすいだろう。 

 

 同時に「シャープで低く、視覚的に軽いルーフラインと、力強く踏ん張った大きな4つのタイヤ」という伝統的クルマのデザインとしての“カッコいい”を備えてもおり、このコンセプトを見る限り、最終的な仕上がり次第では伝統の延長に新たな世界を拓いた新提案といえるものになるのかもしれない。 

 

●デザインから期待できる車両キャラクターの方向性 

 

 モデル3との比較において、余談を述べれば、床下にバッテリーを置くレイアウトをスタンダードにしたテスラのデザインでは、ドライバーの着座位置はどうしても高くなる。当然頭上のクリアランス確保のためには、ルーフ高は上がる。 

 

 テスラは、ドアとサイドウインドーの境目、それはつまりウエストラインを下げ、グラスルームを厚く取ったデザインにまとめた。パッケージとして合理的とも言えるが、一方でクルマの普遍的なカッコ良さを担う、薄く低く幅広くというデザインセオリーには反することになる。グラスルームを薄く小さく取ったトヨタのコンセプトモデルと比べると明らかにその印象は異なって見えるはずだ。 

 

 ノーズから完全に連続して立ち上がるAピラーと、後席頭上にピークが置かれたこのデザインは、新型プリウスで始まった新しいトヨタデザインだ。空力的にはテスラのように、もっとピークを前に持って来たいところを、グッと我慢してスタイルを優先するためにピークを後ろへ移動させている。 

 

 しかしそのおかげで、従来のドライバー上にピークがあるデザインの無駄なルーフ高を削れた。前方に置いたピークから、後席頭上へ向かって下降していくラインを描くと、リヤパッセンジャーに必要な空間を確保するために、前席頭上のルーフピークを高くしなくてはならない。 

 

 よって、ルーフピークを後退させることで、前面投影面積を減らし、よりバランスの良い前後室内空間がつくれる。空力(リアのリフト)の不利は独特の制流機能を持つアンダーフロア形状でクリアしてくることが予想される。そこはプリウスと同じ手法になるだろう。 

 

 何より、このデザインは明確に車両キャラクターの方向性を示している。このカッコで遅い、あるいは鈍重な身ごなしはない。そしてその走りに関しては、新型プリウスと同等以上の仕上がりが期待できるはずである。 

(続く)