カーボンゼロ、クルマの未来はどうなる?(69)

●航続距離を2倍に 

 

 さて、コンセプトカーから離れよう。もう1つ、明らかになったのは、電池の使い方を中心に航続距離を2倍にするという目標だ。航続距離2倍もすごいが、技術の使い方によっては、従来の航続距離にとどめてバッテリー容量を半分にできる可能性も秘めている。 

 

 1台当たり200万から300万円といわれているバッテリー価格の半分をコストカットできれば価格的に大きなアドバンテージを取れるはずだ。つまり高価格モデルでは航続距離延伸に、低価格モデルでは価格の低減に使える技術だということになる。 

 

 以前バッテリーに関する発表会の中でトヨタが説明した「バッテリー価格半減案」を思い起こさせる。電極素材の組成をコンピュータシミュレーション解析することによって、安全(要するに発火抑制だ)に影響を与えることなく高価な希少金属の使用量を大幅に削減することで、30%のコスト低減。空力を中心とした車体側の技術でも30%を低減する。対数を取って7掛けの7掛けで0.49、つまり50%削減するという話だった。おそらくはこの話の延長で、航続距離2倍という数字が出ているものと思われる。 

 

 問題は150万台の部分だろう。果たして3年後までに、BEVを150万台も販売できるのかといえば、正直なところかなり難しい課題だと思う。10モデルかつ年間150万台、これに発表&発売済みの5モデル(UX300e、C+Pod、bZ4X、bZ3X、RZ)を加えても1モデル平均で10万台は売らなくてはならない。元より勝算なしのただの掛け声ならばそれまでだが、もし本気で実現するのであれば、高価格モデルだけを売っても達成できる数字ではない。ある程度リーズナブルな価格で、それなりの実用性能を持つモデルがなければ難しいだろう。 

 

 それをどう進めるかの話が図3になる。衝撃的なのは左側の、開発生産の工程を2分の1にという部分だ。確かにBEVは生産が楽な部分がある。BEV化による部品点数削減の話はすでに耳にタコができるほど聞いているだろうが、もう1つの利点はパワートレインが小さいことと、吸排気系や燃料タンクが不要なことだ。それらを避ける必要がない分骨材をストレートに通せることでフレームの設計は単純化できるはずで、当然加工工程は減ることになる。 

 


図3:3年後の計画に向けて実施すること
              

 

●どう進めるのか 

 

 それだけで工程が2人の1まで圧縮できるとはちょっと考えにくいが、中島副社長がそこをどう説明しているか? 再びスピーチを抜き出してみよう。 

 

 「強みであるトヨタ生産方式を生かし、仕事のやり方を変え、工程数を2分の1に削減。コネクティッド技術による無人搬送や、自律走行検査などで、効率的なラインへシフト、工場の景色をガラっと変えます」 

 

 と、工場のカイゼンをメインに説明している。2分の1というインパクトに対して、ここは若干手応えが足りない感じがしなくもないが、「見せてもらおうか、トヨタ生産方式の進歩とやらを」というところである。 

 

 コロナ禍以降のサプライチェーン問題を含めて調達を大幅に見直すことは、BEVのみならず、本業の中核として重要なので、ここはおそらくトヨタの総力を挙げて最適化していくことになるだろう。価格低減効果がどの程度あるかは分からないが、このお題自体はこれまでトヨタがまさに得意としてきたところなので、大きな削減が期待できるかもしれない。 

 

●専任組織を新設 

 

 さて、既にスクープ報道で伝えられている通り、トヨタは次世代BEV用の「専任組織」を新設する。先行した報道を認めた形である。 

 

次世代BEV「専任組織」を新設            

 

 実は筆者はこのページを穴が開くほど見た。初見での第一印象は、「新カンパニーの設立」に見えた。しかしどうにも引っ掛かる。カンパニーの設立であれば「New specialized unit」ではなく「New unit」か「Specialized unit」のどちらかでいいのではないか。「新組織」でもなく「特別組織」でもなく、屋上屋を重ねて「新特別組織」とする理由は何か? 

 

 そう疑念を持って見始めると「開発」と「生産」に加えて「事業」が並んでいる部分も気になる。カンパニーは本質的に独立採算なので、「事業」が絶対入らないのかといわれると微妙なのだが、間接部門を含むのかどうかが1つの分岐点になるだろう。ワンリーダーによるオールインワンのチームを言葉通りに捉えると、間接部門を含む形だと考えられる。そういう観点で見ると、この専任組織の新設は、まるで別の新会社を設立すると言っているように見える。 

 

 そうなるともうあちこち怪しい。下段の(従来BEV含む)もまた引っ掛かるのだ。このページタイトルの「次世代BEV」には、少なくともこれまで発売されている5台のBEVは含まないことになる。BEVの専任組織を設立するのに、既存のBEVモデルをそちらに移管しないとは何を意味するのか? 減価償却トヨタに残っているものは持っていかないという意味なのではないかという疑念が頭をもたげる。 

 

 それ以上に問題なのは「1000万台で支える」だ。1000万台は言うまでもなく従来のトヨタの社内カンパニーの合計、つまりオールトヨタである。トヨタが全力で支えるという文脈で読み解くと、もうこれは新会社設立の話をしているようにしか見えなくなる。 

 

 腹をくくった大勝負のために、大変革を起こすのであれば、既存の組織やルールを引きずるのは手かせ足かせになるだろう。だったら、もう真っ白なカンバスにゼロから絵を描く方が速いし楽だ。言ってみればテスラがたどってきた道を、太い実家に支えてもらいながら一気に駆けあがろうという話ではないのだろうか? もしかしたら筆者の勘繰りすぎで、「ふたを開けてみたらただのカンパニーでした」という可能性は十分にあるのだが、今の筆者にはいろいろ匂う感じがしてならない。 

(続く)