その分析に出てくるJHFCとは、Japan Hydrogen & Fuel Cell Demonstration Project 水素・燃料電池実証プロジェクトである。そのホーム・ページの冒頭の案内を紹介しよう。
JHFCプロジェクトとは
JHFCプロジェクトは未来の地球のために生まれたプロジェクトです。
「水素・燃料電池実証プロジェクト(Japan Hydrogen & Fuel Cell Demonstration Project)」とは、経済産業省が実施する燃料電池システム等実証試験研究補助事業に含まれる「燃料電池自動車等実証研究」と「水素インフラ等実証研究」から構成されるプロジェクトです。
平成14年度~平成22年度まで、燃料電池自動車の本格的量産と普及の道筋を整えるため、各種原料からの水素製造方法、現実の使用条件下でのFCV(燃料電池自動車)の性能、環境特性、エネルギー総合効率や安全性などに関する基礎データを収集し、そのデータの共有化を進めるための研究・活動を行っていました。
第1期の主な成果
-
FCVの自動車としてのエネルギー効率の高さを明らかにした。
-
FCVや水素ステーションの実証データを用いてWell to Wheel総合効率(1次エネルギーの採掘から、燃料製造、輸送、車両への充填をへて、最終的に車両走行にいたる全てのエネルギー消費を考慮した、総合的なエネルギー効率)を明らかにした。
http://www.jari.or.jp/portals/0/jhfc/jhfc/index.html
それではJHFCの論考を紹介しよう。
synthesist シンセシスト
an intellectual who synthesizes
2013.08.22
(http://hori.way-nifty.com/synthesist/2013/08/jhfcco2-854a.html)
燃料電池車はどの程度エコか? JHFCの検討結果からエネルギー消費量とCO2排出量を他の次世代自動車と比較する
水素燃料電池車の導入には水素ステーションの整備支援や車の販売助成など政府による多額の援助が必要であるが、果たして燃料電池車に「水素を燃料とし、走行時にはCO2を一切排出せず、省エネルギー・地球温暖化対策に大いに寄与することが期待される・・・」と謳われているようなエネルギー・地球環境への効果はどの程度あるのか?
前の記事「自動車メーカーによる燃料電池車の国際共同開発、『バスに乗らない』フォルクスワーゲン社」(http://hori.way-nifty.com/synthesist/2013/07/post-d18b.html)の続きとして、本稿では「JHFC(水素・燃料電池実証)プロジェクト」によるWell-to-Wheel評価結果から水素燃料電池車のエネルギー消費量・CO2排出量を他の次世代自動車(ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド車、電気自動車)と比較してみる。
JHFCプロジェクトによる次世代自動車のWell-to-Wheel総合効率評価の結果から、標準ケースについては次のように言える。
「エネルギー節減・地球環境保全への効果で見ると、水素燃料電池車はエンジン自動車よりは優れているが、ハイブリッド自動車と同程度で、プラグインハイブリッド車および電気自動車より劣る」
評価方法・前提条件・仮定・各種ケースの結果など詳細については、以下の説明およびJHFCプロジェクトの報告書を参照下さい。
「ZEV」と「EEV」
カリフォルニア州大気資源局による低公害車の分類の中に「ZEV」(Zero-Emission Vehicle)という最もクリーンな自動車を指す部類がある。八重樫武久氏は「Cordia」ブログの「エミッション・エルスオエア・ビークル」(http://www.cordia.jp/blog/?p=1029)の中でZEVについて次のように述べている。
「ZEVの代表のバッテリー電気自動車(BEV)は、確かに走行時に燃焼による排気ガスを出しませんが、厳密に言えばその走行の為に、地球温暖化ガスである CO2は排出しています。当然の話しですが、充電の為に使用する電気は、どこか(elsewhere)で、エネルギーを消費し排出(emission)して作られたものです。」
このEmission Elsewhere Vehicle(どこか他所で排出する車)略して「EEV」という呼び名はStanford大学のLee Schipper教授が冗談めかしに作ったもので、八重樫さんがブログで紹介しているようにDaniel Yergin の著書"The Quest: Energy, Security, and the Remaking of the Modern World" (日本語版ダニエル・ヤーギン「探求――エネルギーの世紀」)の中で引用されている。カリフォルニア州大気資源局(CARB)で「ZEV」に分類されているバッテリー電気自動車が実際は「EEV」であるのと同様に、CARBで同じく「ZEV」に分類されている水素の燃料電池車も水素を製造する際にCO2を排出する場合は車以外でCO2を排出しているのでこれも「EEV」となる。
バッテリー電気自動車(BEV)や水素燃料電池車(FCV)が再生可能エネルギーあるいは原子力によってつくられる電力や水素によって駆動される場合は発電や水素製造におけるCO2排出がゼロなので、この場合は「ZEV」と言うことができよう。
ここで、バッテリー電気自動車と水素燃料電池車について電力からスタートした時のエネルギー効率、すなわち電力系統が供給した電力の内自動車の駆動に使用されるエネルギーの割合を見てみる。BEVとFCVの電力系統から車輪までのエネルギー効率の比較においては、下の図にあるようにBEVは交直変換→充電→モーターの段階を経由するのに対して、FCVは電気分解→液化または圧縮→(輸送)→燃料電池発電→モーターなどの段階を経由する。この場合、供給する電力は再生可能電力以外でも効率は同じである。
上の3つの図に例示されているケースのFCV/BEVのエネルギー効率の比は、
【Ulf Bossel】 19~23/69=1/3.6~1/3
【Eberhard & Tarpenning】 (0.7x0.9x0.4)/(0.93x0.93)=1/3.4
【日本産業機械工業会調査報告】 22.9/63.9=1/2.8
となり、上記の例では電力からスタートした時のエネルギー効率は燃料電池車は電気自動車の1/2.8~1/3.6と低い。すなわち、同じ走行をするのに、燃料電池車は電気自動車の2.8倍~3.6倍の電力を消費することになる。ただし、この比較は各ステップの一般的な効率から求めたもので、正確には後段で説明するように個々のケースについて具体的な数値を入れた計算が必要である。
(続く)