習近平が大転換をためらうワケ
もっとも、そんな習を信じる者はほとんどいない。少しでも実効性を示すには、数々の悪政を放棄せざるを得ない。外国企業の従業員をスパイ容疑で恣意的に投獄すること、フィリピンや台湾をいじめること、南シナ海で進める実効支配――。
しかし、そこまで引き下がることもできず、従って西側からの助け舟は期待できないだろう。米中首脳会談から手ぶらで帰国した習は、3中全会で有効な政策を示せないことを分かっており、開催日程さえ発表しないままだ。
歴史を振り返れば、共産主義の独裁者が政策を大転換したこともあった。レーニンは1921年に破滅的な戦時共産主義から資本主義寄りの新経済政策に転換した。毛沢東は58~62年に大飢饉を引き起こした大躍進政策と人民公社化の大失敗を悟り、イデオロギーを後退させて譲歩した。
彼らが急激な方針転換をしても無傷でいられたのは、共産主義共和国の創設者として、過ちに費やせる十分な政治資本を持っていたからだ。
しかし習は、平凡な実績の小君子が妥協の産物として指導者になったにすぎない。西側と良好な関係を維持して経済を繫栄させた前任者たちの威を借りて、習には国を発展させる魔法の力があると信じている人々に、美辞麗句を並べて「チャイニーズドリーム」を売り込んできた。
習の政策面の無能さと失敗は今や明白だが、手を緩めすぎれば弱さの表れと見なされ、冷酷な敵対勢力か裏切者に追い落とされるかもしれない。
今後は野心を縮小させ、権力を掌握できる範囲で小さな政策的譲歩を行いながら、強硬な戦術で国民や党内の反発を抑えつつ、長期的な衰退から抜け出せないなりに国を運営していくことになるだろう。
これは、何よりも安定を求める多くの中国人にとって、社会の高齢化と保守化が進むなかで好ましい方向かもしれない。そして、西側を葬り去ることを諦めるつもりがない中国をなだめ、調和を探り、国を強くする手助けさえするという数十年間の愚行を断ち、正常な状態に戻ろうとしている西側諸国にとっても好ましいのかもしれない。
【動画】BRICS会議で側近から隔離され、右往左往する習近平
練乙錚(リアン・イーゼン、経済学者)
【参考記事】
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https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2024/03/post-103958.php
第20期中央委員会第3回全体会議 3中全会 は今回は開かれていない。
3中全会では、通常経済政策の運営方針などを決める場となっている、と言われている。
「中国共産党の「三中全会」は、5年に1度開かれる党大会の職権を代行する「中央委員会」が3回目に開く全体会議のことで、主に国の経済政策の運営方針などを決める場となっています。」
(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231231/k10014303671000.html)
3中全会で決められた政策が国務院に伝えられて、予算を含めて実行計画が立案されて、全国政治協商会議と全国人民代表大会・全人代で建前上承認されて、実行に移されていくという経過になっている、とここには書かれている。
しかしながら今回はその3中全会が開かれていないのだ。
(続く)