続続・次世代エコカー・本命は?(110)

ドライバーにとってEVは魅力的か

 答は、今のところノーである。テスラのモデル3は今までより航続距離が伸びたが、それでも最大約500km。これはカタログ性能で、リチウム電池の劣化は速いので、300kmぐらいとみたほうが安全だろう。これでは12日の家族旅行が限界で、長距離トラックなどの業務用には無理だ。

 出先に「充電スタンド」があればいいが、充電には30分以上かかる。EVは自宅に充電設備をもつドライバーが買って、夜間電力で充電するものと考えたほうがよい。これは集合住宅では難しい。

 地方都市で一戸建ての住宅から短距離通勤する人の高級自家用車としては使えるかもしれないが、逆にいうと充電スタンドは採算に乗らない。今後も充電インフラが普及することは考えにくい。

 EVには発進加速がよいとか静かだという魅力もあるが、最大の魅力は燃費である。条件の設定で大きく違うが、たとえば日産の公式サイトでは、1000km走る燃費は(夜間電力で)ガソリン車の約20ということになっている。

 しかしリチウム電池は高価なので、買ってから廃車にするまで5年間の「所有コスト」で考えると、平均約8万ドルで、内燃機関(平均約36000ドル)の2倍以上というのが米エネルギー省DOE=United State Department of Energy)の計算である。

 これを2022年までに内燃機関と同じ水準まで下げるのがDOEの(希望的観測を込めた)予想だが、その最大のポイントは電池の技術進歩だ。図のように世界の電池コストはここ10年で8割下がったが、そのスピードは鈍化している。


電池のコスト低下(点線は予想)、出所:DOE

 

 半導体の性能が指数関数的に上がる「ムーアの法則」は論理回路の発達によるものだが、電池には物理的な限界があるので、少なくともリチウム電池では半導体のような伸びは期待できない。携帯電話でもわかるように、通信性能は飛躍的に伸びるが、電池の寿命はあまり大きく伸びないのだ。

EVは「エコ」だが日本では「エコノミー」ではない

 ではEVは「エコ」だろうか。大気汚染や地球温暖化に関してはイエスである。電池に充電するのは電力会社の交流電源だが、これは大規模な発電所で集中的に発電するので、熱エネルギーを動力に変える効率が高い。これに対して自家用車の小さなエンジンでガソリンを燃やすと、熱効率は30%ぐらいにしかならない。

 したがって石油を使って発電した電力を充電してEVを走らせた場合と、同じ量の石油から精製したガソリンを燃やして自家用車を走らせる場合を比べると、環境に排出される大気汚染物質や二酸化炭素CO2)の量は、EVがおおむね半分になる。

 しかしリチウム電池は採掘や製造の過程で多くの有害物質やCO2を排出するので、それを合計すると、EVCO2排出量はガソリン車に比べて1割ぐらい(35トン)少ない、というのが環境問題の専門家、ビョルン・ロンボルグの試算である。

 5トンというのは4000円/トンの炭素税をかけても2万円だから、気候変動対策としては、EV補助金を出すことは効果的ではない。それよりCO2を排出するすべての商品に一律に炭素税をかけたほうがいい。

 要するにEVのコストは発電コストなのだ。DOEの試算はアメリカの石油価格と電気代を前提にしているが、その目標が実現したとしても、ガソリン車と同等になるには原油価格が1バレル=115ドルまで上がる必要がある、というのが経済学者のシミュレーションである。

 日本の電気代はアメリカの約2倍なので、今の1バレル=50ドル以下の原油価格ではEVのコストはガソリン車よりはるかに高い。原発を止めたままでは日本の電気代は2030年代には今の2倍(アメリカの4倍)になるので、EVは高価なままだ。電力需要が増えると電気代がさらに上がりEVをつくる自動車メーカーも日本から出て行くだろう。

 原発依存率80%のフランスEVに転換するのは「原子力で車を走らせる」に等しく、一定の合理性があるが、内燃機関を禁止するのはナンセンスである。EVに経済合理性があるなら、価格が下がれば切り替えは進む。

非効率的なのは内燃機関ではなく自家用車

 Economist812日号で「内燃機関の死」という特集記事を掲載し、EVへの転換を予想した。そこでガソリン車を減らす決め手になっているのは、自家用車の削減である。

 アメリカでは労働者の85%が自家用車で通勤しており、このままEVに置き換えるのは効率が悪い。これをウーバーのような「共有サービス」に切り替えれば、自動車の需要は最大90%減るとEconomist誌は予想しているが、これはEVへの移行とは無関係である。自家用車を公共交通機関に切り替えればよい。

 自家用車のエネルギー効率は、あらゆる交通機関の中で最悪である。電車のエネルギー効率は自家用車の8倍、バスは5倍である。日本のような狭い国で、車をもつのは無駄である。都市部では通勤に使えないので、自家用車でないとできないことは週末の家族旅行ぐらいだが、これもレンタカーがあれば十分だ。

 こういうと「地方では自家用車がないと動けない」という人がいるが、地方でも車をもっていない「交通弱者」はタクシーに乗っている。私は運転免許をもっていないが、日本ではどこでもタクシーが拾えるので、不自由だと思ったことがない。

中国は国を挙げてEVを開発している。バスに乗り遅れるな」という話がよくある。内燃機関の開発実績もインフラも乏しい中国が、国内向けにEVを開発するのは合理的だが、それが世界に売れるとは限らない。

 EVは今後も成長するだろうが、それが内燃機関に置き換わるほど劇的な転換が起こるとは考えにくい。社会のエネルギー効率を上げて気候変動を防ぐためには、誰もが自家用車を持つ「クルマ社会」を見直すべきだ

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50835?page=3

 

 

日本での電源事情でEV化を推進することは、個別エコではあるが全体エコノミーではない、とこの論考は言っている。まさにその通りである。日本でEVを走らせるのであれば、その電気は再生可能エネルギーを使う必要がある。または最低でも戸建て住宅での夜間電力での充電による電気か、原子力発電での電気でなければならないことになる。

 

それ以外であれば、EVはエコでもエコノミーでもない、と言ったところが真実なのであろう。但し「パリ協定」を念頭に入れておく必要がある。この地球上では、最早CO2NOxなどのGHG green house gasなどの排出は、厳禁とすべきなのである。

 

だから日本でのEVは、再生可能エネルギーかまたは原子力発電による電気による充電を条件づける必要がある。手っ取り早くは、屋根に載せた太陽光発電パネルによる電気の利用である。

 

但し中国のように大気汚染の防止には他に選択肢がない状況では、早急にEV化が必要である。そういう意味でトヨタが、2019年に中国でEVを発売すると言う事には、一定の合理性がある。

(続く)

続続・次世代エコカー・本命は?(109)

9月の議会選挙が過ぎれば、ディーゼル問題ももっと明確になるのであろう。

 

 

メルケル首相4選へ着々 独議会選まで1カ月、与党支持率リード

2017/8/21 0:25
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

 【ベルリン=石川潤】ドイツ連邦議会選挙まで約1カ月、メルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSUがライバルのドイツ社会民主党SPDを支持率でリードし、首相4選が現実味を帯びてきた。米トランプ政権の誕生や相次ぐテロで欧州が不安定になるなか、メルケル氏の実績と安定感が支持を集めている。ただ自動車産業ディーゼル問題テロ対策など、対応を誤れば状況が一変しかねない波乱要因も残る

 「言い忘れるところだった。選挙戦はまだ終わっていませんよ」。メルケル氏は夏休み明けの12日、ドイツ西部のドルトムントでの演説の最後にこう付け加えた。CDU・CSUの支持率は40%近くに達し、SPDを15ポイントもリードする。「勝ったも同然」との雰囲気が同氏周辺からも漂う。

 メルケル氏は主要20カ国・地域(G20)サミットでトランプ米大統領を相手に環境問題などで筋を通し、英国の欧州連合(EU)離脱でも毅然と対応した。失業率が3%台と経済が好調なこともあり、有権者は新鮮さが売りのSPDのシュルツ党首よりも、「強いリーダー」を演じるメルケル氏になびく構図だ。

 選挙戦でのリードの裏には、ライバルの魅力をみえにくくする「争点潰し」ともいえる戦略もある。メルケル氏がマクロン仏大統領との蜜月を演じたことで、親欧州というシュルツ氏の看板はすっかりかすんだ。大規模減税や子育て支援でも、保守派であるはずのCDU・CSUが、中道左派SPD顔負けの大盤振る舞いを打ち出し、違いを分かりにくくした

 7月に両院を通過した同性婚を認める法律では、それまで慎重だったメルケル氏が突然、同党議員が賛成票を投じることを認め、ドイツ国内を驚かせた。「有権者の大多数が同性婚を支持するなか、選挙戦の争点になることを恐れた」(外交筋)との分析もある。

 SPDは格差縮小などの「公正さ」を前面に掲げて対抗する。ただ、足元でCDU・CSUと大連立を組むだけに、政権批判も鋭さを欠く。

 メルケル氏優位の情勢が続くなか、波乱要因になりかねないのが、ドイツの産業界を揺らすディーゼルの排ガス問題だ。ドイツ政府は産業界、自治体とディーゼル530万台の無償修理で合意したが、合意内容が産業界寄りで不十分との批判がくすぶる。

 SPDのシュルツ氏は欧州規模で電気自動車の比率を取り決める公約を打ち出した。メルケル氏も英仏が進める化石燃料車の廃止の「アプローチは正しい」と認め、トップ主導で問題解決をはかるという姿勢を示さざるを得なかった。

 スペインの大規模テロの余波も続く。メルケル氏はすでに難民抑制にカジを切り、警察官の増員などの治安対策にも力を入れている。それでも仮にドイツ国内で新たなテロが発生すれば、対応いかんによっては選挙戦に影響が及びかねない。

 9月24日の選挙でCDU・CSUがこのまま第1党になれば、連立協議で主導権を握り、メルケル氏の首相4選の可能性が高まる。現在と同じSPDとの大連立や、保守系自由民主党との連立が選択肢になる。

 極右政党の「ドイツのための選択肢(AfD)」も議席を獲得する勢いだ。難民問題で反EUの機運が強かった1年前の勢いはないが、それでも緑の党、左派党などと第3党の座を争っている。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM19H4J_Q7A820C1FF8000/?n_cid=NMAIL001

 

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http://www.nikkei.com/article/DGKKASGM19H4J_Q7A820C1FF8000/?n_cid=SPTMG002

 

 

まあ選挙後には、ドイツもICEV禁止の方針をより明確に打ち出すのではないのかな。それでドイツも一つ前の論考にあるように、 「いずれドイツが官民挙げてEV競争に本格参入してくること」になろう。

 

日本もEV化への戦略をはっきりさせる必要があろう。トヨタ固執しているようにHVもよいが、そのためにEVを蔑(ないがし)ろにするわけでもないが、そのような扱いをしているとトヨタも酷い目にあうことになるのではないのかな。

 

ただ電気自動車の電気を何から得るのか、と言うところは十分に吟味しておく必要がある。

 

 

電気自動車はガソリン車を超えるか

内燃機関を禁止しても「エコ」にはならない

2017.8.18(金) profile 池田 信夫 自動車エネルギー

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50835

 

テスラ、量産型の新型EV「モデル3」を納車

テスラの「モデル3」。同社提供(201641日提供)。(c)AFP/TESLA MOTORSAFPBB News


 テスラの電気自動車(EV)の新型車「モデル3」が発売された。価格は「ベースグレード」でも35000ドルと高級スポーツカー並みだが、発売前から予約が50万台を超える人気だ。これをきっかけにEVが世界で話題になり、ガソリン車からの買い換えを真剣に検討する人が増えてきた。

 フランスのマクロン政権は、温暖化対策の「パリ協定」順守のために「2040年までに内燃機関を動力とする自動車の販売・生産を禁止する」という目標を発表した。イギリス政府も同様の方針を発表し、ヨーロッパでは2035年までにガソリン車・ディーゼル車はなくなるとの予測もある。電気自動車はガソリン車を駆逐するほど魅力的なのだろうか?

(続く)

続続・次世代エコカー・本命は?(108)

このロイターの記事を読んでも、メルケルのどっちつかずの考えがよくわかる。どっちつかずだと言う事はよくわかるが、メルケルディーゼルの将来に対して何をしたいのかは、さっぱりわからない。

 

要はCO2NOxなどの排気ガスをどうしたいのかと言うところが、全くぼやけていると言う事である。「パリ協定」をどのように考えて、自国の自動車産業やエネルギー政策をどのように遂行してゆこうとしているのか、と言うところである。

 

地球温暖化や大気汚染を防ぐためには、内燃機関エンジンを止(や)めてゆくと言う事が求められているわけであるが、政府としてその覚悟を国民に求めてゆく努力が感じられないと言う事なのである。

 

当然そのためには政府としては、産業界をどのように導いてゆくかと言う骨太の方針がないのである。あるのは俄か仕立ての一時しのぎの対策だけのように(実際にはそうでないかもしれないが)感じられてしまうのは、まことに残念であるとしか言いようがない。

 

メルケルとしては9月の議会選挙の後に、CO2問題に対する明確な方針を出すつもりのようにも感ずるが、今はあーでもない、こーでもない式に八方美人的に世間をごまかしてゆこうと言うところなのであろう。

 

だからディーゼル車の存続を訴えたり、禁止するようなことを言ったりしているのでしょう。

 

 

ディーゼル「正しい」 独首相、英仏の販売禁止に理解

2017/8/16 15:25
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

 「方法は正しい」。ドイツのメルケル首相が欧州で広がるディーゼル車・ガソリン車の販売禁止方針を理解する考えを示し、自動車業界で話題を呼んでいる。ただ、併せて自国の雇用や産業競争力への配慮にも言及、「正確な目標年はまだ明示できない」として、英仏のような時期までは踏み込んでいない。9月に選挙を控えた自動車大国ドイツの置かれた難しい状況が浮かび上がる。

メーカー批判の裏でにじむ配慮

メルケル首相(左から2人目)とVWのミュラー社長(中央)ら=2015年9月、フランクフルト国際自動車ショー

メルケル首相(左から2人目)とVWのミュラー社長(中央)ら=2015年9月、フランクフルト国際自動車ショー

 メルケル氏は14日付の独誌ズーパー・イルー(電子版)の単独インタビューで、フォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正に端を発したディーゼル車の問題に言及した。「ディーゼルエンジンの排ガスに関し、何が不正だったのかを明確にしなくてはならない」。消費者はメーカーに欺かれていたと指摘した。

 同時にディーゼル車はガソリン車に比べ二酸化炭素(CO2)排出量が少ない点を強調し、「我々は窒素酸化物(NOX)の基準を満たした、最新のディーゼルエンジンが必要だ」と訴えた。今月2日に政府と国内の自動車メーカー首脳がベルリンに集まった「ディーゼルサミット」の方針に沿い、急進的な脱ディーゼル車の方針からは距離を置く考えを示した。

 電気自動車(EV)普及との両輪もにらむ。充電インフラの整備が最重要課題だと言及し、EVシフト支援の考えも示した。もっとも英仏が7月に打ち出した2040年までの内燃機関で走る車の国内販売禁止に関しては、意味があるとしながら具体的な工程表は示したくないとしている。

左からVWのミュラー社長、ダイムラーのツェッチェ社長、BMWのクリューガー社長(ベルリンで開かれたディーゼルサミット、2日)=ロイター

左からVWのミュラー社長、ダイムラーのツェッチェ社長、BMWのクリューガー社長(ベルリンで開かれたディーゼルサミット、2日)=ロイター

 英仏ほど踏み込めない背景には、日本以上ともいえる官民の蜜月関係を築いてきた独自動車産業の特徴がある。仏自動車業界の関係者は「欧州連合(EU)の規制はベルリン(=独政府)がナイン(ノー)と言えば何も決まらない」とやゆする。欧州委員会が、VW本社のある地元州がVWの第2位株主として買収拒否権を持つのはEUが定める「資本の移動の自由」に反すると訴えても、独政府は馬耳東風。VWを守ってきた。

 今月2日のサミットでは、メーカーがディーゼル530万台を無償修理することで官民が合意ミュンヘンなど一部自治体が打ち出していた中心部の乗り入れ禁止を回避し、南ドイツ新聞は「自動車グループがサミットの勝者だ」と評した。

選挙前の「アドバルーン

 これには9月に控えた連邦議会(下院)選挙も影響している。自動車の直接雇用だけで80万人。選挙を控え、雇用減にもつながりそうな「40年にディーゼル車を販売禁止」は打ち出しにくい。逆にいえば、雇用確保を盾にしたメーカー主導で議論は進めやすかった。メルケル氏はインタビューで、雇用確保産業競争力の確保も重要と訴えている。

 もっともドイツではこの官民合意に対し、消費者や一部自治体の不満は根強い。メルケル氏に弱腰批判が及べば、選挙に不利になりかねない。メルケル1990年代には環境相として京都議定書の合意にも携わり、保守政党キリスト教民主同盟(CDU)内では環境リベラル派とされる。英仏の方針について「正しい」としながら、禁止時期の明示を避けた今回の発言は、自らの思いもにじませながらアドバルーンを上げたとみることもできる。

 内燃機関方針で先んじたフランスでは、経済紙レゼコーがメルケル発言を受け、「メルケルにとってディーゼルの終わりは避けられない」と報じた。ドイツの流儀を知る隣国は、いずれドイツが官民挙げてEV競争に本格参入してくることは覚悟済みだ。

 独産業界でも準備は進む。3日には自動車部品大手コンチネンタルのウォルフガング・シェーファー最高財務責任者(CFO)がロイター通信に対し、「次世代内燃機関の開発は続くだろうが、23年ごろには経済的に正当化できなくなる」と指摘。完成車メーカーの開発はEVなど電動技術に一気にシフトすると見通した。完成車メーカーと全方位で取引があるコンチネンタル幹部の発言は重い。

 旧東独の科学者であるメルケル氏は慎重に発言を選ぶことで知られる。だが11年の脱原発回帰15年の難民受け入れ表明のように時に大胆に決断し、主にリベラル派の喝采を受けてきた。EV政策は同国の脱石炭再生可能エネルギー推進などとあわせた総力戦になりそう。産業やエネルギー・環境問題というより政治が前面に出てくるテーマだ。

 英仏が脱内燃機関方針を発表したのは総選挙の後だった。世界最大の自動車市場、中国とも親密な関係を築いてきたメルケル氏は首相4選が濃厚9月の選挙結果を受け、「正しい方法」の具体論にどこまで踏み込むか。その発言は自動車産業の帰趨(きすう)を決めるかもしれない。

(加藤貴行)

http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ16HBS_W7A810C1000000/?n_cid=NMAIL002

 

 

まあそれもこれも、この9月の下院議会選挙のためなのである。

 

アンゲラ・ドロアテ・カスナーメルケルは最初の結婚後の姓、現在の配偶者はヨアヒム・ザウアーと言う。Wikipediaより)も一端の科学者である。東ドイツ出身のカスナー(メルケルは、カールマルクス・ライプチィヒ大学で物理学を専攻して、優秀な成績で学士号を取得、その後1986年に博士論文を提出して博士号を取得している。

 

現在の夫ザウアーはフンボルト大学ベルリンで物理と理論化学の教授を務めており、かって在籍していた物理化学中央研究所の博士研究員であったメルケルと結婚したのは1998年のことである。

 

その間の1989年にベルリンの壁の崩壊があり、メルケルはその時に政治活動を始めている、とはWikipediaの概略であるが、それなりに未来を見通せる頭は持ち合わせている筈なので、内燃機関の問題は十分すぎるほど解っているだけに、政治的な解決策に頭を悩ませたのであろう。

(続く)

続続・次世代エコカー・本命は?(107)

ドイツはディーゼルの延命を図ったことになる。

 

 

独、ディーゼル530万台無償修理 環境対応で延命
排ガス制御ソフトを修正

2017/8/3 9:44
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

 【フランクフルト=深尾幸生】ドイツ政府は2日、同国内のディーゼル車約530万台を自動車メーカーの負担で修理すると発表した。排ガスの制御ソフトを修正し、大気汚染物質の排出を抑制する。同国政府とメーカー各社が合意した。英仏2040年のディーゼル・ガソリン車の販売禁止を打ち出すなか、環境対応の強化で主力であるディーゼル車の延命を目指す思惑が透ける。

ダイムラーのディーゼル車(2015年のフランクフルト国際自動車ショー)

ダイムラーディーゼル車(2015年のフランクフルト国際自動車ショー)

 大気汚染の抑止策を協議する目的で独政府とメーカーがベルリンで開いた「ディーゼルフォーラム」で合意した。現行の排ガス規制の「ユーロ6」対応車の一部と1世代前の「ユーロ5」対応車の合計約530万台を対象に、排ガス制御ソフトを修正する。これは同国のディーゼル登録車の3割強に相当する。

 フォルクスワーゲン(VW)グループと独ダイムラー、独BMW、独オペルがそれぞれ費用を負担する。大気汚染物質の窒素酸化物(NOx)の排出を2530%抑えることを目指す。

 ソフト改修に必要なコストは1台あたり1万円程度。同20万円前後の浄化装置の追加設置を求める構想もあったが、メーカーが受け入れやすい選択肢に落ち着いた。ダイムラーのディーター・ツェッチェ社長は「最も効果的な手段だ」と合意を歓迎した。

 ソフト改修に加え、古いディーゼル車を持つ消費者が最新の環境対応車に買い替える際の奨励金をメーカーが負担する。BMW09年以前の「ユーロ4」より古いディーゼル車から買い替える場合、2千ユーロ(約26万円)を割り引く。買い替え対象には最新のディーゼル車も含める。

 VWによる排ガス規制を逃れるための不正発覚以降、欧州を中心にディーゼル車への不信が高まっている。英仏が将来の販売禁止という厳しい措置を打ち出したのに対し、ドイツはディーゼル車の「延命」を図る方針を鮮明にした。

 同国の新車販売(乗用車)に占めるディーゼル車比率は約4割。自動車メーカー経営の柱の一つで約80万人の関連雇用を支える。主力産業を危機にさらすことを避けるため、当面のディーゼル車存続に保証を与えた格好だ。ただ消費者の反発が収まるかは不透明で、合意文書には「効果次第ではさらなる行動が求められる」との一文も盛り込んだ。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASGT02H0R_T00C17A8MM0000/?n_cid=NMAIL002

 

 

しかしメルケルの心は揺れている。果たしてディーゼルを延命させてもよいものか。ドイツ国民はどう考えているのか、国民は英仏に追従せよ、と言う方に軍配を上げるかもしれない。選挙もあることだし、どうしようと言ったところではないのかな。

 

結局メルケルは、自動車か雇用と環境か、という問題に対してはっきりした態度をとらずに、両方のいいとこ取りをしようとするつもりのようだ。

 

独首相、ディーゼル車の新車販売の段階的禁止を示唆=雑誌

Business | 2017081511:09 JST    関連トピックス: ビジネス, トップニュース

 8月14日、ドイツのメルケル首相は、他の欧州諸国と同様にディーゼル車の新車販売を段階的に禁止する必要があると表明した。写真はフランクフルト近郊ゲルンハウゼンで撮影(2017年 ロイター/Ralph Orlowski)

 

 8月14日、ドイツのメルケル首相は、他の欧州諸国と同様にディーゼル車の新車販売を段階的に禁止する必要があると表明した。写真はフランクフルト近郊ゲルンハウゼンで撮影(2017年 ロイター/Ralph Orlowski



    [ベルリン 14日 ロイター] - ドイツのメルケル首相は、他の欧州諸国と同様にディーゼル車の新車販売段階的に禁止する必要があると表明した。「ズーパー・イルー」誌の取材に応じた。同国でのディーゼル車廃止への言及はこれが初めてで、排ガス不正の発覚に伴い同型車の「余命」が限られていることが示唆された。

  英仏は2040年までに内燃機関車の段階的廃止を予定しているが、メルケル首相は「具体的な日程は示したくない」と述べた。

  フォルクスワーゲン(VW)などが排ガス試験で不正を行ったことが発覚して以来、ドイツの自動車メーカーに対する批判が高まっている。こうしたなか、デマー報道官は7月26日、英国の対応に関連して、メルケル首相はディーゼル車を「悪者扱い」してはならないと繰り返し述べてきたと指摘、英国に追随しないことを示唆していた。

  休暇から戻ったメルケル首相は、自動車業界は下取り時の優遇制度やソフトウエアの更新などを提供することで信頼を回復すべきだと呼び掛けた。消費者は「欺かれてきた」とし、約束されていた通りの環境廃出物対策が得られるべきだと述べた。ただ、ディーゼル車はガソリン車より二酸化炭素(CO2)排出量が少ないため、優遇税制は当面継続するとした。

  首相は9月の連邦議会を控えたキャンペーンで、国内自動車メーカーが過ちを犯したことを認めることが重要だと主張した。ただ、労働者に非はなく、雇用を守り自動車産業の持つ力を確保することも重要だと述べた。

  首相はさらに、ディーゼル車は環境汚染を制御するために必要であり、政府は新技術の導入を促進しインフラを確実に利用可能にすることで自動車産業の変革を支援すべきだと指摘。「雇用が守られるよう、新時代への円滑な移行を計画しなければならない」とした。

http://jp.reuters.com/article/germany-emissions-merkel-idJPKCN1AV051?utm_source=34553&utm_medium=partner

(続く)

続続・次世代エコカー・本命は?(106)

ドイツ裁判所は、古いディーゼル車の各社のアップグレード対策に対して、不十分と却下したようだ。そのため2017.8.2にベルリンで政府と自動車大手(VWAudiPorscheDaimlerBMWOpel、欧州Ford)は「ディーゼルフォーラム」を開催し、ディーゼル対策を協議した。

 

[FT]信用失墜の独自動車、ドイツの国民心理揺るがす

2017/8/3 6:30
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

Financial Times 

 独フォルクスワーゲン(VW)の本拠地ウォルフスブルクでは、1955年8月5日は記念すべき日だった。100万台目の「ビートル」が生産ラインから出てくるのを群衆が祝った。第2次世界大戦の敗戦と破壊から立ち直った戦後の目覚ましい復活、そしてドイツ経済の奇跡を象徴するようになった車にとって、それは至高の瞬間だった。多くのドイツ人にとっては、ビートルはそれ以上の存在だ。最近のある世論調査では、回答者の63%はビートルがドイツという国そのもののシンボルだと回答した。文豪ゲーテは大差を付けられての2位だった。

フォルクスワーゲンのディーゼルエンジン。ディーゼルはドイツ経済の大きな部分を占めるが、不正などによって信用は失墜した=ロイター

フォルクスワーゲンディーゼルエンジンディーゼルはドイツ経済の大きな部分を占めるが、不正などによって信用は失墜した=ロイター
TDI = Turbocharged Direct Injection の略

 2017年まで時計の針を進め、当時のビートルと同じくらい先駆的な新車の発表に話を移そう。米テスラの「モデル3がそれだ。同社のイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は、モデル3は初の大衆市場向けの電気自動車になると考えている。ドイツでの反応は、多大な関心と羨望とパニックが同等に入り交じったものだった。なぜドイツ企業がこれを作らなかったのか――。

 自動車はドイツの国民心理の中心的な位置を占めている。輸送の手段というよりは、むしろドイツ人の性格の一番いい部分をすべて収束したものであり、効率性、信頼性、精密さに代表される「最高の追求」だ。「Vorsprung durch Technik(ドイツ語で技術による先進の意)」はアウディの標語であるだけでなく、国家的な努力として、自動車はたゆまぬ革新的精神そのものを映していた。

 過去数十年間にわたり、自動車は自由と移動手段を求めるロマンチックな衝動のシンボルでもあった。ドイツのバンド「クラフトワーク」の有名な曲でたたえられているアウトバーンは、欧州で唯一、速度制限のない高速道路だ。また、車以上にステータスを暗示する良い方法はない。割と最近まで、自尊心のある成功したドイツ人は誰もが数年ごとに車を乗り換えていた。

 だが、そうした車を生産する産業は存亡の危機に巻き込まれている。VWのディーゼル排ガス不正スキャンダルが冷めやらぬうちに、大手自動車メーカーが数十年にわたり技術について共謀してきたという疑惑が浮上した。自動車業界の評判と「ドイツ製」のブランドは失墜してしまった。

 このブランドはすでに、カーシェアリング電気自動車自動運転システムなど、次第に米シリコンバレーが支配するようになっているイノベーションに脅かされていた。自動車業界の経営者らは、怒涛(どとう)のような非難に直面しており、慢心、保守主義、そしてあからさまな違法行為を疑われている。業界の経営トップは2日、ディーゼルの未来についてドイツ閣僚と話し合うためにベルリンに集まる。ディーゼルは、業界の健全性にとって極めて重要だが、国民の健康にとっては次第に有害と見なされるようになった技術だ。

 筆者のような外国人にとっては、立場がこれほど逆転するのを見ると不安な気持ちになる。英国と米国では、確立された組織が近年、壊滅的な信頼喪失を目の当たりにしてきた。だが、ドイツはおおむね混乱と無縁でいられた。ドイツ経済は2008年の不況を比較的無傷で乗り切ったことから、政財界にとっては普段と変わらぬ生活が続いた。

 労働者の代表が取締役会に名前を連ねる、合意に基づく大企業の文化は、体制の安定を維持することに寄与した。ドイツ銀行のジョン・クライアン最高経営責任者(CEO)など数人の例外を除くと、経営者が国民の怒りを買うこともめったにない。もしかしたら、それはドイツ人経営者が一般的に米国人経営者ほど稼いでいないためかもしれない。ドイツの経営者報酬は2015年の平均で510万ユーロと、米国の1640万ユーロを大きく下回っている。

 だが、不満は募っている。昨年の調査は、貯蓄者が低金利に苦しめられる中で銀行に対する信頼感が急激に低下したことを示していた。また、独ビルト紙のために世論調査機関EMNIDが実施した調査では、ドイツ人の過半数が今、自動車メーカーは信用できないと考えていることが分かった。

 ドイツ人はまだ、「Exportweltmeister(輸出世界チャンピオンの意)」としての国のアイデンティティーの要である自動車産業に誇りを持っている。実際、VWとメルセデス・ベンツBMWはドイツの貿易黒字の半分を占めている。だが、脅威にさらされているのは、まさにこの支配力だ。テスラのモデル3が発表されたのと同じ月に、英国はフランスに続き、2040年までに化石燃料を動力とした自動車を完全に廃止することを誓った。これはドイツ人にとって潜在的に大きな打撃となる。産業労働者のおよそ10%が内燃機関に依存しているからだ。それからわずか数日後には、ドイツの裁判所が古いディーゼル車をアップグレードする自動車メーカー各社の計画を不十分として却下し、よりによってダイムラーが本社を置くシュツットガルトで運転が禁止される可能性が出てきた。

 破滅を暗示する予言は、国家的衰退について警鐘を鳴らしている。ビルト紙のあるコラムニストは、自動車産業は石炭産業や家電産業と同じ運命をたどりかねないと述べた。果たしてダイムラーグルンディッヒやブラウプンクトといった企業の後に続く可能性があるのだろうか。

 1885年に生産された史上初の自動車「ベンツ・パテント・モトールワーゲン」は、シュツットガルトメルセデス・ベンツ博物館の目玉展示物だ。ドイツにとって悪夢は、ベンツの発明が生み出した輝かしい近代産業が過去の遺物になるかもしれないことだ。

By Guy Chazan

2017年8月2日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFK02H2L_S7A800C1000000/

 

 

その結果、ディーゼル530万台の修理を、根本的と言うよりもどちらかと言うと安直なリーズナブルな負担でメーカーが行うことを決めてしまった。そして大都市へのディーゼル車の乗り入れは、禁止されることはなく継続されることになった。

(続く)

続続・次世代エコカー・本命は?(105)

原油価格低迷の意味

 国際エネルギー機関IEA)によれば、2015年の世界の石油需要の約56%は輸送用燃料であり、そのうち約8割が自動車燃料と考えられる。産油国にしてみれば、今回のフランス政府の方針表明は、市場における核心的な需要の喪失を意味する。既に、インド政府も、2030を目途にガソリン車の販売禁止の方向を打ち出しており、一部の北欧諸国も同様の検討を行っているといわれる。

 産油国としては、こうした動きが続くことを警戒していることであろう。

 しかし、OPEC産油国地球温暖化対策に対抗するための措置を、既に2014年秋の段階で講じていると見られる。

 201411月のOPEC総会におけるシェア確保戦略発動による減産見送り決議である。一般的には、シェールオイルの増産に対抗して、価格戦争を仕掛けたとされている。バレル当たり100ドルから50ドル水準への価格引き下げによって、生産コストの高いシェールオイル減産を目指したことは確かである。

 同時に、高価格を維持することによる需要減少と石油代替技術の開発の阻止を目指したものとも考えられる。OPEC産油国にとって、シェア確保戦略とは、現在の石油市場のシェアも重要であるが、将来のエネルギー市場における石油のシェアの維持も視野に入れた構想である。

 特にサウジアラビアにとっては、「石器時代が終わったのは石がなくなったからではない」(ヤマニ元石油相)。シェール革命も、技術革新による資源制約の克服であった。サウジは石油資源の枯渇よりも、石油の需要を奪う新技術の登場を一番恐れている。サウジアラムコ(国営石油会社)の新規株式上場(IPO)も、地球温暖化対策による原油資産の座礁資産Stranded Asset、資金回収できなくなる資産のことに対するリスク分散、一種の「保険」であるとする見方もある。

 現時点においてEVは、走行距離の問題バッテリー寿命などの技術的問題、給電施設などインフラの問題があって、まだまだ普及段階とは言えない。だが、将来技術開発が進めば、そうした問題点は一つずつ解決されてゆくだろう。

 EVの普及を先送りさせるには、産油国として打つ手は、財政赤字に耐えつつ、原油価格を低迷させ、技術開発のインセンティブをそぐことぐらいしか考えられない。

 おそらく、2016年の年末以降、協調減産でOPECと行動を共にしているロシア等の非加盟主要産油国にしても、同じ認識を持っているであろう。

 最大の産油国であり、最大の自動車生産国である、アメリカはどうか。エネルギーの自立(自給化)と同時に、自国の雇用の確保を目指すトランプ政権にとっては、パリ協定や地球温暖化対策など、関係ない。現状の方針を進めてゆくしかない。

 そうなると、OPECと非加盟主要産油国は、短期的にはシェールオイルとシェアを争い、中長期的には石油代替技術と需要を争いつつ、現状程度の協調減産を続けていくことになる。

 したがって、今後、相当長期にわたって、原油価格は現状程度で低迷を続けるのではないかと考える。

 

このコラムについて

石油「新三国志

 2016年末、今後のエネルギー業界を揺るがす出来事が重なった。1つはサウジアラビアが主導するOPEC石油輸出国機構)とロシアなど非加盟国が15年ぶりに協調減産で合意したこと。もう1つは米国内のエネルギー産業の活性化を目論むドナルド・トランプ氏が米国大統領に就任したことだ。サウジとロシア中心の産油国連合による需給調整は原油価格の下値を支えるが、トランプ政権の規制緩和などにより米シェール業者の価格競争力は高まり原油価格の上値は抑制されるだろう。将来の原油需要のピークアウトが予想される中、米・露・サウジの三大産油国が主導し、負担を分担する新たな国際石油市場のスキームが誕生しつつある。その石油「新三国志」を、石油業界に35年携わってきた著者が解説していく。

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/022700114/072400008/?P=4

 

 

 

フランスの内燃機関自動車販売禁止方針は、ディーゼル自動車技術に対するギブアップ宣言であり、フランス自動車業界に対する「転身」要請かもしれない。」と書かれているように、フランス政府は自国の自動車業界に対して、ディーゼルから電動化への転身を促しているものと思われる。

 

ディーゼルに関しては、ルノーと言えども不正がなかったとは言えない状況であり、フランス政府もある意味早急にディーゼルからの脱却を図りたかったものと思われる。

 

何故かと言うと、今年の3月には、カルロス・ゴーンの了解の下にルノーも排ガス不正をしていたのではないかとの報道がなされており、その1年前には窒素酸化物のNOxの排出量が規制値をかなり超えていたために、ルノーは当局の取り調べを受けている。

 

この件は当ブログの2017.6.6NO.47~などを参照願いたいが、この件でゴーンは日産自動車の社長の座から退いたものと思われるのだが、そんなこともありフランス政府は自国の自動車産業を、この「モビリティ革命」から守りたいと思ったのではないのかな、などと邪推もできる。

 

 

そろそろ自動車業界でもいろいろな動きが現れてくることであろうが、排ガス不正の張本人の国の肝心なドイツの動きはどんなものであろうか。

 

先ずドイツの電源事情は、原子力発電からの撤退を宣言しているので、電動化への転身にははなはだ不都合な状態である。

 

ドイツは石炭火力が主で、「発電における石炭天然ガスへの依存度はそれぞれ4613だ。自然エネルギー21と比較的高いものの、火力比率が高いため、電化は温暖化対策にならない。」と書かれているように、ドイツの電源事情には非常に問題がある。

 

更にはドイツはフランスと違った世界第4位の自動車大国なので、いくら排ガス不正の当事国だと言っても、おいそれとは電動化へと(政府としては)舵を切るには規模がでかすぎる、と言ったところである。

 

しかも石炭からガスに火力発電の燃料を切り替えようとしても、その天然ガスは自国では算出しないので、今はロシアからの輸入に頼っている状況であるので、なおさら始末が悪い。経済制裁の対象国からの輸入は、早々には増やせないのであろう。

 

だからドイツは簡単にはディーゼル車などのICEVの禁止には、同意し難いのであるが、しかもドイツ国内では「自動車メーカーは信用できない」と言うのが、世論の大半となっているので尚更性質が悪い上に、自動車に関してはリーダーであったドイツではあるが、このところアメリカ勢に押されているからメルケルも気が気ではないのであろう。シリコンバレーしかり、テスラしかりである。

 

メルケルにしては、ディーゼル廃止の時の流れには逆らえないが、そうかといってICEVは廃止すると言って国内産業を衰退させてしまっては、労働者からの総スカンを食わないとも限らないので、自身の存立の問題ともなりかねない。9月には議会選挙もあることであるし、態度をはっきりしかねていると言うよりもはっきり言わないと言うところなのであろう。

 

もともとドイツと言う国は、自分に都合がよければ友達でも裏切ることが出来る、と言う性格の国である。対外的にはいい顔をして、自国産業の保護を優先することになろう。

 

VWの排ガス不正のその最たる例である。日本が中国で内戦に引っ張り込まれた原因は、このドイツの裏切りがあったからである。ドイツは日本と同盟関係にありながら、中国から希少金属などを買うために中国を裏で軍事援助をして武器を売り込み、日本と戦争をするように蒋介石を焚きつけていた。)

(続く)

続続・次世代エコカー・本命は?(104)

パリ協定の性格

 201761、トランプ大統領は、選挙公約に従って、米国のパリ協定からの脱退を発表した。ただ、実際の脱退は、発効3年後から通告可能で、通告の1年後に効力を有することから、将来の話になる。

 そのトランプ大統領のG20ハンブルグ会議とフランス訪問の直前のタイミングで、パリ協定のホスト国として、地球温暖化対策の積極的推進を表明し、リーダーシップを取ろうとしたマクロン大統領の政治的決断は「凄いというほかない。

 特に近年、EU欧州連合)内では、メルケル独首相の主導権が目立ち、フランスの影が薄くなっていただけに、マクロン大統領の国際的な発言力強化につながるものであった。環境立国は、EUとしての未来戦略でもある。

 パリ協定は、20151112月にパリで開催された、第21国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で締結され、1611発効した国際条約である。しかし、パリ協定は、同床異夢の産物であり、内容が十分に整合的であるとは言い難い。

 パリ協定では、まず世界共通の長期削減目標として、産業革命前からの気温上昇を2度(可能ならば1.5度)未満に抑制するとし、先進国だけでなくすべての国が削減目標を自ら策定し、国内措置を履行、5年毎に目標を提出することとした。

 ところが、各国目標が達成されても、削減量が大きく不足し、全体目標は達成できないことから、各国は5年ごとに目標を見直し、これを強化していくこととされている。「グローバル・ストックテイク」と呼ばれる一連の仕組みだ。

 COP21終了後、会議報告を聞いた時、環境NPO環境省関係者は2度目標の合意を、産業界・経産省関係者は各国目標の履行を強調していた。筆者は同じ会議の報告とは思えなかったことを記憶している。当然、EU各国は、全体目標の実現を重視している。

ディーゼル車の行き詰まり

 実は、米国は脱退するまでもなく、パリ協定で自ら課した削減目標(2025年に2005年比2628%削減)の達成は何ら難しいことではない。シェール革命により、米国内の天然ガス(パイプラインガス)価格が下がり、火力発電用燃料は石炭からガスにシフトしており、二酸化炭素排出量は順調に減り続けている。

 したがって、トランプ大統領がいくら石炭復権を叫んでもその実現は難しい。米国石炭産業の後退は、パリ協定ではなく、シェール革命によるものである。そのため、トランプ大統領にとっての問題は、目標見直し時の目標の緩和禁止規定の解釈の問題に過ぎないとする指摘もある。

 確かに、地球温暖化対策は人類の持続的発展にとって喫緊の課題ではあるが、先進工業国において、現時点で、現状の自動車産業を否定する政策方針を打ち出すことは、驚きである。

 現在の自動車産業は、エンジンをはじめ部品点数も多く、関連産業のすそ野も広く、雇用に与える影響も大きい。日本自動車工業会によれば、車体・部品関連の製造業雇用者だけで約80万人、販売・サービス等の自動車関連産業全体では550万人の雇用者があるといわれる。それに対し、EVは、モーターを中心に部品点数も少なく、雇用吸収力も必ずしも大きいとは言えない。わが国では、こうした決定を国民的議論なしに突如発表することは無茶な話だろう。

 現時点で、フランスが内燃機関自動車の禁止方針を打ち出した背景には、ドイツのフォルクスワーゲンVW)による米国燃費規制違反を契機とするディーゼル乗用車の技術的限界もあるのであろう。718日には、ダイムラーが燃費規制とは無関係としつつも、「メルセデス・ベンツ」ブランドのディーゼル車の大規模リコールを発表したところであり、また、75には、スウェーデンボルボ2020には販売全車種を電動車にすると発表している。

 伝統的に、フランスを代表する自動車会社ルノーを含め、欧州系の自動車メーカーは、ディーゼル乗用車に強い。にもかかわらず打ち出されたフランスの内燃機関自動車販売禁止方針は、ディーゼル自動車技術に対するギブアップ宣言であり、フランス自動車業界に対する「転身」要請かもしれない。

 わが国では、石原慎太郎・元東京都知事ディーゼル排ガス規制時の経緯からディーゼル車へのイメージが悪いが、欧州では、ディーゼル車はガソリン車よりむしろハイテクなイメージがあり、燃費不正発覚以前には、乗用車の新車登録ベースで、ガソリン車よりディーゼル車の方が、むしろ多かった。同クラスの乗用車で、ディーゼル車の方が20%程度燃費が良いこと、燃料税もガソリンよりディーゼルが安い国が多いことも、欧州のディーゼル車人気の要因であった。

 一般に、燃費規制排ガス規制の間には、エンジンの構造上、トレードオフの関係があるといわれる。公害問題華やかなりし時代には、大気汚染対策としての排ガス規制の強化が進んだが、その後の地球温暖化が問題となってからは、燃費規制が徐々に強化されてきた。そうした中で、燃費規制と大気汚染対策、特に窒素酸化物(NOx)規制を両立させることが難しくなってきたことが、VWの燃費不正の背景にある。その後、燃費不正は、多くのディーゼル車メーカーに広がった。

 なお、マクロン大統領は、前のオランド政権の経済・産業・デジタル大臣時代、ルノーに対する政府関与を巡って、ゴーン率いる経営陣と対立したこともあった。だが、ルノーは早い段階からEVの本格的導入に向けて取り組んでおり、わが国でもEVに強いと見られる日産自動車三菱自動車資本提携している。

原子力発電による電気

 もう一つ、フランスが内燃機関自動車の禁止方針を打ち出し、EV等の電動車に舵を切った背景には、フランスの電力がほとんど二酸化炭素を排出せずに作られていることもある。

 電気事業連合会の資料によれば、フランスにおける電源別発電電力の構成比(2014年)は、石炭・石油・天然ガス5%、原子力77、水力・再生可能エネルギーその他で17だった。化石燃料起源の電力は5%に過ぎず、8割近くが原子力起源の電力で、クリーンな電力であると言える。

 これに対し、わが国では、化石燃料86%・原子力0%・再生可能エネルギー14と、化石燃料起源の電力が圧倒的に多く、現時点では、EVは温暖化対策にならない。自動車の走行段階でCO2排出がなくとも、発電段階でCO2を出すのではトータルでクリーンな自動車とは言えない

 1970年代に石油危機を2度経験し、フランスでは、エネルギー安全保障確保の観点から、石油依存脱却の切り札として、原子力発電の強化を図って来た。チェルノブイリ事故が起きても、また福島第一原発の事故の後でも、原子力への依存・信頼は揺るがなかった。「中東の石油より、自国の科学者を信じる」という言葉もあった。2016年の一次エネルギー供給ベースでも石油が32%に対し原子力39%を占めた(英エネルギー大手BPが毎年発行している「BP統計」2017年版)。

 その取り組みが、地球温暖化対策においても、功を奏していると言える。そもそも、パリ協定自体、そうした確固としたエネルギーの基盤がフランスになければ、まとまらなかったに違いない。わが国が直面している環境保全・エネルギー安全保障・経済成長のいわゆる3E」のトリレンマから、フランスは解放されているのである。

ドイツの立場

 フランスの内燃機関自動車禁止方針発表に、最もショックを受けたのは、ドイツメルケル首相であったかもしれない。ドイツは、EU内でフランスと並ぶ環境保護国家であり、温暖化対策のリーダーである。しかし、現時点では、フランス同様に、将来の内燃機関自動車禁止方針は打ち出せないであろう。

 なぜならば、国内自動車産業の規模がフランスの約3であるからだ。2016年の世界の自動車生産量は、中国2812万台、米国1220万台、日本920万台、ドイツ606万台がトップ4位であり、フランスは第10位の208万台である(日本自動車工業会調べ)。

 また、発電における石炭天然ガスへの依存度はそれぞれ4613%だ。自然エネルギー21%と比較的高いものの、火力比率が高いため、電化は温暖化対策にならない。

 ドイツは、温暖化対策先進国と言われながら、ロシアからの天然ガス依存上昇に対する安全保障の配慮からか、石炭火力を温存する政策を伝統的に採用してきた。政治的にも、石炭労組の発言力は未だに強い。原子力発電の将来的廃止を打ち出す中、今後は、日本同様、「3E」のトリレンマから抜け出すことは難しくなるものと思われる。


(続く)