VWは欧州と中国ではそれなりに知られた存在ではあるが、北米やアセアンなどのアジアではそれほど存在価値はない。特にインドなどの新興地域では全くと言ってよいほどVWの存在価値はない。その点スズキはインドでの存在価値は抜群で市場シェアは40~50%であり、VWにとっては垂涎の的であった。
更にはスズキの小型車の低コスト技術は際立ったものがあり、この点でもアジア対策としてVWのほしかったものであった。
VWはすでに2011年4月に北米のテネシー州、チャタヌーガ市(Chattanooga)に生産工場を稼働させ、北米仕様のパサートの1号車をラインオフさせており、順調に販売を伸ばしている。2015年には生産累計50万台も達成している。しかし排ガス不正による影響で、その伸びも抑えられる可能性があるが、今はVWとしてはひたすら頭を垂れるしかない状況である。
従ってVWの狙いはインドやアセアンを中心とするアジアの攻略だったのである。その道具がスズキであった。
VWとトヨタの地域別販売台数(2014年)を考察しておこう。
日本 1% 23%
北米 9% 25%
欧州 36% 8%
中国 39% 10%
他のアジア 3% 16%
中南米 8% 5%
その他 4% 13%
合計 100% 100%
2014販売 1014 1023万台
これは
【インフォグラフィックス】トヨタ首位転落!?報道によってVWと販売台数1位が異なる理由を解説
- 2015.05.13
http://ikikuru.com/car-life/carworldshare2014/
に掲載されていたものであるが、
VWは、欧州、中国
トヨタは、北米、日本・他のアジア で販売台数を稼いでいることが分かる。
VWは、日本を含むアジアで完全に負けている。北米は先に述べておいたようにテネシー州に生産工場を稼働させており、販売増に対する手は既に打たれているので、残るインドを含むアジア攻略が残っているのみである。
そんな時に、と言っても上記の数字2014年のもので提携話は2009年12月のことではあるが、スズキがGMから離れて、VWの懐に飛び込んできたと言うわけだ。これでインドなどのアジアはものに出来る、とほくそ笑んだ筈だ。トヨタを抜いて世界一になる夢がかなうと、VWも確信したことであろう。
参考のために、トヨタ、VW、GMのグループ別世界販売の概略台数のグラフを次に示す。
如何にVWの販売台数の伸びが急激だったか、と言う事が判るものである。尚台数の数字はあくまでも概略であり、傾向を示すものとして眺めてほしい。
2009年ではトヨタ、GMともにリーマンショックの影響で販売台数をかなり落としている。その影響をそれほど受けなかったVWとしては、トヨタの背中がすぐ目の前に迫ってきた、これでトップに立てると確信できた、と言う感じではなかったのかな。
アメリカでのディーゼルの排ガス不正に手を染めたのも、そんな思いから来たものであろう。VWは全く姑息な手を使ったものだと、つくづく思われる。なんでだ?と思わず口走ってしまうほどだが、ドイツ人の今までのやり口を見ていると、さもありなんとも感ずるのである。
VWの狙いはスズキの支配であり、これに対してスズキの鈴木修の思惑は「VWとのイコールパートナー」であった。支配とパートナーとでは、まったくその方向は真逆である。スズキはVWのその思惑に、それほど注意を払わなかったようだ。
それと言うのも、1993年頃スズキの鈴木修は、VWの取締役会会長(社長に相当する)のカール・ハーン博士と非常に親しく、そのVWから経営のノウハウを学んでいたからであろう。それほど疑いを持たなかったに違いない。そこに間違いがあったものと推察できる。それから4年の歳月が過ぎている。VWも自動車業界も様変わりしていたのである。ちょっと修も抜かったかも知れない。
VWの販売地域の構成をみると、その歪(いびつ)さがよくわかる。と言う事は野に放たれたスズキを見て、VWが見過ごすはずがない。この話はVWからスズキにアプローチしたものと思われる。
それまではスズキは新興国に対して「低コスト」な車を、大企業より「先回り」して販売していた。しかも「ワンマン経営」でそれが実施できたため、それなりに利益を上げることが出来た。しかし時間がたつにつれて新興国でも、その低価格車では満足されない雰囲気になってきていた。国内でも軽自動車への風当たりが強くなっていた。そんな時に2007年には金融危機が深刻化し2008年にリーマンショックが起こってしまった。そのためスズキは2008年11月には提携先のGMからスズキ株をすべて買い取って提携関係を解消している。そしてそこにVWが現れたのである。
(続く)