小沢資金問題(25)

今回の小沢の「政治資金規正法」違反(虚偽記載)容疑は、市民団体の刑事告

発から始まっているが、その元をただせば、当ブログ3月13日に掲載した2007

年3月の事務所費問題あたりから始まっている。あの松岡利勝農水相の件など

である。なぜあの時点で事務所費問題が突如として話題になってきたのか。これ

も、元を糺(ただ)せば小沢の資金問題をうやむやにする為の小沢サイドから安

部政権へ仕掛けられた陽動作戦だったのである。


ことの起こりは、講談社の『週刊現代』2006年6月3日号である。この週刊誌

に、ジャーナリストの長谷川学氏小沢一郎民主党代表の”隠し資産”を暴

く」
と言う記事が載った。ここでのテーマとなっている2004年10月に陸山会

手に入れた世田谷の土地などの、小沢の政治団体・陸山会が購入している不動

産などがそれに当たる。小沢の政治資金管理団体である陸山会は、1994年以

降マンションだけでも10戸も購入している。そのうち8戸が都心の一等地にあ

る。赤坂、麹町、南青山などである。それらは陸山会の資産とされているが、すべ

てが小沢氏の個人名義で登記されている。しかし小沢氏が衆議院議長に提出し

ている「議員の資産等報告書」には記載されていない。マンションだけでもこの有

様である。世田谷の土地のように他の不動産も、小沢個人の名義で相当数保有

しているはずである。


従ってこの記事では、これらの「不動産は事実上小沢氏の”隠し資産”ではな

いか
」と報道したのである。それに対して小沢氏は、「不動産は陸山会のもの

であり、報道は虚偽だ
」として提訴したのである。原告は小沢氏と民主党。被告

は筆者の長谷川学氏と出版社の講談社


この小沢の蓄財疑惑についての裁判結果は、小沢側の敗訴で決着がついてい

る。


一審の東京地裁の判決
は、2007年8月。その判決は、次のような内容のも

のである。


原告小沢は資産形成や利殖の目的がないと主張するが、これらの点も、結局、

将来における取り扱い如何によって、後世判断されるほかないものである

本件各マンションが陸山会の所有であり、原告小沢には権利がないかのごとく

主張する原告らの前提は誤っている
」とし、「陸山会の所有」とする小沢氏の主張

を退けている。

 
二審の東京高裁判決も、2008年6月に出されている。該当記事の主要部分

を真実と認定し、講談社側が勝訴したのである。そして小沢側は上告を断念し、

小沢氏の敗訴が確定したのである。


東京高裁も、不動産については「陸山会のものであると断定することはできない」

とし、小沢氏個人の所有の可能性があるとしているのである。


そして陸山会の不透明な実態についても言及している。その判決内容の小生な

りの要旨を次に記す。


小沢は各マンションが陸山会のものと主張しているが、そもそも陸山会には客

観的且つ法律的な主体性がない。これを『権利能力なき社団』と言うが、陸山会

の中身においてもそれらを示す団体要件が無い。またそれを示す資料も無い。

従って陸山会の所有とは、小沢個人の所有と見て間違いが無い。


二審の判決内容を意訳して表すと、ざっとこんなところだ。


小沢側は『陸山会は権利能力無き社団である。この社団は権利能力が無いの

で、不動産登記が出来ない。従って小沢の名義で登記したに過ぎない。』と主張

して、不動産は陸山会のものであるとした。


しかしこの高裁判決は、この小沢の主張を退けたばかりか、陸山会そのものに

ついても「実体を有していない」と決め付けている。だから、陸山会の名義のもの

であっても、それは小沢個人のものであるとして、小沢は彼の政治団体の陸山会

を隠れ蓑として、国民の税金を使って(政治資金)不動産を購入すると言う

不正蓄財」をしていたことになる。だから蓄財疑惑なのであるし、疑惑どころか、

「不正蓄財」そのものだったのである。


だから鳩山政権は小沢を不起訴にすることなく、起訴しなくてはいけなかったの

である。ついでに鳩山自身も起訴されたらどうかと思うよ、脱税で。懲罰的な追

徴課税が無いと国民は気が済まないのではないかな。


小沢はこの週刊現代の「小沢一郎民主党代表の”隠し資産”を暴く」と言う記

事をみて、「絶対に許さない」と激怒したと言うが、その割には、提訴の時期が遅

すぎる。この週刊現代は6月3日号だったので、小沢がこの記事を見たのを便宜

2006年6月3日としよう。これに対して、小沢が提訴したのは、3ヵ月も後

2006年9月7日であった。この9月7日という日付にも意味があるのである。


それは、2005年分の政治資金収支報告書の公開日2006年9月8日

提訴日の一日後の事であった。すなわち、この世田谷の土地の取得がこの政治

資金収支報告書に記載されているのである。この土地は「表に出してはまずい

」の4億円で購入している。だからこの政治資金収支報告書の内容を、マスコ

ミあたりから根掘り葉掘り聞かれないようにと言う効果を狙って、小沢は、講談社

と作者の長谷川氏を提訴したのである。


それと同時に、9月8日の新聞紙上には小沢の提訴の記事と並んで、「小泉政

権の閣僚や自民党実力者の事務所費問題
」が取り上げられていたのである。

小泉内閣2006年9月26日に任期満了で総辞職している。そのため、あと

を継いだ安部晋三内閣にも事務所費問題は波及し、佐田玄一郎行革担当大

の架空事務所費計上問題が持ち上がり辞任している。更には、本間正明

税制調査会会長
の公務員宿舎への愛人との入居問題が2006年12月

週刊ポスト」(小学館)に暴露され、本間氏は結局は12月21日に一身上の理

由で税調会長を辞任している。また農水大臣に就任した松岡利勝大臣のNPO

請の審査状況の照会問題が発覚したり、過大な事務所費が計上されているなど

で疑惑を追及されている。結局は松岡利勝2007年5月28日議員宿舎

内で首吊り自殺することになった。


これなども小沢サイドか仕掛けた陽動作戦であった。先に示した新聞は毎日

新聞だとこのWiLLには記載されているが、その小沢の講談社提訴の標題の横

には、あたかも自民党議員の事務所費の方が問題が大きい、と言わんばかりの

表現が羅列されていたのである。小沢の隠し資産の問題の方が、とてつもなく大

きな問題なのだが、小沢サイドがマスコミにも手をまわして、自身の政治資金

告書の虚偽記載にマスコミの目が向かないように、、自民党議員の事務所費の

架空計上問題をばらしたのである。この攻防の最中には、小沢のあの「確認書

が出ているのである。この確認書は、実際には2007年2月20日頃に作成さ

れている。これについては、当ブログの3月13日~14日を参照願う。


この小沢が講談社や長谷川氏を提訴したことも含めて、小沢が仕掛けたこれら

の罠は、見事に効果を挙げて最終的には松岡利勝農水大臣の自殺にまで追い

込み、小沢の陸山会疑惑への波及は見事に吹っ飛んだのであった。小沢の

張った予防線は、見事に効果を挙げた
のである。そして小沢は、今もわが世

の春を謳歌しているのである。悪い奴ほどよく眠るのである。

(続く)