まあいずれにしても「日産リーフ」はアメリカで月平均2,400台程度(=24,411÷10)は売れているので、世界で月平均3,300台の販売は納得できるものである。
参考までに日産リーフの日本での販売台数は、2014.1~5月で次のようになっていて更に売り上げを伸ばしているようだ。
(http://ev.gogo.gs/news/detail/1405409762/による。)
日本 世界(USA,カナダ,日本,独,蘭,ノルウェイの6カ国)
日産リーフ 5,596台(1,119台/月) 22,097台( 4,419台/月)
三菱PHEV 4,553台( 911台/月) 10,454台( 2,091台/月)
トヨタPHEV 1,000台( 200台/月) 10,487台( 2,097台/月)
ちなみにリーフの2013年1月~12月の日本での販売台数は、13,021台(1,085台/月)だった。
(http://u-car-guide.com/articles/news/topics/201401-03/nissan_20140328/ より)
しかし上の数字からすると、消費税が増税されても、2014年はこの数字はそれなりに増えているように思われる。使いようによっては、電気自動車も捨てたものではないのであろう。
さて先にトヨタプリウス・プラグインハイブリッド(PHEV)車の電池能力が低すぎたと言った話をしたが、それについての論考を紹介しよう。
自動車の最新技術を追う Automotive Technology
Tech-On クルマ 和田憲一郎の一車両断
ユーザー心理を見誤った「プリウスPHV」
2013/07/05 00:00
和田 憲一郎=電動化コンサルタント、エレクトリフィケーション コンサルティング代表
三菱自動車で電気自動車(EV)「i-MiEV」のプロジェクト マネージャーを務めた和田憲一郎氏が、注目の電動車を取り上げて分析し、クルマの現在と未来を語る連載「一車両断!」。第1回は、トヨタ自動車が投入したプラグインハイブリッド車(PHEV)「プリウスPHV」を取り上げ、PHEVの課題と未来を考える。
図1 プリウスPHVの外観
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トヨタが2012年1月に発売したプリウスPHV(図1)。発売から約1年半経ったが、当初目指した年6万台以上(世界)の販売台数に達しない。2013年4月時点の累計販売台数は3万3000台程度にとどまる。プリウスPHVは革新的な商品だ。それにも関わらず期待通りに売れない原因はどこにあるのか。原因を読み解くことで、PHEVのあるべき姿が浮かんでくる。
少なくとも35km
図2 ユーザーはほぼ毎日充電しなければならない
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PHEVは、CO2排出量やガソリンの使用量から見て、ハイブリッド車(HEV)と電気自動車(EV)の間に位置するクルマである。ただ間にあるという曖昧さがゆえに、ユーザーとメーカーの間で解釈の違いが生じやすい。
プリウスPHVといったPHEVの購入を考える人は、HEVとEVのうち、どちらに近い車両とみなすのだろうか。筆者は、“EVの派生車”と考える人が多いとみる。“充電”が車両の性能に大きな影響を与えるからだ(図2)。PHEVは、充電してEV走行距離を増やすことで高い燃費性能と環境性能を実現する。逆に言うと、充電しなければその恩恵を享受できない。
PHEVをEVの一種とみなす人は、端的に言えばEVを使ってみたい人である。ただ買いたいが、短い航続距離に対する不安や充電インフラの少なさから買うのに躊躇している層でもある。そんなEVに魅力を感じる層は充電作業をどう考えるだろう。筆者がEVのユーザーとこれまで多く話してきた感覚では、比較的当たり前のこととして受け止め、煩わしいこととは考えない傾向にある。EVと充電作業はセットと言えるものだからだ。
一方、PHEVをHEVの一種とみるユーザーは異なる。充電作業に対して煩わしいと考えて負担に感じがちだ。この層はPHEVに対してHEVより高い燃費性能と、EV走行によってHEVより静かで快適な性能に魅力を覚える層。HEVに必要ない充電作業を欠点とみなしがちだ。しかも充電はほぼ毎日必要な作業である。
微妙な心理の違いに思えるが、筆者の経験では、PHEVを購入する決断に至るかどうかに意外と大きく効くポイントである。プリウスPHVは、そんなユーザー心理を見誤った。トヨタはHEVであるプリウスの延長にある車両として位置付けている。
プリウスPHVのEV走行距離は短い。JC08モードで26.4kmにとどまる。これでは一般の人が1日に走る平均距離である20kmをEVモードで走れない。EVを使いたい層、つまりPHEVを購入したいと考える層にはもの足りなく映るだろう。
JC08モードは、街乗りとも異なる上にエアコンとヒータを使わない状態で測る。状況によるが、エアコンを使いながら走るとモード値から2割は減る。ヒータを使うとさらに減る。またPHEVやEVでは車内のモニターに走行可能距離を示すが、その値は余裕分を考慮して少なめに表示する。十数km走れる場合でも、実際には10kmと表示することが多い。ユーザーはモニターの走行可能距離で航続距離を判断する。これらを考慮すると、実際に使う場合で20kmの航続距離を必ず実現するにはモード値で少なくとも35km以上にしなければならない。
最近発売された他社のPHEVを見ると、三菱自動車の「アウトランダーPHEV」が60.2km(JC08モード)、ホンダの「アコードプラグインハイブリッド」は37.6km(JC08モード)と、ともに35km超に設定している。
急速充電機能がない
プリウスPHVには急速充電機能がないことも指摘したい。トヨタは、電池の電力容量が4.4kWhと小さい上にエンジンを動かして充電できるので、住宅での普通充電機能があれば問題ないとみたのだろう。
確かに実用上はほとんど急速充電機能を使うことはないと言える。だがユーザーの心情を想像すると、走行中に電池残量が減ると急いで充電したいと思うものだ。オプションでかまわないので用意するべきだった。実際、アウトランダーPHEVでは急速充電機能をオプションとしたが、9割以上のユーザーが購入する。
開発者が用意しなかった理由は分かる。仕様を決定した時期は充電インフラが普及していない上、日本が推す急速充電規格「CHAdeMO」方式が国際標準になるのか不透明だった。
ただ結果論になるかもしれないが、CHAdeMO方式を採用することをためらうことはなかった。同方式は、他国の方式と並んで2013年後半にIEC(国際電気標準会議)の規格として国際標準になる見通しだ。加えて欧州や米国では、それぞれ1000基規模で充電スタンドの設置が進む。さらに欧米の急速充電器メーカーは、欧米が進めるCombo方式とCHAdeMO方式を併用することを想定したデュアルアーム構造の検討を進めている。他の規格と競争するというよりも協調しながら併存しそうな形で、今後、CHAdeMO方式がなくなることは考えにくい状況になりつつある。
日本では政府が1005億円を投じて充電インフラの拡充を進める。2020年までに3万7000基に拡大する計画だ。EV走行を希望する人が多いPHEVに急速充電機能を搭載しない手はない。
2015~2017年に大転換
図3 プリウスPHVの電池パック
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もう一つ、航続距離が短いのに併せる形で電池容量が4.4kWhと小さいために、V2H(Vehicle to Home)機能が限定的になる点も残念だ(図3)。V2Hはクルマを蓄電池とみなすことで、住宅の電力利用の効率を高める取り組みのこと。PHEVやEVの魅力の一つとして注目を浴びつつある。
V2Hは未来の技術ではない。既に商品化に備える段階にある。2~3年前から自動車メーカーや家電メーカーが中心になって各地で実証試験を進めており、あとは法整備や認証制度などが終わるのを待つ段階にある。
プリウスPHVは、V2H機能を実現するには電池の容量が小さい。例えば住宅の電力をクルマの電池で賄う場合、1日分を賄うには電力事業連合会の調べによると大体10kWhいる。ユーザーの感覚として、1日分というのは分かりやすい目安だろう。4.4kWhのプリウスPHVではV2Hを限定的な形でしか実現できない。このことが商品力を高める好機を逃しているように思える。
とはいえプリウスPHVは未知の領域に挑む革新的な商品である。読み違いが多く出てくるのは当然のことでもある。次のプリウスPHVに、今回の分析を生かせばよい話しだ。
次を見据えるのであれば、もっとEV寄りの企画を立てるべきだ。次期車両を発売しそうな2015~2017年にかけて、クルマの電動化に関わる技術や環境が一気に整う「ティッピングポイント」がやってくると考える。ティッピングポイントとはマルコム・グラッドウェル氏が提唱した概念で、ある一定のポイントを境に、劇的に流れが傾く(tipped)現象を指す。そんな現象を予兆するかのように、最近、電動車両に関連する多くの事象が関係性を持ちながら動いているように映る。
(1)EV/PHEV用Liイオン2次電池の価格が著しく下がり始めた。EVでは2010年ごろに15万円/kWh前後だったが、最近では8万円/kWh前後、携帯電話機用と同等の3万円/kWhも視野に入り始めた。
(2)EV用Liイオン2次電池のエネルギ密度が徐々に向上し始めた。数年前の100Wh/kgから130~150Wh/kgになる。
(3)充電インフラが充実しつつある。国内では急速充電器を2020年までに約3万7000基設置する。
(4)車両と周辺インフラなどを通信でつなげる構想「V2X(Vehicle to X)」の実用化が近づいている。おそらく2014~2015年ごろ。
(5)FCV(燃料電池車)の量産車が登場。これも2014~2015年ごろ。
(6)ワイヤレス給電機能が少ないながらも市場に投入され始める。2015年前後だろう。
(7)中国やアジアの首都で大気汚染が深刻化し、先進国でガソリンスタンドが急減する。日本では過去最高で約6万軒だったところ、現在は約3万軒に半減している。
2015~2017年ごろを境に、PHEV/EVに懐疑的だった企業も、それなしには成長戦略を描くことができなくなるとみる。トヨタも今のHEVに力を注ぐ体制からPHEV/EV/FCVの開発に基軸を移していくことになるのではないだろうか。
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20130628/290452/?ref=ML
(続く)