続続・次世代エコカー・本命は?(86)

モデルS1充電あたりの航続距離は500km以上。長距離ドライブもまったく心配ありません。

 

 

F 環境のことを考えてEVを選ぶ、EVに乗るという話ですが、電気を作る手段についてはどのようにお考えでしょうか? どうやって電気を作るのか? 石炭やLNGだとCO2が出てしまう。やはり風力なのか、太陽光なのか、あるいは原子力発電なのか?

ケルティー 先ほどギガファクトリーの話をしましたけど、あれは世界一大きな電池工場になります。そこではCO2の排出は一切なしです。太陽光発電風力発電しか使わない。

F
 それはすべて自分たちで創電するのですか?

ケルティー 基本的には自分たちで作り、足りない部分は他社からも買います。他社から買ってもCO2はゼロです。いま工場を作っている段階でどういう設備を入れたらいいのか、CO2ゼロを念頭に設計されています。

F
 日本はその問題に直面しています。すべての原子力発電所を停止したことにより、LNGを燃やし、1日に100億円ほど余計に支出している。

ケルティー そしてかなりのCO2を出していると。

F
 そうです。じゃあ、原発がいいのかといえばそれは難しいところですが。

ケルティー 日本にはすでに原発の設備があるわけで安全性の問題が確保されていれば当然、原子力の方が効率はいいでしょう。しかし、自然災害のリスクが高いし、これから新しい原発を建設するのはコストが合わない。アメリカの場合は、新しく発電所を建設する場合は、太陽光風力地熱発電のいずれかですね。いま風力発電はテキサスがすごくて、夜間に発電した電気を蓄電しきれずに捨てているくらいです。これを今後うまく蓄電技術と組み合わせていきたいと考えています。

F
 ところで日本はテスラにとって売れているマーケットなのですか?

ケルティー 我々は世界を大体1/3ずつに区分しています。北米、ヨーロッパ、アジアです。

F
 アジアで一番売れるのはやはり中国ですか? 環境を気にしている?

ケルティー 中国ですね。彼らはパフォーマンスで選んでいます。人口も多いですから。

F
 今後はモデルXに続いて、モデル3、それから新しいロードスターも出るそうですが?

 

ケルティー モデルXシャシー、電池、パワートレインなどがモデルSと共通のSUVです。モデル3は新しいシャシー、新しい電池パックなどすべて新規で開発しています。最初は小さめの4ドアでメルセデス・ベンツのBクラスくらいのサイズです。ロードスターについては、まだ具体的なスケジュールは発表していないのですが、いずれ出します。

F
 これからEVの比率は、テスラに限らず、ワールドワイドで増えていくとお考えですか?

ケルティー 当然増えます。モデル3が出る2018年末2019年頃(実際には2017.7.2830台が、社員に配車された)には、テスラだけで年間で50万台を作る予定です。ただし、それでも世界の自動車のシェアの0.5%です。我々のフリーモント工場、ここはもともとトヨタGMが設立した合弁工場「NUMMI」ですが、ここでは50万台しか作れません。もちろん今後は新しい工場にも投資をしていきます。

F
 うんと先、例えば50年先にはガソリンやディーゼルがなくなって、すべてがEVになっているなんてことがあると思われますか?

ケルティー 50年経てば、あるかもしれませんね。ただこれからの20年間はガソリンがあるし、ディーゼルもあるし、EVもあるし、HEVもと選択肢はいろいろある。ですが、基本的にEVはガソリン車に劣るところはなにもありません。ですから何年先になるかわかりませんが、いずれはすべてEVの時代がくるかもしれません。
(続く)

続続・次世代エコカー・本命は?(85)

F ここではクルマ用の電池を作るのですか?

ケルティー クルマ用と蓄電用の両方です。それぞれの電池は全く同じでもなく、全く違うというものでもありません。用途が違います。例えばクルマ用の電池は、振動や熱にも耐える必要がありますし、ある日は100km走ったり、翌日は20kmだったりと、走行距離も毎日異なります。蓄電用の電池は11回放電しますし、耐久性が求められます。蓄電用であれば、放電の波数と充電の波数はそれぞれ固定ですが、クルマ用はスピードを上げると放電の、急速充電する際には充電の波数が高くなるなど変動しますから、そこに対応する難しさがあります。ですからリチウムイオンという材料は同じなのですが、いろいろな違いがあります

F
 テスラの電池のエネルギー密度は世界的にみて最高レベルと呼べるものなんでしょうか?

ケルティー エネルギー密度は、Wh/L 又はWh/kgで測定しますが、我々の電池はクルマ用としてはもっともエネルギー密度の高いものを使っています。クルマはスペースにも重さにも限りがあります。密度を高めたことでテスラは500km以上走行できるのです。他社のEVで航続距離が短いものであれば、それはたくさんの充放電回数に耐える特性が求められます。我々はエネルギー密度が1番重要だと考え、他社では何度でも充放電できることを重視している。そのすべての特性を備えた電池というものはまだありません。

F
 いま日本ではテスラは何車種を展開しているのですか?

ケルティー 2008に発売したテスラロードスターは世界で2,400台が販売されました。それが2012に販売を終了しており、その後モデルSを投入しました。

F
 ということは日本ではいまモデルSだけですか?

ケルティー 世界でもそうです。ここ数ヶ月以内にはアメリカで先行してSUVモデルXを導入予定です。日本への導入は遅れてしまいますが、既に北米では現車を見ずに買われた方がたくさんいます。実は価格もまだ発表していないのですが、来年の春生産分まで米国では売り切れの状態です。

F
 それはすごい。アメリカだとどこで売れているのですか?西海岸もしくは東海岸

ケルティー 全米で売っていますが、1番売れているのはカリフォルニアです。その最大の理由は環境を大事にする人が多いということです。

F
 カリフォルニアには優遇税制があるとかではないのですか?

ケルティー そうではありません。それは東海岸でも同じ傾向で、ワシントンD.C.とかマサチューセッツなども同じ理由でたくさん売れています。

F
 それはつまり環境意識の高いインテリジェンスのある人が買われているということですか?

ケルティー 私はそうは言いません(笑)。たとえば私は、ベジタリアンで肉は食べないんです。その理由は環境を大事にしているからです。15年間ずっと肉を食べていません。多くの日本人の皆さんには理解できないと思いますが。アメリカでは全然不思議なことではありません。

F
 えーーー! おいしいのに。魚は食べるんですか?

ケルティー 魚は食べます。でも肉は食べない。肉を1パウンド食べたら2,000ガロンの水を消費したことになります。もったいないし、効率もあまりよくない。農薬使って植物を栽培して、それを牛が食べて・・・となるわけですから。

F
 体のためではなく、環境のために食べない?

ケルティー そうです。ですから環境のためにテスラを買うことは珍しくありません。我々のお客様には環境を大事にする方が多いということです。その一方でパフォーマンスも他のクルマには負けていません。0-100km/hの加速は3.0秒です。これを達成したセダンは他にはありません。速いし、電池を非常に低いところに搭載してあるので、重心が低くなり、ハンドリングも良い。そしてデュアルモーターのAWDモデルであれば、すべてをデジタルでコントロールしているので反応が速い。素晴らしいパフォーマンスです。ですからお客様がテスラを選ぶ理由は2つ、環境を大事にしていること、そしてクルマが高性能であること、です。

(続く)

続続・次世代エコカー・本命は?(84)

F それはクルマには載せたくないって、いまケルティーさんもおっしゃったじゃないですか(笑)。

 

ケルティー そうですね(笑)。まぁ、そういうことになって、いろんな会社にいきました。最初は皆ネガティブな反応でした。そこでやっと三洋電機が話にのってくれて、最初のロードスターができたのです。

F
 三洋電機しか選択肢がなかったということですか?

ケルティー そうです。ロードスターを発売できたことで、もう一度パナソニックと話す機会ができました。相手は私の元上司で、じっくりと説明してようやく分かってもらえました。

F
 やはりアメリカでテスラが売れてきて、これは商売になるなという思いがあったんじゃないでしょうか?

ケルティー 実はその時はまだ売れておらず、テスラの販売実績はわずかなものでした。ですからパナソニックと一緒に事業をやりましょうという話になったとき、彼らにとってこの決断はかなりギャンブル的なものであったことは間違いありません。英断だったと思いますね。

F
 それが今となっては逆に電池メーカーからウチのを買ってください、と来るんじゃないですか?

ケルティー はい。我々は色々な国の電池メーカーの話も聞きますしテストもしています。比較したうえで、今はパナソニックパフォーマンスも値段もトータルで見て1ということです。

F
 電気自動車にとって1番大事なものはやはり電池ですか?

ケルティー 私は電池畑の人間ですから、そういう答えになりますね(笑)。

F
 インバーターは?

ケルティー インバーターも内部で開発しています。充電器、モーターも自社開発です。モーターの場合は銅を買ってきて、ワインディングまで自社で行っています。全て自分たちでやりたいわけではなく、もともと作ってくれる会社がなかったのです。私たちは高いところを目指しており、ギアボックスも色んな会社にお願いしましたがどこもできなくて、最後は自分たちで作ることになりました。

 

F それは意外です。テスラはサプライヤーから色んな部品を買って、組み合わせている会社だと思っていました。

ケルティー 我々は他社に比べて、かなりバーティカルインテグレーション(垂直統合)を行っています。いまは多くを自分たちで作っています。もちろん、将来的にはもっと安く作れるところがでてくると思いますが、今は自分たちでやるしかない。さらに言えば、我々自身でテスラの性能を評価する設備も開発しています。なぜなら、市場にそのようなものがないからです。

F
 なるほど。世にはまだガソリン車向けの評価設備しかないのですね。

ケルティー たとえば、このテスラの450ボルト85kwの電池を評価したり、充放電できるような設備はないのです。
最初はある会社の設備を使ってみましたが、我々の求めるものとは機能が違っていた。それで自社で開発することにしたんです。

F
 さぞかし初期投資は大変だったでしょうね。

ケルティー そう!お金は結構使ってます(笑)。初期の頃はダイムラーからも、トヨタからも投資がありましたからそれでなんとか賄いました。

F
 それはやはりこれまでの自動車メーカーも何らかのかたちでEVとの関係を持っておきたいということだったのでしょうか?

ケルティー どうでしょうか。ダイムラーが出資したのは2009年のことでした。一方でスマートEVの電池パックや、メルセデス・ベンツBクラスのEVのパワートレインはすべてテスラが作って納品しました。トヨタRAV4EVの駆動部分はテスラが作りました。

F
 へぇ〜そうだったんですね。RAV4EVトヨタが作ったわけじゃなかったんだ。

ケルティー もちろんボディはトヨタが作ってましたよ(笑)。

F
 そういえば、テスラは今アメリカにギガファクトリーというリチウムイオン電池工場を作っていますが、あれはパナソニックとの合弁会社なのですか?

ケルティー 合弁ではなく、完全に別会社です。テスラが土地や建物などを用意して、パナソニックは設備などに投資しています。日本のパナソニックからも数百人が来ていますし、テスラからも人を派遣し、さらに現地でも数千人を採用し、合計で6,500人くらいの規模になると発表しています。

(続く)

続続・次世代エコカー・本命は?(83)

JAIA設立50周年 特別シリーズ企画 INTERVIEW TOPインタビュー

テスラモーターズディレクター
カート・ケルティ

http://www.jaia-jp.org/50th/interview/018/index2.html

2015.9.11

 

テスラモーターズ2003年、アメリカのシリコンバレーに設立されたEV(電気自動車)専業メーカーである。2008年には初の量産車であるテスラ ロードスターが登場。2010年には日本法人であるテスラモーターズジャパンが設立され、東京・青山に日本1号店となるショールームを構える。また同年、トヨタEVの共同開発を目的にテスラモーターズへ出資、パナソニックも電池の共同開発を開始するなど日本メーカーとの提携もはじまる。年々、存在感を増しているEVの急先鋒、テスラモーターズのカート・ケルティー氏にこれからの日本市場の戦略について話を伺う。

 

テスラモーターズ ディレクター
カート・ケルティー
1991
松下電器産業(現・パナソニック)に入社。同社で15年間勤務し、そのほとんどを電池の開発に従事する。2006テスラモーターズに入社松下電器産業時代も7年を日本で過ごした経験があり、大変な日本通である。



インタビュアー:フェルディナント・ヤマグチ

テスラが選ばれる理由は2つ。環境を大事にしていること、そして高性能であること。


フェルディナント・ヤマグチ(以下F) テスラは世界でも稀なEV専業メーカーだと思いますが、競合車はどういったモデルになるのでしょうか?

ケルティー そうですね。われわれの競合は、EVではなく、メルセデスBMWアウディといったプレミアムブランドです。例えばメルセデスであればSクラスを所有しているような顧客をターゲットにしています。

F
 テスラはなぜガソリン車ではなく電気自動車を作るのですか?

ケルティー 会社としてのそもそものミッションは、石油依存の社会から再生可能エネルギー主導の世界への移行です。自動車以外にも、今年の4月には家庭用蓄電池パワーウォールを発表しましたが、家庭用だけではなく、電力会社向けの蓄電ビジネスも展開しています。いずれも目指すところは同じで、蓄電すれば太陽光発電風力発電をもっと有効活用できるようになります。

F
 ケルティーさんはもともとパナソニックにいたと伺っています。そこでテスラと仕事を始めて移籍されたのですか?

ケルティー 実はそういうわけではないのです。パナソニックにいた頃にこのテスラができたわけですが、最初は全然興味がありませんでした。理由はリチウムイオン電池を使っていたからです。リチウムイオンを使うEVメーカーはたくさんありましたが、どれも成功していなかった。電池メーカーとしては危ないから売りたくない。リチウムイオン電池をクルマに搭載することは、パナソニックだけではなくて、サムスンLGソニーもすべての電池メーカーが反対していました。トラブルが起きれば、自動車ではなく電池メーカーの名前が取り沙汰されてしまう。私自身、アメリカの企業から何度もヘッドハンティングのアプローチを受けましたが、全部断っていました。そうした中で、テスラから話が来た時にあらためて具体的な話をいろいろ聞いて、これならいけるんじゃないかと思ったんです。テスラに移るときは、パナソニックのみんなはとても心配しました。15年間勤めてまるで家族みたいな関係でしたから。最終的には理解して送り出してもらいました。そして今度は立場が変わって、テスラからパナソニックに電池を買いに行ったんです。でも何年間も断られ続けました。
(続く)

続続・次世代エコカー・本命は?(82)

(3/3)

NUMMIをリノベーションした立役者

 もうひとり、この会社を支えるエンジニアを紹介したい生産部門担当の副社長を務めるGilbert Passin(ギルバート・パサン)氏だ。トヨタ自動車をはじめ数社で生産技術の経験を積み、唯一の“北米産レクサス”である「レクサスRX」の生産に尽力した経歴を持つ。築50年を越える旧NUMMIGMトヨタの製造合弁企業)の工場をリノベーション(大規模改修)し、低コスト体質のFremontフリーモント)工場として立ち上げた立役者でもある。

 

テスラのギルバート・パサン氏
テスラのギルバート・パサン氏(クリックで拡大) 出典:Tesla Motors



「生産台数を考慮した上で、効率の良い投資を目標に生産ラインの構築を図りました。建屋はそのまま生かし、工場内部をリノベーションしました。プレス機はサプライヤの遊休施設のものを安く買い取り、さまざまな備品も中古品を活用しています。その一方で、中古では対応できないような最新設備や、フレキシブルな変更が要求される設備に投資を集中しました。例えば、通常の自動車工場で採用されるコンベアラインではなく、ライン上を自走する台車を採用したこともその一環です。工場内の機械装置に、ドイツのKUKA製産業用ロボットを導入したのも、同じ判断からです。(モデルSは)フロアが低く、ルーフが寝ているため、キャビン内にシートを入れる作業は難易度が高く、また内装の組み立てにも高い組み付け精度が要求されます。こうした繊細な作業に、最新ロボットの性能を活用しています。フリーモント工場では、18時間で1日当たり80台、年間では約2万台の車両を生産する予定です。限られた生産能力の中で、モデルXなど新たな車種が増える可能性も鑑みると、将来的にはフレキシブルな生産ができるラインが望ましいとも考えました」(パサン氏)

 驚くことに、モデルSフリーモント工場で一貫して生産される。メインエントランスのある建屋の1階では、内装の組み立てと最終組み立てが行われるが、その2階にはサプライヤから購入したリチウムイオン電池をモジュール化して電池パックを組み立てるエリアがある。その裏側の建屋では、6軸の大型油圧プレスでアルミ素材からボディパネルをプレスしたり、樹脂ペレットからバンパーを生産したりするラインが存在する。見学はかなわなかったが、塗装も同工場で行われている。

フリーモント工場では、約450人が自動車の生産に当たり、約350人が電池パックやモーターといった部品製造を担当しています。ランプやシートなどの部品はサプライヤから購入しますが、ボディやパワートレインといった主要部品のうち95%は、工場内で生産されています。自動車組み立て部門では、高圧ダイキャスト整形されたアルミ製シャシーや、大型プレス機で高精度に加工されたボディパネルを、接着やビス止めによって組み立てます。こうしたアルミボディの製造ノウハウは、他の自動車メーカーにもあまり蓄積されていません。生産効率を突き詰めるだけではなく、作業者を育成して品質を高めるプログラムも実施しています」(パサン氏)

 パワートレインがシンプルなEVだからこそ、社内で一貫した生産体制を採用できるのだろう。モデルS発表イベントの当日、工場から出荷されたのはわずか20台。話題の新型EVを早々と手にしたのは、グーグルの創業者であるラリー・ペイジ氏をはじめとするカリフォルニア州を代表する億万長者たちだった。2011年秋の予約開始から10カ月で1万台のバックオーダーを抱えるだけに、モデルSの到着を心待ちにする人々のためにもフリーモント工場の円滑な操業が求められる。

「残りの敷地に工場を拡大し、1万台のバックオーダーに迅速に対応したい」(パサン氏)



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フリーモント工場の最終組み立てライン
フリーモント工場の最終組み立てライン。上の2枚は、ボディの組み立てラインの様子で、数多くのKUKA製ロボットが導入されている。上から3枚目では、台車上に設置した走行システムにボディを組み付けている。4枚目は、台車上で行っている最終調整の様子である。(クリックで拡大) 出典:Tesla Motors

「モデルS」発表イベントの様子フリーモント工場の外観
左の写真は「モデルS」発表イベントの様子。右の写真は、フリーモント工場の外観である(クリックで拡大) 出典:Tesla Motors

 彼の視線の向こうには、地元のセレブリティだけでなく、遠くヨーロッパやアジアで待つ顧客の顔が見えているのだろう。

 マスク氏はよく、「(モデルSの開発に当たって)最高のスタッフを集めた」と言うのだが、実際、画期的なアイデアを持つCTOのストローベル氏と、彼のアイデアを確実に製品に落とし込んで量産する生産技術を身に付けたパサン氏の組み合わせは「最高のスタッフ」に違いない。

 モデルSの米国での価格は約59万ドル。EVの魅力を引き出して、自動車産業の明るい未来を信じさせてくれるテスラらしい新型車だ。

http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1208/10/news047_3.html

 

 

カート・ケルティ氏については、一寸古いが、次のインタビューを参照されたい。

(続く)

続続・次世代エコカー・本命は?(81)

(2/3)

同価格帯のエンジン車に見劣りしない実力

 実際のところ、モデルSEVとして優れているかどうか評価する以前に、最低価格が5万米ドル(約393万円)の市販車として見て、通常のエンジン車と競合させてみても見劣りしない。はやりの4ドアクーペ風のスタイリングを持ち、060mph(マイル/時)の加速を4.4秒(パフォーマンス・キット装着車)でこなし、毎時208kmの最高速度を発揮する動力性能(同上)と、大人5人(+2人)の居住空間と前後で最大800l(リットル)の荷室を持つ実用性を兼ね備える。剛性感の高いアルミ製シャシーが大トルクを受け止め、前輪がダブルウィッシュボーン、後輪がマルチリンク(オプションでエアサスを装備)の足回りはよく動き、セダンらしいしっとりした乗り心地を生む。

 

「モデルS」の車室内「モデルS」は車両前部にも荷室を有する
左の写真は「モデルS」の車室内。右の写真は、車両前部に設けられた荷室。通常の内燃機関車のエンジンルームが荷室になっているのだ。(クリックで拡大) 出典:Tesla Motors

 

 一方で、ドライビングプレジャーにも満ちている。重量物である電池を床下に低く広く敷き詰めて重心を低めた結果、安定した姿勢でのコーナリングができる。電動パワーステアリングEPS)ながらどっしりと頼もしいフィールのステアリングを操作してコーナーに侵入すると、運転がうまくなった気さえする。

DCブラシレスモーターが主流だった時代に、いち早く誘導モーターを採用したのも『最高の技術を』という観点からでした。最近では、自動車メーカーのエンジニアの中にも、高回転型で使う可能性が高いEV用モーターには誘導モーターが適していると考える人が増えていますが、私たちは当初からその方向を選択していました。現在採用しているモーターは16000rpm(回転/分)もの高回転が可能で、とても効率が高いのです。当然、ベストな技術を探し続けることは私たちの使命ですし、もし仮にテスラが年産100万台の自動車メーカーになったとしても、市場全体から見れば1%に過ぎません。エンジニアリングに終わりはないのです」(ストローベル氏)

 

テスラのイーロン・マスク氏
「モデルS」発表イベントで報道陣の質問に答えるテスラのイーロン・マスク氏(クリックで拡大) 出典:Tesla Motors

 

 ストローベル氏は創業当初からテスラに参加しており、それ以前はモーターを駆動力とする飛行機を開発していた。もともと地球環境問題に強い関心を寄せており、クリーンな技術の粋を集めてEVを作るベンチャー企業の立ち上げを思いついた。ただ、当時はまだ原油価格が安く、「EVはエコだ」と説明して回ってもほとんど投資は得られなかった。ところが、マスク氏との出会いが彼のアイデアを現実に変えるきっかけになった。マスク氏が自身の個人資産を投じた他、著名な投資家たちも賛同したからだ。

「自動車メーカーが開発するEVの多くは、実用的なコンパクトカーでした。当時のEVの性能では、1回の充電で走れる距離が短いために通勤や近所での買い物といった限定的な用途を想定したからでしょう。でも私たちは、IT業界で成功したエンジニアが乗りたいと思ってくれるスタイリッシュなエコカーを作ろうと考えました。プレミアムカーのように誰もが憧れるエコカーを作ることが、EV普及への近道だと考えたからです」(ストローベル氏)

 自動車としての実力の乏しさがEVをつまらないものと認識させ、投資も集まらないのであれば、カッコいいデザインで走行性能と実用性を兼ね備えたEVを作ればいい。若者らしいフレキシブルな発想が、今日のテスラの企業哲学につながっている。

「創業した当時、ほとんどのEVが電池の性能が発展途上であることを、走行距離などの性能が未発達な言い訳にしていました。私たちは、はじめにEVの既成概念を払拭したいと考えました。だからこそ、制御システムや電池など、既存の自動車産業にはなかった分野の技術者をたくさん採用し、EVにとって最大の課題をクリアすることを優先したのです」(ストローベル氏)

(続く)

続続・次世代エコカー・本命は?(80)

テスラには、取締役会会長兼最高経営責任者ElonMusk氏(CEOChief executive officer)の他にElonを支える3人の重要人物がいる。彼らはテスラの現場を支える重要人物とみてもよかろう。

 

先ず第1に、最高技術責任者(CTOChief Technical (or Technology) Officerand Co-Founder)のJB Straubelジェービー・ストローベル氏だ。彼は車両開発はもとより、新工場の建設・稼働などにも責任を有しているようで、多忙な日々を送っている筈だ。もともと環境にやさしいとされるEVを作るベンチャー企業を立ち上げようとしたのは、彼であった。そのため投資を得ようと投資家の間を駆け回ったが、資金援助は受けられなかったが、イーロン・マスクと出会ってからは局面は一変する。イーロン・マスクが個人資産を投じてくれたからである。

 

第2に、生産部門を担当する副社長でもあるGilbert Passinギルバート・パサン氏である。トヨタ自動車はじめ数社で生産技術部門を担当したと言う。NUMMIをテスラのEV用に大改造したのも彼であった。

 

第3に、Battery Technology DirectorバッテリーテクノロジーディレクターKurt Keltyカート・ケルティ氏である。彼は1991年から2006年の15年間松下電産・現パナソニックに勤務。一貫して電池の開発業務に従事していた。2006年にテスラモーターズに入社し、ギガファクトリーではテスラとパナソニックの諸々の橋渡し役も務めている。2017.6.21NO.58参照のこと。)

 

ボードメンバーとしては、他にも重要人物は居るかもしれないが、ことEVに関しての現場部門の重要人物はこの3人とみて差し支えないものと、小生は考えている。

 

一寸古いが次の論考にはJB StraubelGilbert Passinが登場している。

 

 

テスラ・モーターズ モデルS インタビュー:「モデルS」の立ち上げに奮闘、エンジニアが支えるEVベンチャーの屋台骨 (1/3)

201208101232分 更新 [川端由美,IT MONOist]

電気自動車(EVベンチャーとして知られるTesla Motors(テスラ)。セダンタイプのEVModel S(モデルS)」の量産開始により、EVベンチャーから自動車メーカーへの転身を果たそうとしている。モデルSの開発と量産立ち上げに奮闘した、同社CTOのジェービー・ストローベル氏と、生産部門担当副社長のギバート・パサン氏に話を聞いた。


 若きITエンジニアとして成功したElon Muskイーロン・マスク)氏が立ち上げた電気自動車(EVベンチャーとして知られるTesla Motors(以下、テスラ)。2人乗りのEVスポーツカー「Roadsterロードスター)」を引っ提げてエコカー市場に殴り込みをかけ、最近ではトヨタ自動車パナソニックから多額の投資を受けている。そんな華々しい話題に事欠かない企業だが、実はこの会社を支えているのは堅実なエンジニアたちなのだ。

関連リンク:

テスラのEV「モデルS」の換算燃費は「リーフ」の1割減、電池容量は3.5倍の85kWh

最強のスポーツカーを作るには、テスラの技術責任者に聞く

 



 多くの読者がご存じの通り、テスラが語られるときに、CEO最高経営責任者)のマスク氏以外の人物にスポットが当たることは少ない。彼のインタビューはすでに名語録が編さんできるほど公開されているが、テスラの屋台骨を支えるエンジニアたちのことは、日本ではそれほど知られていない。実際彼らは、マスク氏が掲げる斬新なコンセプトを形にすべく、日々時間を惜しんで技術開発に取り組んでいる。だから、メディアに顔を出す機会に乏しいのは当然だ。

テスラのジェービー・ストローベル氏
テスラのジェービー・ストローベル氏(クリックで拡大) 出典:Tesla Motors

 そうした意味では、セダンタイプのEVModel S(モデルS)」の発売に当たって、20126月下旬にサンフランシスコ郊外にある新工場で開催されたイベントにテスラの開発陣が集合したのは大きなニュースだ(関連記事)。晴れやかな顔で念願の市販車の工場出荷に立ち会っていた、CTO(最高技術責任者)のJB Straubel(ジェービー・ストローベル)氏に、「一段落ついてホッとしたのではないか」と水を向けると、エンジニアらしい真摯(しんし)な答えが返ってきた。

「開発だけを担当しているわけではありません。CTOとして新工場を軌道に載せて、モデルSを完璧にするために注力しています。もちろん、次世代EVの『Model X(モデルX)』の開発も始めています」(ストローベル氏)

 2003年の創業以来、華やかな話題を提供してきたテスラだが、量産車を安定的に出荷する自動車メーカーとしては捉えられていなかった。創業から数年間は何の製品も量産していなかったし、最初の市販車である「ロードスター」を発売した後も、顧客の手元に送り届けられるまで約1年の時間を要した。ハリウッドスターたちが購入したことで大きな話題を提供したが、トータルでの生産台数が2000台を越える程度では「量産車」とは言いがたい。

 

テスラの「モデルS」
テスラの「モデルS」(クリックで拡大) 出典:Tesla Motors

 

 だからこそ、モデルSの量産が始まったことは、長年テスラの技術部門を統括してきたストローベル氏にとって大きな喜びに違いない。同時に、2012年末までに5000台、2013年以降は年間2万台を生産する予定のモデルSの生産開始は、同社にとってEVベンチャーから自動車メーカーに飛躍できるか否か重要な鍵を握っている。技術部門のトップとして、生産が始まった段階ではまだまだ気が抜けないのも当然だ。

「私たちが生産するのは、エコカーではなく、プレミアムカーです。モデルSは、大きなトルクを後輪に伝えて走行し、素晴らしいパフォーマンスを発揮します。常にベストな技術を探してきた結果として、モデルSという形で世に送り出されたということです。だからこそ、走行性能の点でも一切の妥協はしませんでした。416ps(仏馬力)/600Nmの大出力(パフォーマンス・キット装着車)を発揮する誘導モーターと高性能のインバータを組み合わせたパワートレインは、ハイパフォーマンスを生み出します。リチウムイオン電池モジュールを堅牢なアルミ製シャシーの中に配置し、低重心にすることで走行性能を高めました」(ストローベル氏)


(続く)