尖閣諸島問題その2(97)

 政治局委員は以下の通り。

李源潮国家副主席予定、中央港澳工作協調小組組長、団派・胡錦濤派)

孟建柱(中央政法委員会書記、上海閥

趙楽際(中央組織部部長、胡錦濤派?)

劉奇葆(中央宣伝部部長、団派・胡錦濤派)

李建国(全人代常務委委員会副委員長予定)

栗戦書(中央弁公庁主任、団派・習近平

劉延東副首相予定、農業、林業、水利等担当予定、太子党・団派・胡錦濤派)

汪洋(
副首相予定、工業、通信、エネルギー、交通等担当、団派・胡錦濤派)

馬凱(副首相予定、金融、商貿担当、団派・胡錦濤派)

王滬寧(国務委員予定、科学教育文化衛生等担当、団派)

郭金竜(北京市委書記、団派・胡錦濤派)

韓正(上海市委書記、上海閥

孫春蘭(天津市委書記、胡錦濤派)

孫政才
重慶市委書記、胡錦濤派?)

胡春華
広東省委書記、団派・胡錦濤派)

張春賢(新疆自治区党委書記、団派・胡錦濤派)

范長龍
(中央軍事委員会副主席、比較的胡錦濤派?)

許其亮
(中央軍事委員会副主席、胡錦濤派)

 参考までに軍の中枢を担う中央軍事委員会のメンバーも挙げておこう。

主席:習近平

副主席:范長龍、許其亮
胡錦濤派 )

委員:

常万全(国防相予定、江沢民派)

房峰輝
総参謀部長胡錦濤派)

張陽
総政治部主任胡錦濤派)

趙克石(総後勤部部長、習近平派)

張又侠(総装備部長、習近平派)

呉勝利(海軍司令、江沢民習近平派)

馬暁天(空軍司令、胡錦濤派)

魏鳳和(戦略ミサイル部隊司令胡錦濤派)


 団派とは、共産主義青年団共産党若手エリート育成機関)出身グループで、一般に

錦濤派
が多く、開明派が多いとされるが、必ずしも胡錦濤派に属するとは限らない。太子

とはいわゆる二世議員グループで保守的、一般に江沢民習近平寄りのグループと

されるが、これも絶対という色分けではない。上海閥江沢民を中心としたグループで

太子党とかぶる部分もあるがこれもイコールではない。

 この人事結果から、一般的な日本メディアの解説では、政治局常務委のメンバーは、保

守的な上海閥江沢民派)が多く、これは胡錦濤氏が権力闘争に惨敗した結果である、と

みられている。特に胡錦濤派の李源潮氏、若手ホープの汪洋氏という改革派開明派の政

治家が2人とも常務委入りを逃したのは、胡錦濤氏の力が及ばなかったため、と見ている。

 ただ、政治局の人事までを視野にいれると、団派・胡錦濤派が躍進しており、軍事委

の人事
に至っては胡錦濤派が過半数を占め、しかも副主席2人と、四大総部のうち実権

派の総参謀部、総政治部トップがともに胡錦濤派。全体から見ればさほど惨敗人事とは

言えないだろう



長老政治・院政の終焉?


 今回の党大会の最大の注目点は、胡錦濤氏の完全引退、つまり総書記と軍事委主

のポストを同時に引退したことだと言われている。軍事委主席は鄧小平体制において

最高の権力ポストであり、鄧小平氏は中央委員を引退したのちもこのポストに2年とどまり

事実上の最高実力者の地位を維持した。江沢民総書記を引退した際、鄧小平の例

に倣い、軍事委主席に2年留任し、江沢民VS胡錦濤の権力闘争の構図が続くことになっ

た。

 当初、胡錦濤氏もこの軍事委主席に留任すると見られていたが、
本人の希望で引退

した。この引退理由については諸説あるが、1つには胡錦濤氏の健康上の理由がある。

糖尿病、腎臓疾患がかなり悪化しており、留任しても半年、1年程度が限度であると見られ

ていた。その程度しか留任できないのであれば、潔く引退し、習近平氏に恩を着せ、バータ

ーで軍事委人事を有利に進めた方が影響力を維持できるという判断があったと言われて

いる。

 もう1つは、依然強い江沢民影響力を排除するため、自分も完全引退する代わり

江沢民氏も政治から完全に手を退くことを了承させた、というもの。その背景には胡錦濤

習近平両氏の同盟的な連携
があったという見立てもある。このことから、今回の党大会

の成果として、長老政治・院政の終焉をあげる人もいる。

 さて陳破空氏の分析を聞いてみよう。「まず、政治局常務委の人事は、江沢民氏の権力

闘争の勝利の結果だ」という。「胡錦濤氏の完全引退で長老政治は終焉したが、今回の政

治局常務委人事は長老政治の産物。習近平李克強体制は実は改革志向だが、他の高

齢の5人は保守派であり、習・李の改革志向を監視する役割を果たしている」

 このため、習政権は少なくとも最初の5年、政治改革はあり得ない。よって、格差や民族

問題など中国が直面している矛盾は緩和される望みは全くない。政治局には汪洋氏ら改

革派が控えており5年後の2期目に、改革派が政治局常務委に上がってくれば望みがなく

もないが、習氏は健康状態がかんばしくないので、そこまでの気力があるかが問題だ、と

いう。

 宣伝・思想統制担当の劉雲山が常務委入りしたことで言論・報道・ネット統制は依然

暗黒時代が続く。官僚腐敗取り締まりも、紀律検査委書記が「八方美人」的性格の
王岐山

では期待できない。ちなみに王氏は本来金融・経済分野を得意とするが、経済担当の

副首相に任命すると、首相となる李克強氏との不協和音が予想されるのではずされた。

 陳氏は、経済路線については鄧小平路線継続とみている。習氏の父・習仲勲氏が深圳

経済特区を作るなど、改革開放路線の主要な担い手であることからの推測だろう。

 陳氏によれば、習氏は対日強硬のイメージがあるが必ずしも根っからはそうではないら

しい。対日強硬姿勢は、いわゆる権力闘争の中で軍部と世論を味方につけるためにエス

カレートしていくものであり、とりあえず党大会が終わり、権力闘争はしばし小休止に入る

ので、反日温度も降下していくはず、と見る。


党中央の分裂をまず避けた


 さて、私の見解(勝手な妄想を含む)も示しておこう。

 まず、今回の人事については、江沢民氏の勝利、というより胡錦濤氏、習近平氏、江沢

民氏ら長老たちの妥協の産物であり、「目立つ人材を指導部に入れない」という点で妥協

が成立したのではないか。

 政治局常務委は上海閥が多いとはいえ、張徳江氏、張高麗氏は胡錦濤氏と関係が悪い

わけではない。王岐山氏も八方美人。習近平氏自身が、父親の文化大革命時代の失脚

の苦労を目の当たりにし、権力闘争の怖さを身にしみているだけに、目立つことを避け、

周囲との調和を重んじるタイプだと言われている。李克強氏も強い主張をするタイプでは

ない。

 薄煕来事件によって、野心のある、あるいは主義主張があり大衆を動員する可能性のあ

るような政治家を恐れた結果、汪洋氏や実務能力が高いと評価されていた李源潮氏が常

務委入りを逃したのではないか。李源潮氏は天安門事件当時の中央批判発言が長老の

李鵬氏から問題視されたと伝わっている。中国共産党体制の足元が揺らいでいる中、イデ

オロギーや路線対立で党中央が分裂することをまず避けた。政治局常務委を9人から7人

に減らしたのも、人数が少ない方が意見の対立も少ないから。中央政法委員会書記

常務委から外し降格したのは、周永康・前中央政法委書記の権力の肥大化を目の当た

りにし恐れたから、ではないか。

 次に「長老政治の終焉」というのも疑問が残る。常務委に江沢民氏の声を代弁する人

間が多く残り、軍事委にも胡錦濤氏の影響力を伝える勢力が多く残っている。習近平氏が

年寄り連中の言うことに耳を貸さずに独断で物事を進めることができるだろうか。長老政治

というのは中国共産党体制の権力闘争の本質の部分でもある。香港紙の蘋果日報は「

衆が選挙権を得るようになって初めて長老政治が終焉する
」と指摘している。

 経済失速、格差拡大、官僚腐敗、インフレ、民族問題といった国内矛盾共産党

求心力低下といった問題に直面する中でまず、意見対立を避け、党中央の団結を図った

人事と言える。習近平政権は、胡錦濤時代以上に年寄り連中の意見を聞きながら、右に

よったり左によったりバランスをとり、のろのろ安全運転をして、前途に現れる障害物を避

けていくしかない。

 しかし、それでは問題の根本的解決にはならない。いずれ事故を起こすか、袋小路に迷

い込むか。そうして厳しい批判にさらされる習政権を見て、次の党大会に向けた改革派を

含む政治暗闘は予想より早く始まるかもしれない。その時、習近平氏が軍部の人気とりや

世論誘導に反日」や「尖閣を再び利用するかもしれない。こういう予想は外れてくれるこ

とを祈るが、日本はいろんな予測をもって心の準備をしていた方がいいに違いない。


福島 香織(ふくしま・かおり)

ジャーナリスト

 大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に

香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞

を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。著書に『潜入ルポ 中国

の女―エイズ売春婦から大富豪まで』(文藝春秋)、『中国のマスゴミ―ジャーナリズムの

挫折と目覚め』(扶桑社新書)、『危ない中国 点撃!』(産経新聞出版刊)、『中国のマスゴ

ミ』(扶桑社新書)など。

中国新聞趣聞~チャイナ・ゴシップス

 新聞とは新しい話、ニュース。趣聞とは、中国語で興味深い話、噂話といった意味。

 中国において公式の新聞メディアが流す情報は「新聞」だが、中国の公式メディアとは宣

伝機関であり、その第一の目的は党の宣伝だ。当局の都合の良いように編集されたり、美

化されていたりしていることもある。そこで人々は口コミ情報、つまり知人から聞いた興味

深い「趣聞」も重視する。

 特に北京のように古く歴史ある政治の街においては、その知人がしばしば中南海に出入

りできるほどの人物であったり、軍関係者であったり、ということもあるので、根も葉もない

話ばかりではない。時に公式メディアの流す新聞よりも早く正確であることも。特に昨今は

インターネットのおかげでこの趣聞の伝播力はばかにできなくなった。新聞趣聞の両面か

ら中国の事象を読み解いてゆくニュースコラム。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20121119/239573/?mlt
(続く)