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ならず者国家・中国、アレコレ!(65)

次の福島香織氏の論考によれば、習近平政府は、相当巧妙に拉致・誘拐作戦を実行していったようだ。

 

 

香港銅鑼湾書店「失踪事件」の暗澹
香港の一国二制度を見殺しにするな

2016113日(水)福島 香織

 

 年明け早々の私にとって一番衝撃的なニュースは銅鑼湾書店の関係者が次々と失踪したことだ。香港の出版界にひしひしと圧力が迫っていることは承知していたが、まさか香港内に住んでいる人間、しかも外国パスポートを持っている人間が突然消えるほど、香港が物騒なことになっているとは。

 銅鑼湾書店関係者の失踪は5。まず昨年1017に店筆頭株主桂民海の行方が分からなくなり1024に同書店の創始人で店長の林栄基が消え、1026に株主の呂波、書店経理の張志平、そして最後に1230に店主の李波がいなくなった。いったい何が起きたのか。私にとっても大事な書店であり、関係者の無事と書店の存続を切に願うものとして、今わかる情報を整理しておきたい。

禁書、絶版本が充実した「二楼書店」

 銅鑼湾書店とは、香港の書店文化の一つである「二階書店(二楼書店)」(個人がテナント料の安い雑居ビルの二階の一室で開く趣味に走った書店)の代表的な店の一つで、1994に開業した。いわゆる中国政府や共産党の権力闘争の内幕を“関係者が匿名で暴露した”というスタイルの怪しげな“禁書”を専門に売るということで有名なようだが、実は絶版で手に入りにくい文学書や台湾関係史、中国近代史本も充実している。

 銅鑼湾地下鉄駅D4口から出てすぐ、駱克道に面する雑居ビルの急な階段を上がったわずか30平米の小さな店だが、天井まで続く本棚にぎっしりと貴重な本が並び、真剣に発掘すれば何時間あってもたりない。台湾書籍の卸売業に従事していた林栄基20香港ドルの自前資金で開いた書店で、当初の品揃えは完全に林栄基の趣味に走ったものだった。

 私が香港駐在であった2001年ごろはまだ、本に立ち読み防止のビニールがかかっていなかったので、立ち読みの大陸からの客でいつも狭い店内がいっぱいであった記憶がある。2014年、テナント料の高騰にともない経営難に陥った同書店は、スウェーデンを持つ実業家・桂民海が投資して創った巨流伝媒集団に身売りされ、林栄基は雇われ店長となっていた。だが、それでも店に行けば、たいてい林栄基が相手してくれた。

 私がこの書店に最後に立ち寄ったのは20155月、林栄基はいつもの店長席におり、私は彼に最近の売れ筋の本や、数あるゴシップ本の中で読む価値がある本の指南をうけながら、十数冊の本を買った。「そんなに買うなら、電話一本くれれば郵送してやるよ。日本には郵送で本を買う顧客がたくさんいる」というのが、林栄基と交わした最後の会話である。その後、彼を含む書店関係者ら次々と姿を消した。彼から勧められた選りすぐりのゴシップ本をもとに書いたのが拙著『権力闘争がわかれば中国がわかる』(さくら舎)である。

 彼らはなぜ突如、行方が分からなくなったのか。ほとんどの人が、中国当局拉致監禁していると信じて疑わない。私もそう思っている。

 まず、銅羅湾書店には中国が不愉快になる本がたくさん売っていた。権力闘争の背景から党中央政治家の下半身スキャンダルの暴露本、文化大革命天安門事件の詳細な記録、そして雨傘革命の記録。さらに、これは噂でしかないのだが、桂民海には共産党の“双規”に対する批判本を出す計画があって、それが中国共産党にとっては非常に警戒されたため、今回の銅鑼湾書店弾圧が起きたのではないか、と言われている。

「双規批判」「下半身醜聞」に激怒か

 双規は、共産党中央規律委員会による党員の取り調べ制度、司法制度外の党規に基づく制度で、逮捕状も拘留期限も決められておらず、拷問による死者まで出す前近代的制度と知識人の間で非難されている。人権派弁護士・浦志強が微博などのつぶやきをもって「民族の仇恨を扇動した罪」というわけの分からない容疑で逮捕、起訴され執行猶予付き判決が出たことは記憶に新しいが、浦志強が本当に冤罪逮捕された原因は、彼が双規の違憲を世論に問おうとしたことではないか、と見られている。

 というのも、習近平政権の反腐敗キャンペーンは、もっぱら司法ではなく「双規に基づいて行われている習近平の汚職退治は司法手続きにのっとった正当なものではない。そのことを真っ向から批判されては、習近平政権が語る「憲政主義」がいかに胡乱なものか大衆の目にも明白になってしまう。

 もう一つの噂は、習近平下半身スキャンダル本の出版が計画されており、これに習近平が本気で怒ったという話だ。確かに習近平の香港出版界弾圧事件として一番最初に知られるようになったのは、亡命華人作家・余傑が書いた「中国教父習近平(中国のゴッドファーザー習近平)」の出版人となった姚文田201310に深圳に出張にいった際に、密輸容疑などで逮捕され、翌年5月に懲役10年という異例の重い判決を受けた例である。以降、習近平のスキャンダル本は何にもまして敏感なテーマの一つとなった。

 なぜ今、というタイミングだが、2016年が文化大革命開始から50年、終了から40という節目と関係がある気がしてならない。もともと香港の「二楼書店」文化は、文化大革命で多くの書籍が禁書焚書となったとき、そういった書籍を秘密裡に香港に持ち出した本の虫たちが開いたところから始まっている。政治動乱を生き延びた貴重な書籍・文字資料たちが、ひっそりと売られている店でもあった。

 文革終了40周年目にして、文革をルーツとする香港二楼書店文化をこの際、徹底的に叩き潰すというのが中国側の意図かもしれない。今の習近平政権のイデオロギー統制文革の再来ともささやかれる激しさで、文革再評価本にもかなり、神経をとがらせていると聞いている。文革批判習近平批判につながる可能性を言う人もいた。かつて首相だった温家宝が、薄熙来の「打黒唱紅」キャンペーンを暗に「文革の残滓」と批判したことがあるが、薄熙来以上の毛沢東イデオロギー統制ぶりに、習近平こそが「文革の残滓」とする声も出てくる中、文革再評価論も敏感なテーマとなっていた。

 こうしたタイミングで、香港“内幕暴露本”出版関係者に弾圧をかけることは、香港出版界を牽制するだけでなく、香港出版界にネタを提供してきた党中央内部の改革派知識人や官僚たちを震え上がらせる効果も狙っていることはいうまでもないだろう。

(続く)