マツダはゆっくりEV化を進めます
F:パナソニックなどはかなり突っ込んでいると聞きますが。
マイトのY:でも、まだ「日本という国がサポートする」体制にはなっていないですよ。
藤:全固体だ半固体だと方式も明確には決まっていない。電池の方式が変われば、当然製造設備も全部変わってくる。バッテリーひとつとっても、使われる技術が「これだ」と確定していないんです。だから我々自動車メーカーとしても、本気で行っていいのかどうかが分からない。そうなると当然利益も出しにくい。「投資するのが怖い」、というのが正直なところです。だから日本の自動車メーカーは、世界的に見ればEVの開発がちょっとゆっくりしたペースなんです。
F:日本の自動車メーカーはゆっくりしたペース。その中でマツダはどうでしょう。
藤:マツダも同じくゆっくりです(笑)。
F:ゆっくりというか、そもそもEVは本格的にはやらないんですか? 内燃機関に特化してニッチを探って生きていくとか。
藤:いや、EV化は進めますよ。既に発表している通り、2020年に発売する予定です。
マイトのY:バッテリーだけで走るEVと、発電用のエンジンを積んだレンジエクステンダーの両方を出すと。
F:クルマは何でやるのですか。専用車を作るのですか?
藤:さっきから広報本部長がチラチラ見ていますね。私がポロッと言うのを警戒してのことでしょうね(笑)。
藤原さんの言う通り、先程から小島広報本部長が緊張した面持ちで私と藤原大明神に対し交互に視線を送っている。お役目ご苦労さまです。
F:大きいクルマですか? それともデミオクラスの小さなクルマ?
藤:いやいや、それも言えないです。
F:考えてみれば、エンジンのないクルマを作るのだから、従来型のデミオなんかを流用する筈がありませんよね。やはり新型で専用車を起こすことになる。
藤:まあ、そうは言っても、専用のものを起こすのは難しいですよ。無論EV専用のプラットフォームを作るのがベストなんだけれども、台数がそんなに出るとも思えない。だから専用車なんてそう簡単に作れないです。これはたぶん日本の他のメーカーも同じ悩みだと思います。
F:となると、既存車の何かを流用するしかない。
藤:そう。何かを流用するしかない。でも流用して造っちゃうと、テスラに勝てなくなる。テスラって完全にEV専用で造っているでしょう。そういう意味ではジレンマなんです。「EVはいつ頃に台数がブワっと出るのか」をみんなが探っている。出るときにはやはり専用のプラットフォームで勝ちたいわけで。
F:テスラは成功していると思っていらっしゃいますか。
藤:思っています。
F:高額であるのに結構な数が売れているからそう思うのですか。
藤:そうではなく、EVの技術としても素晴らしいから。
CセグのEVは難しい!
F:藤原さんがテスラを評価するとは驚きです。ボロクソ言うのかと思っていました。では日産リーフはどうでしょう。日本のメーカーとして、かなり健闘しています。
藤:うーん、どうかな。あのサイズ。Cセグ(Cセグメント)はEVで勝負するには一番難しいところなんですよ。
F:リーフが属するCセグは台数が一番多いゾーンなので、EVとしてボリュームを狙えると思うのですが、難しいですか。
藤:難しい。だってCセグって、何でもアリのマルチパーパスじゃないといけないじゃないですか。遠くにも移動しなくちゃいけないし、近所のお買い物も行かなきゃいけない。旅行にも行けなきゃいけない。家族も乗せないといけない。「なんでもかんでもこの一台で賄おう」というサイズのクルマです。文字通りの家族用マルチパーパス。すべてにおいて要求が高いんです。
でもテスラのモデルSだったら、ビューっと行ってビューっと帰って来れればそれでOKでしょう。何しろ「一家に3台」のうちの1台のクルマなんだから。
F:なるほど。しかもそれで1000万オーバー。
藤:そう。それで1000万。そして1000万円のクルマを買う人は文句を言わない。だからテスラは極端なクルマで良いんです。
F:反対に200万、300万円台のクルマを買う人はアレコレ文句を言う(笑)。
藤:そうです。本当にそう。ど真ん中のクルマを買う人は、一番要求が多い人たちです。なぜなら、用途が一番広いから求めるものも幅広いのです。だから私はプリウスって本当にすごいクルマだと思う。あのスーパーど真ん中のセグメントで、みんながワッと買ったのですから。
F:確かに。プリウスは長らく「日本一売れているクルマ」の地位にありましたものね。
藤:そう。なのでみんなそこに入りたがるんですよ。やっぱり一番ボリュームが大きいので。うまくいけば全世界をたったひとつのモデルですべて対応できてしまう。
F:一方で、べらぼうに要求が高い。それにすべて応えられるのかと。
藤:うん。そういうことだと思うんです。だからたぶん大型のトラックとか、テスラのモデルSのようなクルマとか、デカいピックアップトラックとか、逆にうんと小さいクルマとか、そうした極端なクルマのほうがEVはやりやすいんです。割り切って作れるから。
F:そう言えばテスラは今度トラックも出しますね。
藤:あれも正しい解のひとつです。イーロン・マスク、頭いいんです。
F:その前に、遂に廉価版のテスラも出しますね。だいぶ難産のご様子ですが。
専業メーカーゆえの強み
藤:モデル3ですね。あれはどうなのかなと思っています。それこそ一番の激戦区。一番難しいところに入ってしまったので。発表した当初から比べると、だんだん値段が上がって行って、3万ドルちょっとと言っていたのが、昨年末には4万6000ドルになりました。あれはものすごく苦しいんだと思いますよ。業界では3万8000ドルぐらいの製造コストが掛かっているだろうと言われています。
F:ひょえー。
藤:そういう意味では、一番苦しいところに彼らも入って行ってしまいました。でも一方でスポーツカーもやると言っているし、セミトラックをやるとも言っている。EVとしてはそれが正しい。それが今の時代のEVに合うクルマです。日本の会社はなかなかそこへ踏み込めない状態でいるんですよ。
F:どうして踏み込めないのでしょう。
藤:答えは単純明快です。それだけの台数を確実に売れるプラットフォームを造って、それを回収できるだけの台数が出るとは思っていないからです。テスラは他に背負っているものが何もない。あれを造ってしまえばそれしかない。身軽なものです。アメリカの工場だってトヨタから居抜きで買ったわけでしょう。NUMMI(ヌーミ)を。初めからEV専用という強みがあったんです。なおかつEVとしての技術も実は結構高かった。
F:うーむ。
意外や意外。藤原さんはテスラのことを非常に高く評価していらっしゃる。
そしてプリウスも。
3連休にガッと書き溜めて、今週は記事を連発しようと思っていたのですが、ヨタで書いた通り遊び呆けて書くことができませんでした。この週末はスキーだしなぁ……。週2掲載は実現できそうにありません。とまれ、「はいはい、もう勝手にしてください」とマイトのY氏からはご快諾をいただいたので、大明神降臨祭はまだまだ続きます。ご期待ください!
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00105/00009/?P=5&mds
まあEV,EVと言ってはいるが、まだまだたくさんの難関が待ち受けているようだ。
VWもまたマツダ以上に困っている。そうは言っても、問屋が簡単には卸してくれないのだ。
(続く)