世の中、何だこれ!(WBC敗退、49)

WBCは真の世界一決定戦なのか

 1つは大会形式です。過去2大会を連覇している日本、最後の五輪王者である韓国、そし

て強豪キューバの3チームと戦わずして、アメリカは準決勝まで勝ち上がれます。国際大会

としての公平性を確保するならば、FIFAのランキングのように各国の過去の実績から組み

分けし、シード権をきちんとしたルールの下でつくるなどの工夫が必要だと感じています。

 また今大会、日本代表にMLB所属選手がことごとく参加を辞退したことにも象徴されるよ

うに、選手選考面でそれぞれの国が最強の代表チームを組めているのかという問題があり

ます。NPB日本野球機構)12球団は日本代表に全面協力の体制ですが、MLBに目を移

すと必ずしもWBCへの選手派遣に協力的なわけではありません。アメリカ代表だけでなく、

プエルトリコベネズエラ、日本、韓国といった多くの国の代表候補選手を抱えるMLBでは

各国代表に選手を出すとシーズン前の大切な調整時期にチームの主力がごっそり抜けて

しまう可能性もあるからです。ブリュワーズ、ツインズのように13人もの選手を拠出している

チームがある一方、メッツのように主力のジョアン・サンタナ投手がベネゼエラ代表に召集

された際、万一のケガの際には莫大な保証金を条件に選手派遣を認めるという対応をする

チームもあります(結果、サンタナ投手の召集は見送り)。

 サッカーの場合にはFIFAワールドカップの本大会、および地区予選などのほか、各国A

代表が親善試合を開催できる国際Aマッチデイをあらかじめ設定し、所定の手続きをすれ

ば各国協会は各所属クラブから選手を確実に召集できる制度になっているのとは対照的

です。また各国代表選手の出場条件を見ても、たとえ国籍がなくとも出生国であったり両親

いずれかが国籍を所有していれば代表選手になれる、さらにはその条件を基に大会ごとに

代表国を変えることも可能など、代表選手そのものの定義すらWBCは曖昧です。

 国際大会としては未成熟、未整備の部分が多いWBCですが、MLBのビジネス戦略とし

ては着々とグローバルマーケットを開拓しています。収益の大きな柱である放映権ビジネス

を見ると、北米地域ではMLBが自前で保有する野球専門チャンネル「MLBネットワーク」が

アメリカ国内で独占中継を行い、カナダではブルージェイズのオーナー企業であるロジャ

ース・コミュニケーションズに権利を売却。そのほか海外市場では、WBCに関心の高い日

本の権利は読売新聞グループに売却し、読売グループが国内放送局にサブライセンスす

る形になっています。さらにそれ以外の国の放映権についてはスポーツマーケティング代

理店のMP&Silvaに一括で放映権販売を委託しています。自国については自前で押さえ、

もっとも関心の高い日本市場は直接契約、その他については代理店を利用という形です。

 またサッカーワールドカップやオリンピックなどの場合、各国独自のスポンサー集めが行

われていますが、WBCでは各国独自のスポンサー権やグッズ販売権などをWBCIが管理

する仕組みになっています。

 たとえば各国代表ユニフォームはMLBのオフィシャルサプライヤーとして全MLBチームの

ユニフォームを手がけるマジェスティック・アスレチック社が出場16カ国中14カ国(日本代

表、韓国代表のみが他社製品)に提供しており、WBCに関わる収益のほとんどがMLB

集約
される構造になっています。


NPB独自の代表ビジネスを構築できるか


 昨年、日本プロ野球選手会が出場辞退を表明したのは、こうした国際大会を名乗りながらも

収益構造に著しい不平等があることへの問題提起が大きな要因でした。選手会の主張受

けてNPBMLBと交渉。侍ジャパンを常設化するなどして、日本代表独自のスポンサー

権、グッズ開発・販売権
などがNPBに帰属する権利であることを確認し、選手会も「求めて

いた日本代表のライツが確立できた」として不参加を撤回し3連覇を目指す体制が整いま

した。

 しかし、事はそれで解決というわけではありません。NPBが交渉の上、「日本代表の権

利」を獲得したと報じられていますが、実はWBCの収益構造上はほぼ変化がありません

報道によれば第3回大会の日本ラウンド分の興行権やスポンサー権などは読売新聞社

買い取ることで主催者側と合意。NPBが確認した日本代表の権利については、スポンサー

企業がNPBにスポンサー料を支払う形になりますが、日本ラウンドの大会主催者である

売新聞は同額をWBCIに支払います
。つまり日本代表の権利はMLBから直接勝ち取った

ものではなく、日本国内権利者の譲歩を引き出したに過ぎず、大きな構図はまったく変わっ

ていない
のが実状なのです。

 こうした状況を総合的に考えると、WBCは現在唯一の国際大会であるのは間違いないと

しても、真の世界一決定戦というより、むしろMLBのグローバルビジネスであると見る方が

より現状認識としては正しいのではないでしょうか。このMLBの流れにのみ込まれるか、そ

れともそれに対して発言権を保ち野球大国として一定の力を誇示するか。この点において

はむしろWBC後のNPBの戦略が重要だといえるのかもしれません。

 選手会の出場辞退などの一連の動きを受け、NPBは日本代表を常設化し「侍ジャパン

に特化した事業部門を立ち上げます。これまで大会ごとに募ってきたスポンサーなども、常

設化した日本代表を恒常的にサポートしてくれる存在としてWBCスポンサーとの線引きを

明確
にします。加えて独自の国際試合なども開催するとしています。飲料メーカーのキリン

グループがサッカー日本代表のオフィシャルスポンサーとなり、「キリンチャレンジカップ」な

どの国際試合を開催するのと同じ構図を目指す形です。しかしワールドカップ、アジアカッ

プ、オリンピックといった具体的な目標に向けた強化として行われるサッカーの国際試合

と、オリンピック種目からも外れてしまっている野球が同じようなモチベーションで国際試合

を開催できるか、対戦相手の選定を含めて難しい要素はいくつも残されています。


WBCに対抗する新たな国際大会の開催地として名乗り


 そうした中、注目したいのがIBAF2015年開催に向けて計画を進める「プレミア12」とい

う新たな国際野球大会です。IBAFWBCを世界選手権として公認する一方、これまでア

マ主体で開催してきたワールドカップを廃止。その代わりに世界トップ12カ国のプロ選手を

主体とした大会をWBCの中間年に開催する事を決定しました。

 これを受けてNPBは昨年9月のプロ野球実行委員会で第1回大会の開催地として立候補

をすることを確認しました。「プレミア12」の開催地は今年4月のIBAFの総会で決定する予

定ですが、複数の国内野球関係者によると日本開催がかなり有力との情報です。

 いたずらに対立を煽るつもりはありませんが、IBAF主催の国際大会として、WBCに見ら

れる大会形式、ビジネス状の歪みを明確にし、正しい方向に導く1つのきっかけにこの大

会がなることを期待しています。ただ、漏れ伝わるところではアメリカ代表はかつてのオリン

ピック代表のようなマイナー軍団になるであろうなど、プレミア12に大きな協力はしないとい

う話がありますが。

 WBCや新たな国際大会であるプレミア12など、野球の国際化戦略はまだまだ未成熟で

す。逆にこの未成熟な時期だからこそMLBの独走に伍することができる状況ともいえます。

おそらくこの時期を逃すとWBCの世界選手権としての価値はさらに高まり、MLB主導の野

球の国際化が既定路線となる可能性が大きいと予測されます。

 前回大会決勝の地上波の視聴率は30%を超え、ワンセグ放送視聴者を含むと日本では

相当な数の国民がWBCに熱狂しました。一方、アメリカでは自国代表チームのゲームです

ら視聴率は1~2%台です。日本の地上波と多チャンネルのアメリカとを単純比較できませ

んが、注目度、熱狂度でアメリカは日本には遠く及びません。日本代表関連へのスポンサ

ー企業などWBCの成功はジャパンマネーが支えてきたという指摘もあります。野球の国

際化戦略の中で
発言力増大を目指すのは当然の理屈です。

 日本代表「侍ジャパン」の常設化、プレミア12などの大会運営を踏まえてWBC自体の改革

にもNPBに取り組んでほしいと思います。多くの野球関係者に聞くと「さすがにそれは難し

い」という声が多いのですが、将来的にはWBC決勝ラウンドの日本開催なども視野に入れ

るべきではないでしょうか。


並木 裕太(なみき・ゆうた)

株式会社フィールドマネージメント代表取締役。1977年生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業、ペンシルバニア大学ウォートン校でMBAを取得。2000年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社後、最年少で役員に就任。マッキンゼーのアジア太平洋地区航空グループのリーダーや、マッキンゼー・スクール・オブ・リーダーシップの校長などを歴任した。2009年株式会社フィールドマネージメントを設立。ソニー全日空楽天といった日本を代表する企業の経営者の側で、成長を実現し、変革を実行している。フィールドマネージメントメンバーの経営のリアリティを学ぶ場としてベンチャー事業を数社立ち上げ、共に経営に参画している。プロ野球では、オーナー会議へ参加、パ・リーグのリーグビジネス、東北楽天ゴールデンイーグルス北海道日本ハムファイターズのチームビジネスをキーマンとともにつくり上げている。日本一の社会人野球クラブチーム「東京バンバータ」の球団社長兼GMも務める。近著に『ミッションからはじめよう!』

プロ野球改造論
今から15年前、日本のプロ野球と米メジャーリーグの売り上げ規模はほぼ同じだった。その後、プロ野球の売り上げは頭打ちのままなのに対し、メジャーは規模を拡大して、その差はなんと4倍に広がっている。どこに違いがあったのか。東北楽天ゴールデンイーグルス北海道日本ハムファイターズなどにアドバイスする若き経営コンサルタントが解説する。停滞するプロ野球の改造を考えることは、閉塞感でいっぱいの日本産業再生にも大きなヒントになるはずだ。

Covre
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http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20130307/244669/?mlp&rt=nocnt

 

まあMLBが、もしIBAF主催の国際大会「プレミア12」には「マイナー軍団」で望むと言うの

なら、日本はWBCボイコットしてもよいし、それが出来ないなら「二軍」の選手から選抜し

たチーム編成で参加してもよいではないか。

(続く)