次世代エコカー・本命は?(26)

補助金なしで回す仕組みが必要

水素社会の到来に向けて、政府はどのような役割をするべきですか。

遠山:やはり長期的なヴィジョンを示して欲しいと思います。

 新しい産業を立ち上げるため、当初は政府が補助金を出すことが必要でしょう。例えば、燃料電池車の購入者に対しては、200万~300万円の補助金が支給される見込みです。ただ、いずれ補助金なしで回るような仕組みを作らなければならないはずです。

 現状は燃料電池車も燃料電池も価格が高いことが普及のネックとなっています。これは研究開発費が大きくかさんだためですが、これを解消するためにはたくさん作って量産効果を出すか、研究開発費そのものを減らす努力が必要です。

 各企業でバラバラにやっている技術開発を集約するというのも1つのアイディアではないでしょうか。そのためには国が先に仕様を固めることで、企業の負担を減らせるはずです。

 例えば、水素ステーションであれば大規模型ではなく小規模型の普及を促していく。そうすれば数がたくさん出ることになり、1つ当たりの開発コストは引き下げられる。つまり、利益が出やすいということです。

 また、昨年の規制改革会議での閣議決定を踏まえて、水素ステーションなどの保安規制に関する規制緩和も検討されています。

水素ステーションについては、石油元売りなどエネルギー提供企業の中でも懐疑的な見方もあるようです。

遠山:政府の目標として2015年までに100箇所の設置を目指しています。1箇所の設置に5億円以上が必要と言われており、採算を合わせるためには1日に200が水素を充填することが前提となっています。

 この目標をクリアするためには、タクシーやバスなどフリートユーザーに水素を使って貰うような政策誘導が必須でしょう。例えば、東京や横浜など場所を限定して始めるのです。タクシーやバスは営業するエリアが限定されており、毎日同じようなルートを通ります。定期的に水素燃料を消費するクルマを増やすことで、水素ステーションの採算を引き上げることができます。また、言うまでもないことですが二酸化炭素の排出量も減らせます。

 フリートユーザー向けにはEV電気自動車)も選択肢となりますが、航続距離が短いことや冬場にエアコンが使いにくいという点も考慮すると燃料電池車が優位と言えるでしょう。

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フロントグリルが特徴的なデザインのトヨタ燃料電池車「ミライ」。今年1118には価格や仕様が正式に発表される(写真:北山宏一)

米国でもあった「ハイドロジェン・ハイプ」

水素の有用性はこれまでも何度も注目されてきました。ブームで終わらせないためには何が重要ですか。

遠山:様々な水素関連プロジェクトが2020東京オリンピックパラリンピックを目指して推進されていますが、それで立ち消えになってしまってはダメだと思います。オリンピックは世界的にも注目される最高のショーケースになりますが、水素社会を実現するためにはもっと長期的な視点が必要でしょう。

 2000年代初頭の米国でも「Hydrogen Hype(水素の一時的盛り上がり)」が起きました。2002 年から米国エネルギー省と米自動車ビッグ3GM、フォード、クライスラー)による官民一体の研究開発パートナーシップが華々しく始まりました。当時のブッシュ大統領がこのパートナーシップに対して5年間で17億ドルもの研究資金を投じると発表、国として燃料電池車(FCV)の研究と水素インフラの研究を並行して推進することを表明しました。

 しかし、多額の投資にもかかわらず、現在でも米国でFCVは普及していません。そればかりか、FCVに対する悪いイメージが残ってしまい、その後の政府支援に足かせとなってしまっています。普及を急ぐあまりに実現性を省みない活動を拙速に始めた結果、逆に負の遺産が残ってしまったのです。

キーパーソンに聞く

日経ビジネスのデスクが、話題の人、旬の人にインタビューします。このコラムを開けば毎日1人、新しいキーパーソンに出会えます。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20141022/272917/?n_cid=nbpnbo_mlp

 

ここでは水素社会の可能性として、三つの要素を挙げている。

 

(1)として、日本のエネルギーセキュリティの確保だ。化石燃料だけに頼るのではなく、原発の稼動が覚束ない現在、水素は日本のエネルギー確保の救世主になる可能性を秘めている。原発とともに水素エネルギーを日本の2大エネルギー源とすれば、経済発展・国民の富の成長は間違いない、これは少しも大げさな事ではないのである。

 

(2)として、地球環境にやさしいのではないか、と言う事だ。燃料電池(車)が普及すれば、原発と共に、CO2の排出が削減されて地球温暖化対策となりうるのではないか。

 

(3)としては、そのためには政府の長期ビジョンの設定が必要となることである。幸い現政府としても水素社会への期待は大きいものと思われる。2014.12.10日経新聞に、「水素ステーション規制緩和」に乗り出す、との記事が載っていた。水素社会への動きも徐々に活発となってゆくことであろう。

 

水素スタンドの設置費半減 燃料電池車普及へ規制緩和
セブンイレブン、コンビニ併設20

2014/12/10 2:00  ニュースソース  日本経済新聞 電子版
 

 政府は次世代エコカーの本命とされる燃料電池車の燃料を供給する水素ステーション規制緩和に乗り出す。建築基準や保安規制の緩和で設置コストを半減する。エネルギー各社などの設置計画を後押しし、2015年度中に全国100カ所の整備を目指す。セブン―イレブン・ジャパンが来年度からステーションを併設したコンビニエンスストアを出すなど、企業の動きも広がってきた。

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 ガソリンスタンドに相当する水素ステーションは圧縮器で水素をタンクに詰め、充填機を通じて燃料電池車に供給する。爆発しやすい水素を取り扱う安全規制が足かせとなり、建設予定も含めて首都圏で26カ所、全国で45カ所にとどまっている。高圧ガス保安法建築基準法の関連12省令を1415年度中に見直す。

 タンクにためる水素を増やせるように、水素の圧縮率を高め、現在は燃料電池車7台分しかためられない1カ所当たりの水素の貯蔵量の上限をなくす。より多くの客を受け入れられ、採算がとりやすくなる。圧縮器の保安検査も簡素化する。

 安全を考慮して水素の充填機と公道との距離は現在8メートル以上が原則だが4メートル以上にする案が有力。太陽電池で発電した電力を使い、その場で水から水素を生成して充填する簡易版ステーションの建設も許可する方針だ。

 水素ステーションの建設費は1カ所4億~5億円と欧米の2倍の水準だが、規制緩和20年ごろに半減を目指す。一般のガソリンスタンドの建設費(1億円程度)の2倍程度で済むようにする。

 規制緩和水素ステーション建設を加速させそうだ。セブン―イレブン・ジャパンは岩谷産業と組み、水素ステーション併設したコンビニを出店する。まず15年秋にも東京都と愛知県の2カ所で開業し、17年度までに20店に広げる。エコカーの利用拠点として集客力を高める。

 水素ステーションの設置費用は岩谷産業が負担し、同社が運営する。コンビニは24時間営業し、水素ステーションは平日の日中に営業する。岩谷産業はセブンの持つ不動産情報や店舗開発ノウハウを活用して立地条件の良い土地を効率よく探す。交通量の多い郊外の幹線道路沿いを中心に出店していく予定だ。

 JX日鉱日石エネルギーは15年度末までに全国で40カ所、岩谷産業20カ所の設置を計画しているが、公道から8メートル離すなどの規制を満たす土地を探すことが難しい。「特に都市部で用地選定が難航している」(JXエネ幹部)という。建設条件の緩和でコストを抑制し適地を見つけやすくなり、計画を前倒しで達成できる可能性がある。

 燃料電池車はトヨタ自動車15日に新型車「ミライ」を発売し、15年度中にホンダも商品化する予定。普及には水素インフラの整備が欠かせないため、経済産業省規制緩和に加え、来年度予算で建設費の3分の2程度を補助する予算110億円を要求している。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASDF09H0Y_Z01C14A2MM8000/?dg=1

 

水素ステーションの建設を規制する「高圧ガス保安法建築基準法」などが改正されて、水素ステーションが建てやすくなれば、水素社会への進展は著しく進むことであろう。

(来年に続く、どうぞ良いお年を!)