続・次世代エコカー・本命は?(121)

マツダトヨタからでなく、いすゞからピックアップトラックOEM供給を受けることになったが、これをもってトヨタマツダの関係がうまくいっていないと言えるのかは、疑問のあるところである。トヨタマツダの業務提携は、資本提携ではない。だからそれほど密なものでもないのであろう。しかしマツダからの話に、豊田章男社長の肝煎りで乗った話であったことは、確かな事である。今のところ、いろいろと議論はしているようだが、必要となるものが合致していないと言う事なのであろう。

 

とは言え豊田章男社長のパッションから出た話であれば、トヨタ社内でのこの提携話に対するコンセンサスが、どの程度行き渡っているかと言った疑問は残る。結果として、煮詰まらないうちに話が進んで行ってしまった、と言う事も考えられる。

 

しかしマツダにとっては、トヨタの環境技術は必要となるのではないのか。トヨタとしてもマツダのロータリー技術は、興味をそそる対象となるのではないのかな。

 

 

清水和夫「21世紀の自動車大航海」(819日)
トヨタの環境車技術、世界中のメーカー間で争奪戦か

2015.08.19  文=清水和夫/モータージャーナリスト


トヨタMIRAIトヨタ自動車 公式サイト」より

 513トヨタ自動車マツダ包括的な技術提携が発表された。具体的な内容はこれからということで、メディアの扱いは軽かったが、両社による技術の相互補完は、実はかなり前から進められている。

 その証拠に、すでにマツダアクセラハイブリッドにはトヨタのハイブリッドシステムが搭載されている。トヨタは同システムを提供する代わりに、マツダディーゼルエンジンを採用するという話が水面下で進んでいたが、結局実現には至らなかった。その理由は公表されていないが、筆者の推測ではふたつの要因があると思う。

 ひとつは、開発の視点だ。つまり、他社製のエンジンを積むことに、トヨタの開発システムが馴染まないということである。もし、トヨタディーゼルエンジンの技術を持っていなかったら、マツダからの提供を受けて技術補完を行う可能性もあったかもしれない。

 しかし、トヨタは商用車やヨーロッパ向け自動車に自前のディーゼルエンジンを搭載しているほか、大型車両でも多くのディーゼル車を生産している。その上でマツダの技術を受け入れるとなると、技術者のプライドの問題もあるだろう。また、ディーゼルエンジンを開発するグループ会社の豊田自動織機にも配慮しなければならない。

 それらを勘案した結果、トヨタマツダディーゼル技術の提供を受けないことを選択したのではないだろうか。

 もうひとつは、マーケティングの視点だ。トヨタの判断は、結果的に正しかったと思う。というのは、マツダアクセラハイブリッドは、価格を安く設定したにもかかわらず、アクセラの販売台数の約17%しか売れていないからだ。

 これには、ハイブリッド技術を欲しがっていたマツダの営業担当者も驚いているが、ユーザーはマツダに燃費の良いエコカーを期待していなかったようだ。同様に、ハイブリッドカーを推し進めてきたトヨタが、今さらディーゼル車をショールームに並べても、ユーザーを魅了するのは難しいだろう。

 しかしながら、マツダは今後の市場環境を見据えて、トヨタとの関係を維持したいと考えているのではないだろうか。アメリカカリフォルニア州では、トヨタや米ゼネラルモーターズGM)などの大手メーカーに対して、一定の比率でZEV(ゼロエミッション車:電気自動車燃料電池車など、走行中に二酸化炭素を排出しない自動車)の販売が義務づけられている。

 このZEV規制2018年頃から強化され、マツダも対象となる見込みだ。つまり、マツダがカリフォルニアでビジネスを成長させるにはゼロエミッション車が必要であり、トヨタと組めば話が早いということだ。

 

FCV争奪戦が起きる可能性も


 スバルを展開する富士重工業も、マツダと似たような状況にある。富士重工業は、10キロワットという小さなモーターをCVT(無段階変速機)に内蔵したハイブリッドシステムしか持っていない。同社の主力市場は、カリフォルニアとZEV規制を批准するその他の10州だ。

 ZEV規制対策として、富士重工業トヨタFCV燃料電池自動車が欲しいはずだ。マツダ富士重工業にとっては、トヨタMIRAIの次に販売するFCVOEM(相手先ブランド製造)供給を受けるのが手っ取り早い。同様に、BMWトヨタFCVを魅力的に感じているのは間違いないだろう。

 ZEV規制では「クレジット」と呼ばれる係数が決められ、販売台数に対して達成すべきクレジット基準が定められている。18年以降の新ZEV規制では、BEV(バッテリー式電気自動車)よりFCVのほうが優遇される。300マイル以上の航続距離があるBEVのクレジットは1.5ポイントに対して、350マイル以上の航続距離があるFCVには4ポイントも与えられるのだ。

 これは、ZEV規制を批准するほかの10州でも同じだ。しかも、新ZEV規制では、ほかの州で販売したゼロエミッション車の台数を、カリフォルニアの台数に加算できる「トラベル条項(Travel Provision」があるが、これはFCVだけの特権である。

 この新ルールによって、トヨタ本田技研工業の周辺では「FCV争奪戦」が起きるかもしれない。マツダトヨタの技術提携の背景には、そんな“お家事情”があるとにらんでいる。
(文=清水和夫/モータージャーナリスト

http://biz-journal.jp/2015/08/post_11166_2.html

 

 

何はともあれ、豊田章男社長が音頭を取ったマターは、以上みてきたようにこの三つは明らかにうまくいっていないようにも見える。

 

だから今年の4月の大幅な組織改正が、ものをいう事になるのではないのかな。とは言うものの、豊田章男社長を補佐する役員達の役割も、更に重要なものとなろう。特にヘッドオフィッスの機能やビジネスユニットの各プレジデントの提言などは、今後のトヨタの行く末にとって、とても大事なものとなろう。その点を弁えて、しっかりと提言してもらいたいものである。まだマツダやスズキとの関係や日産のバイオエタノールFCVなどがクリアになっていないが、ひとまずこのテーマはここで終了とする。

(終わり)